見出し画像

民間法制審案を読む3 第3後半

じわじわ

じわじわ

続きを読もう↓

父母の一方が、子を連れ去り、又は子と同居するもう一方の父母を居所から締め出すことで、もう一方の父母の子の監護をする権利(民法第 820 条)又は子の居所を指定する権利(同法第 821 条)を侵害した場合、裁判所は、もう一方の父母の申立てに基づき、もう一方の父母の子を監護する権利又は子の居所を指定する権利を侵害した父母に対し、「共同監護計画」の遵守(婚姻中であれば、暫定的な「共 同監護計画」作成への協力)を命じた上で、その命令に従わない場合には、親権喪失(民法第 834 条)の審判を行うことができる規律を設ける。


(補足説明) 双方が親権を有する父母の一方が、子を連れ去り、又は子と同居するもう一方の父母を居所から締め出した場合、もう一方の父母の子の監護権又は居所指定権を侵害することになる。 その場合、裁判所は、もう一方の父母の申立てに基づき、父母が再び共同で親権(監護権・居所指定権を含む。)を行使できるようにするため、もう一方の父母の監護権・居所指定権を侵害した父母に対し、「共同監護計画」を遵守するよう(婚姻中であれば、離婚を必ずしも前提としない暫定的な「共同監護計画」作成に協力するよう)命じた上で、その命令に従わない場合、民法第 834 条「父又は母による親権の行使が著しく不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」に該当するとし、親権喪失とする規律を設ける。 かかる規律を設ける趣旨について、子の連れ去りは、諸外国のみならず、日本においても、未成年者略取・誘拐罪(刑法(明治 40 年法律第 45 号)第 224 条)に該当すること(令和4年2月 21 日警察庁刑事局捜査第一課理事官事務 連絡、第 204 回国会・参議院・法務委員会第5号委員会(令和3年4月6日)議事録、最高裁平成 16 年(あ)第 2199 号同 17 年 12 月6日第二小法廷判決(刑 集第 59 巻 10 号 1901 頁))や日本が平成6年に批准した児童の権利に関する条約第9条第1項で「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」と規定されていることから、子の連れ去り行為や子と同居するもう一方の父母を居所から締め出したりする行為は、児童の権利を侵害する行為に該当することなどを踏まえれば、当該行為が子の利益を著しく害することが明らかなためである。 とはいえ、子を日常的に監護する父母が、もう一方の父母からの暴力から逃れるため、子を連れてシェルターに入所する場合など、正当な理由があれば、 未成年者略取・誘拐罪の構成要件を満たすとしても、当然ながらその違法性は阻却され、犯罪とはならない。 なお、「共同監護計画」遵守を拒み親権を喪失した父母は、子を「共同監護計画」に記載された居所に戻すことで(婚姻中の場合、暫定的な「共同監護計画」作成を拒み親権を喪失した父母は、子を父母同居時の居所に戻す、又は居所から締め出した父母を子と再び同居させることで)、親権喪失原因が消滅することから、親権喪失の審判を取り消すことができる(民法第 836 条)。 また、子を「共同監護計画」に記載された居所に戻すこと(婚姻中の場合、子を父母同居時の居所に戻す、又は居所から締め出した父母を子と再び同居させること)を拒否したため親権を喪失した父母が子と同居している場合、親権を有する父母は、裁判所に対し、子の引き渡しの申立てができ、その引き渡しが執行されない場合は、未成年者略取・誘拐罪を理由として告訴することも可能である。


父母の一方が、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 (平成 13 年法律第 31 号。以下「配偶者暴力防止法」という。)第 10 条第1項から 第4項までの規定による命令(以下「保護命令」という。)を裁判所に申し立てたときは、裁判所が保護命令を発しない旨の決定をするまでの間、又は保護命令を発した場合、保護命令が失効するまでの間、裁判所は、当該父母に対し、婦人相談所等が提供する父母間の連絡調整及び子の受渡し支援サービスの利用を命ずる規律を設ける。



