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【聞香会のアーカイブ】2022年5月25日・六国の会・羅国

このnoteは、香雅堂で行われる聞香会で話された会話の内容を(個人情報に関わる内容を必要に応じて削除したうえで)純粋に記録したものです。企画概要は以下リンクよりご覧くださいませ。
この企画は、お手伝いの方たちの大変ありがたいご尽力によって成り立っております。この場をお借りしてあらためて御礼申し上げます、誠にありがとうございます。
麻布 香雅堂 代表 山田悠介

「会長」ようこそいらっしゃいました。 
「連衆」よろしくお願いいたします。 
「会長」よろしくお願いします。
昨年、六国に関して6回に分けてやってまいりましたが、参 加できなかった方がそこそこおられるんじゃないかということで、継続して開催していこうということにさせていただいて います。 
それで、今回聞香会というか、こういうものに初めてご参加の方って3人ぐらいおられるんでしたっけ。はい。お香はお稽 古とかなさっているんですか、どこかで。 
「連衆」私ですか?組香を御家流の先生から。 
「会長」御家流で。はい。そちらさまは。 
「連衆」私は志野流で。 
「会長」志野流で。はい。 
「連衆」全く何にもです。 
「会長」わかりました。はい。 
今回、ただ、いろいろな香木をクンクンして遊ぼうという会なのでもう全然それ(何流であっても、お稽古をされていなくても)は問題ないので、ただ私の方がちょっと頭に 入れておくと、話す内容がちょっと変わったりもしますので、それだけのことなんですが。
そしたら初めてご参加の方に香木のことをちょっとだけ説明させていただきましょうかね。
香道において香木という場合、大きく分けて3種類に分類されるんですね。 
特に志野流においては、3種類の中でも沈香とその仲間(伽羅を含む)しか使われないですね。 
で、御家流の場合は…御家流と言っても流れが幾つかおありでしょうけれども…御家流の場合は、基本的には他の2つの 仲間、白檀の仲間、黄熟香の仲間も使われます。 
で、どうしてそういうことが起きるかというと、基本的に香道という芸道、これはもう流派があってこそ成り立つ芸道ですか ら、どういう分類でどういう香木を使うかということをお決めになるのは家元であり、あるいは御宗家なんです ね。 
言ってみれば、あの、白いも黒いも、家元が白と言えば白。これを使うと言ったらそうですかということになります。 そういう中で、志野流のお家元がなさりがちな分類のなさり方、あるいは三條西家のご宗家がなされがちな分類の選 び方というふうなものを、ある程度踏まえて、香雅堂なりに六国、あるいは五味というふうなものを、皆さんと一緒に、考察 というほどでもないんですけど、いろいろな香木を聞きながら味わって、ああそうかそうか、というところを目指しているわ けですね。 
さっきの香木のお話ですが、一番重要だと思われて、あるいは一番複雑でめぼしいというのが沈香(伽羅を含む)の仲間です。 元になる植物というのは、それはわかっていまして、ジンチョウゲ科のアキラリア属と言われる植物ですね。ちょっとご覧 に入れます。前にもご参加の方にはお回ししているかとは思いますが、これジンチョウゲ科のアキラリヤ属の植物、まだ4 、5年しか育っていないと思いますが、資料の為にカンボジアのものを切らしてもらったものです。 これを持つと、そんなに軽いようには思えないようですが…輪切りにしたものをついでに回します。
皆さん、お手元消毒なさって いますよね…このままこれを回します。
輪切りにしたものと、それからこの皮(樹皮)を剥がしたものをついでに添えておきます。これを見るとペロペロっとしていますよね。たぶん皮の 繊維がほつれているわけですが、そんなふうな植物ですね。まず、これ、どうしましょうかね(回覧の順序を)ジグザグでいきましょうか ね。 
これね、通常のこういう状態だと香りも何もしないんですね、一切。
