教育は、「放つ、待つ、育つ」。
家庭教師の教え子と先日6年越しで再会した。大学卒業・就職が決まり、その報告とあいさつをしに来てくれた。
彼が中学生の時から高校を卒業するまで家庭教師をしていた。中学の時は、勉強は不得意ながらもなんとか取り組んでまあまあの高校に進学した。しかし、高校に入るとなかなか勉強にうまく取り組めなくなっていった。学校でも事件を起こし、家庭でも軽い家出などをして周囲を困らせていた。僕の目の前でも、親子げんかを何度か目撃した。それでも、週1回の僕の授業時間はほぼ欠かさず、家にいてくれた。
何か目標を持った勉強をさせたいと思い、英検対策にも取り組んだことがある。週1回の授業だと埒があかないので、毎朝6時に家庭に行って横にいてやるから、朝起きて勉強しようと提案して、英検の勉強をさせた。僕は、彼のとなりで自分の仕事をしながら、彼の勉強を見守り、たまに質問に答えた。そんな努力の甲斐もあって、英検には合格することができた。でも、勉強に本腰を入れる感じには全然ならなかった。
定期テストごとにのらりくらりとテスト対策をして、点数を取りという勉強内容だった。あまりにも身が入らないので、偉人たちの名言などを引用して、時に、プリントを作って与えたりしていたが、糠に釘。なかなか伝わっている感じはなかった。
大学には進学せずに、就職をするのかなと思っていたら、大学に行くという。大学は北陸にある理系私大。テレビCMでもちょいちょい見かける大学。その大学を調べてみると、面倒見が良いとも書いてあったので、「理系の大学は大変だよ」と告げながら、大学入試対策をした。
入試対策と言っても、自己推薦入試の論文(作文)の添削。何度か夢や目標について一緒に考えたり、高校生活を振り返ったりしながら文章を仕上げていった。ほぼ全入状態だったのか、サクッと合格が決まった。
大学に進学してからしばらくは、数学の講義で出されるベクトルの問題の質問がLINEで届いたので、それに答えてあげたりしていたが、しばらくするとそれも無くなった。彼の大学生活は、SNSなどで垣間見れていた。趣味のゲームや同人会などに参加していた。また、友人関係でトラブルを起こしたり、単位が取れず留年が決まったりしている様子を見ていた。たまにLINEで声を掛けてみても、既読スルーされていた。
大学で留年して、結局、退学した子を何人か知っていたので、この子もその道を歩むのかなぁと残念に思っていた。だが、この子は違っていた。2度の留年が確定したとき、大学を辞めようとも考えていたそうだ。そんな想いも胸にしながら、帰郷して自分の部屋の片付けをしていたら、とあるプリントがでてきたそうだ。
「人生において、絶対に成功しない条件」と書かれたプリントには、こう書かれていた。
これを手に取って、読み直した時に、自分が全てに当てはまり、特に4が今の自分だと感じたそうだ。自分はこのままで良いのか?いや、良くない。どうしたら今のようなクソな状態を抜け出せる?すごく考え、結論は、「高校の数学から勉強し直す」だった。
この紙を、1人暮らし先の冷蔵庫に貼り付けて、高校数学のやり直しをスタートした。恥も外聞も捨てて、2個下の妹に勉強を教えてもらった。
6年越しに会った彼は大きく成長していた。
当時の自分を、本当にクソ人間だったと振り返り、取り組んだ努力の大変さを語ってくれた。大学では化学の研究をして、就活も粘り強く取り組んで化学関連の大手企業に就職が決まった。
彼が進学した大学はとても面倒見の良い大学で、彼の勉強のやり直しにも快く手を貸してくれたそうだ。大学の教授も良い人が多く、いろんな相談に乗ってくれたそうだ。
僕自身、こんなに大きく成長した彼を見れて本当に嬉しかった。再会の時、大いに食べて、大いに飲んだ。苦労した経験も、笑い話として話すことができた。これも彼が苦難の乗り越えたからこそできたことだ。教育の成果はどこで得られるか分からないとよく言うけれど、本当にその通りだと思う。
何がどこで影響を与えるかは分からない。ただ言えることは、目の前の子ども一人ひとりに対して真剣に向き合うことが、活路となりうるということ。前出のプリントは僕が渡したものだったそうだ。僕はその事実を覚えていなかったが、彼は覚えていてくれたのだ。
「放つ、待つ、育つ」は僕が仕事をしていく上で大切にしている言葉の一つ。
放つ・・・考えるきっかけを与え、解き放つ。
待つ・・・相手を信じる。信じ抜く。
育つ・・・文字通り育つ。
僕自身、これがどこまで体現できているかなんて分からない。僕も含めて、みんなもがいている。心の底では、よりよくなりたいと思っている。そこを信じ抜きたいと僕は思う。
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