(補足説明) 父母の一方が、もう一方の父母に対し、配偶者暴力防止法第 10 条第1項に規定する「身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫」を行っていた場合であっても、親権喪失等により親権者としての地位を失っていない限り、「子の利益のために、監護する権利と義務がある」(民法第 820 条)のであり、その監護する権利と義務を制度的に保障する必要がある。 したがって、仮に、父母間に暴力の事実があった場合であっても、当該父母は共同して親権を行使しなければならない。そして、それは婚姻中のみならず、 離婚後であっても同様であり、離婚時には、「共同監護計画」を作成し、離婚後は、その計画を共に実行しなければならない。 
 一方で、配偶者暴力防止法第 10 条第1項に掲げる、父母の一方からもう一方の父母に対し「生命又は身体に危害が加えられることを防止する」ことも重要な保護法益であり、この両者の要請を調整しなければならない。 そこで、父母の一方が、同条第1項から第4項までに規定する保護命令を裁判所に申し立てたときは、その父母の「生命又は身体に危害が加えられることを 防止するため」、裁判所が保護命令を発しない旨の決定をするまでの間、又は保護命令を発した場合、保護命令が失効するまでの間、裁判所は、当該父母に対し、FPIC が現在提供している「連絡調整型」面会交流支援や「受け渡し型」面会交流支援サービス(注21)と同等のサービスの利用を命じなければならないとする規律を設ける。 同時に、父母間の連絡調整及び子の受渡しの支援サービスが全都道府県で 確実に提供されるよう、国は、売春防止法(昭和 31 年法律第 118 号)第 34 条 第1項に規定する婦人相談所及び第 35 条第1項に規定する婦人相談員(困難な問題を抱える女性への支援に関する法律施行後においては、同法第9条第1項に定める女性相談支援センター及び第 11 条第1項に定める女性相談支援員)の業務に、父母間の連絡調整及び子の受渡し業務を追加するなど必要な体制の整備を行う。なお、当該連絡調整及び子の受渡しにかかる費用は全て国が負担するものとする。 以上の法制上の措置を講じることにより、配偶者暴力防止法第 10 条第3項 の「被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされる」状況はなくなる以上、その防止のために規定された同項は当然適用されなく なる。したがって、同項を理由として、父母に子の学校行事等への参加を認めないなどの行為は、制度改正後は許されなくなる。 なお、この法制上の措置を講じることにより、配偶者暴力の被害者であり、かつ、子と別居する父母が、子と同居するもう一方の父母に対し、保護命令の申立てをすることも可能となり、自らの生命又は身体に危害が加えられることを心配せずに共同監護をすることが可能となる。 すなわち、現行の法制度下では、配偶者暴力の被害者である父母が加害者である父母に子を連れ去られた場合、保護命令を申し立てると子と面会できなくなるおそれがあることから当該申立てができない状況に陥る。そのため、被害者の父母は、自らの生命又は身体に危害が加えられるおそれを抱きつつ、加害者の父母と連絡調整及び子の受渡しをしなければならない。しかし、この法制上の措置を講じることで、そのおそれがなくなると考えられる。 また、現行の法制度下では、配偶者暴力の被害者である父母が子を置いて別居を開始した場合、加害者で子と同居する父母により子と引き離されるおそれがある。そのことが、配偶者暴力の被害者である父母が子を連れ去る一因になっているとも考えられる。しかし、この法制上の措置を講じることで、配偶者暴力の加害者である父母に子の監護能力がある限り、被害者である父母が子を置いて別居を開始することが可能となることから、子の連れ去り問題の解消につながることが期待できる。 以上の問題に関連し行政支援措置についても規律を設ける必要がある。配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがある父母から支援措置の申出が市区町村に対しなされた場合、もう一方の父母による住民票等の写し等の交付を制限又は拒否する措置がとられているが(注22)、この措置については、上記の法制 上の措置と整合性をとることとし、例えば、裁判所が保護命令を発しない旨の決定をした後に、市区町村が住民票等の写し等の交付を制限ないし拒否する措置を講じた場合には、当該措置を是正できる規律を設けることとする。 なお、諸外国と異なり、配偶者からの暴力の事実認定を警察などの第三者が 行うなどの規律が日本にはないため、父母の一方が、もう一方の父母の親権を剥奪することを目的として、虚偽の保護命令の申立てがなされているとの批判がある。そのような批判が正しいかどうかはともかく、現行の制度では、虚偽の保護命令の申立てがされる事を防ぐことは困難である。 そこで、配偶者暴力防止法を改正し、裁判所が保護命令を発するにあたっては、警察による配偶者による暴力の事実認定を要件とするなどの規律を設けるべきとも考えられる。 併せて、配偶者暴力防止法第 30 条 で、虚偽の記載のある申立書により保護命令の申立てをした者は、10 万円以下の過料に処するとされているが、これに加え、申立てをした者が子の親権を有している場合には、その者の親権が喪失する規律を設けるべきとも考えられる。なぜならば、親権者である父母の一方が、もう一方の父母の親権の行使を制限ないし喪失することを目的として、虚偽の保護命令の申立てをする行為は、「親権の行使が著しく不適当であることにより子の利益を著しく害する」行為(民法第 834 条)に該当するからである。一方で、配偶者暴力の事実認定を厳格にするとともに、虚偽の保護命令の 申立てをした父母に対し親権喪失の不利益を課すことは、真に配偶者暴力の被害に遭っている父母がその状況から逃れる行為を委縮させることにつながるおそれもある。 そこで、上記の規律を設けることについては、今回は問題提起をするにとどめ、引き続き検討することとする。

いいなと思ったら応援しよう!

弁護士古賀礼子
親子に優しい世界に向かって,日々発信しています☆ サポートいただけると励みになります!!いただいたサポートは,恩送りとして,さらに強化した知恵と工夫のお届けに役立たせていただきます!