こういう部分を顕微鏡で見ると、空の ストローが束になっているような組織なんですね。通常は本当にストロー空なんですよ。ところが、こういう風に樹皮が薄いもので すから、昆虫とかが穴開けたりとか傷つけられたりとかっていうのが容易に起こりうるんですね。 そうすると、そこら辺に浮遊している菌が付着して繁殖を始めるということが起こり得るんです。で、そういうときに自分の体 を菌から守ろうとする。 
植物って動物と違って走ったりできませんから、一旦根付いたらそこから動けないんですよね。だから、動 けないなりに自分の身体を守ろうとする戦略をいろいろ考える。植物なりに。結果として、進化の結果としてそういうことを やってきたグループが生き残ってきたということなんでしょうけれども、このジンチョウゲ科のアキラリア属の植物は、傷が できて菌に侵されようとしたとき、それをストレスと感じて樹脂分を出すということをやるんですね。 で、こういう組織にその樹脂分が充満してくると、もう、もはやこういう組織ではなくなってしまうんです。 ただ、この植物は通常であれば、もう高さが20メートルを超えるような大木に育つんですね。周囲だってすごく大きくなりま す。その中のごくごく一部がそういう変化を起こすということになりますから、ジンチョウゲ科のアキラリア属の植物が森の 中で見つかったとしても、そこに香木があるかというのは全く定かではないわけですね。
これもお回ししますね。で、自分の体を守ろうとして樹脂化させるんですけれど、樹脂化した部分というのは、もとの健康 だった部分が寿命が来て枯れて、例えば倒れてバクテリアに分解されてなくなるとしても、その中に香木となった部分が 残されていれば、そこは朽ち果てないですね。結果として、香木の塊が後の世で発見されるという風なことがあったんだろうと。だから、我々が ちょっと簡単に探しに行ったりとかできるようなところではないものですから。ありがとうございます。 どういう風にして香木が発見されているのかというのは、つぶさには知らないんですけれども、ただ、こういった風なもの の中の一部に香木というのがあって、それがたまたま後の世で見つかるという風に、そういう過程が一般的だったんだろ うと思います。ちなみに、ついでにですが、黄熟香と言われるのはジンチョウゲ科はジンチョウゲ科なんですが、その次(種)が 沈香や伽羅とは違うという風に考えています。ジンチョウゲ科のアキラリア属ではなくて、ジンチョ ウゲ科のゴニュステュルス属、ちょっと舌噛みそうですけれども、 
ゴニュステュルス属は、アキラリア属と並んで、ワシントン条約の付属書Ⅱに記載されています。
これを回しましょうか。 この黄熟香というのは、私の経験上、見つかるのはインドネシアです。
で、正倉院に納まっている蘭奢待と言われる香 木、ちょうどみなさんにチケットを差し入れていますけれど(特別展「香道の世界」の割引券)。 
本当は今日も打ち合わせ会議に出ないといけなかったのを勘弁してもらったんですが、はい。世話人になっていて。
その蘭奢待献香式で焚かれることになっていますが、蘭奢待もいろいろあって、正倉院のものは黄熟香です。 伽羅でもないし、沈香でもない。炷いてもそんなにうれしくない。
ただ、いろいろな 蘭奢待の中で本当に素晴らしい蘭奢待があります。 
それは、源頼政が所持していたと言われるやつですよね。あれは本当に素晴らしい。もう、本当に素晴ら しい伽羅ですね。 
これ、今回28日に(蘭奢待献香式で)焚かれるんだと思いますけれど、 
「連衆」〈そちらのいい香りのをですか?献香式で炊かれる?聞き取れず〉 
「会長」はい。恐らく家元はご自身の身を切る思いで…。炷いたらもうなくなりますから。元々、ちょっとしか残っていないも のを… 
そんなのいいんかいな?と思いますけれども、多分御家元一世一代のことだと思います。 
もう、私が知る限り、御家元のご当代で献香式で蘭奢待を炷かれたことってなかったと思います。後 にも先にも今回だけじゃないかなと思いますね。 
「連衆」この源頼政の蘭奢待は黄熟香じゃなくて? 
「会長」バリバリの伽羅です。 
「連衆」伽羅。 
「会長」本当にすごい伽羅です。あの、畠山記念館に、実はお持ちなんですね。 
たまたま買ちゃったっていう感じなんですけど。当時の学芸部長さんかな、学芸員の方が見てくれって言われて拝見した ら、それは本当にほんまもんの頼政所持というか。「蜂谷家に伝来している蘭奢待と同じものに相 違ない」という極状がついていますね。畠山記念館のは。 
「連衆」あの、すみません。(回覧中の沈香樹の一部を指して…)その黒いところが樹脂、樹脂化したところですか? 
「会長」いや、違うんです。これは、カビか何かかな?って思います。樹脂は出てないはずです。輪切りにした時 点で樹脂は出ていなかったので…育っていた樹木を切り取った後に樹脂が出てくるということは考えられませんからね。 
何かご質問とかあったら、その場でどうぞ。おっしゃっていただいたらわかる範囲でお答えしますが。
「連衆」すみません、また。蘭奢待はその正倉院のと源頼政と、あとこの他にも蘭奢待というのは? 
「会長」あるみたいですね。あるみたいというのは、私は徳川美術館の前の副館長だったのかな、大河内さんという方が おられて、その方と昔よくお話ししていたのですけれど、その方曰く、徳川美術館には蘭奢待と言われるものが4種類ぐら いあると。 
「連衆」4種類も? 
「会長」はい。ただ私つぶさに、これとこれとこれとこれという風にして全部見せてもらったわけではないんですけれど、4種類ほどあると言われていますので。
「連衆」蘭奢待の振り分けというのは、どういう基準で蘭奢待に? 
「会長」えっと、振り分けというのは? 
「連衆」振り分けというか、蘭奢待という名前の由来っていうんですか、どうして『蘭奢待』に? 
「会長」ああ、知りません。誰が名付けたのかも。正倉院に入っているあの木は、もともと黄熟香て書いてあったんです ね。それでいつの間にかそれが、いつ正倉院に入ったかもわかっていないんですけれど、いつの間にかそれが『蘭奢待』と 書かれていたということだと思います。 
「連衆」ああ、そうですか。蘭奢待が4種類とか、その、蘭奢待というものが何なのか、というところがよく分からないんです けれども。 
「会長」あの、美術館にしてみたら、収蔵品に『蘭奢待』って書いてあるやつがいくつかあって、こっちとこっちは同じじゃなさそう、ていう 風なことですよね。はい。 
で、『蘭奢待』っていうのがそもそも、何が本当の『蘭奢待』なのかという風なことはない訳で、『蘭奢待』って書かれているも のは一応香包や書付に書いてあるから『蘭奢待』だと。 
「連衆」私はあの正倉院のあれが『蘭奢待』なのだと思っていたので。『蘭奢待』という名前が付いているものが、この世に幾つ かあるという。 
「会長」幾つか存在するんですよ、何が元かも分からない、分かっていないんですね。 
「連衆」そうですか。 
「会長」はい。 
「連衆」有難うございます。 
「会長」いえいえ。明らかに一番有名な『蘭奢待』は正倉院のものです。私はほしくないですけど。頼政の蘭奢待はいくらでも 欲しいですけど。
 
白檀はよろしいですよね。いきますか?一応。ちょっと今見たらオーストラリアの白檀とアフリカの白檀というのがあるん で。これはオーストラリアの白檀ですね。白檀はもうビャクダン科ビャクダン属ですよね。だから、1種類しかない。ところ が、産地によってかなり性質が違います。クンクンしていただくと香りも違っていると思いますが。これはアフリカの 白檀。 
「連衆」白檀ていうのは、こういう茶色いところもあるんですね。 
「会長」はい。そういう芯材なんですよ。 
色がついているところが芯の部分で、その周りに白い部分がついているんです。通常香木資源としては、周りの白太を全部はつり落としてしまう。 
で、落としてしまって、その芯材を利用すると、これね、この板になっているのは、数珠の玉を作るために製材してあるん です。それで、白いところも含めて、なるべく効率よくたくさん取ろうと思って、一律製材しています。 
「連衆」ということはここを? 
「会長」そうです。ここを使うんです。 
インドの、ちょっとちっちゃいけどありました。これインド産です。 
「連衆」全然木が違うんですね。 
「会長」はい。まああの、好みもありますでしょうけど、一般的にはインド産のものが一番好ましい香りを出してくれる。で、沈香、伽羅と違うのは、その色が付いているところは樹脂分ではなくてオイル分です。オイル。だから、白檀 系の植物はエッセンシャルオイルが取れます。
「連衆」何となくここに油か何か樹脂や光っているところがありますね。 
「連衆」アフリカ、アフリカ。
「会長」それは関係ないですね。ちょっと汚れているだけみたいな感じで、どうもすみません。 だいぶ長いことその状態で年数が経ているので、だいたいこれだと年輪の細かさからすると、たぶんこれぐらい(手を広げて直径を示そうと…)ある。芯 材が。芯材がこれぐらいあるということは、その周りに白太がありますから、その直径はもう何10センチにもなる大木です ね。そうじゃないとね、あんまりいい香りしないんですよ。 
「連衆」そうなんですか。 
「連衆」これいいですね。いい香りする。 
「会長」白檀は、白檀が見つかれば、その芯材を取り出せば香木としてそのまま使えます。どこの産地でもそれは一 緒ですね。インドは一番品質いいと思いますが、それ以外に今のオーストラリアとかアフリカとか、それからいろいろなとこ ろで、ミャンマーとかでも白檀は育ってます。 
昔は産出量は多かったですから、いっぱい日本に、我々うちの京都の店なんかでも年間に何トンと入れていましたから。 豊富にあって。だから今でも価格はわりとこなれていて、そんなに高くないんですが、どんどんどんどんやっぱりなくなって きたんで、最近では、もう本当に貴重品になっていますね。扇子なんかでも本当に作ったら5万円10万円ではできなくなっ てしまった。何十万円に。はい。 
「連衆」中国のお土産。 
「会長」中国土産の白檀は、使っているのがインド産ではないことが多い。台湾の白檀とか、インドネシアの白檀とか使う ので、あまり白檀らしいいい香りがしないんですよ。それで人工的に匂いをつけて。化学合成香料で。だから最 初のうちはすごく強烈にちょっと甘い匂いしますが、すぐなくなってしまう。 
あれを白檀の香りと思っていると、大きな間違い。あれは合成香料の匂いですから。 〈聞き取れず〉とかで何かご質問とかございます? 
もし何か疑問に思われることありましたら、またおっしゃっていただければ。 
香り違うでしょ?ね、オーストラリアとアフリカと。 
よく数珠屋さんで栴檀の数珠とかいって売られてるのは、だいたいアフリカの白檀ですね。栴檀というのはイコー ル白檀だと考えても大丈夫なんですけれども。「栴檀は双葉より芳し」というあのセンダンですよね。 それはほぼ白檀のことを言っていますが、栴檀の数珠といったらいかにも白檀の数珠ということで間違ってはいないし、 嘘をついてはいないんですが、使っているのは、まあ白檀を使っていることもありますけど、栴檀の数珠という場合は結構こ れ(アフリカ産の白檀)を使って… 
「連衆」初めて拝見しました。 
「会長」あ、そうでしたっけ。 
「連衆」私、すごくいい芯がなってるって知りませんでした。 
「会長」不思議なものですが、あの、白檀も人工的に増やそうとして、インド政府は頑張ってやっていますが、植林を。白檀 は、花も咲けば、実もなる植物なんですよ。で、私やってみたことあるんですけど、インドから苗とかを送ってもらったら、税 関で全部土を落とされちゃってアウトなんですよね。いろいろやってみたけれど、種子を植えたら発芽しました。 
「連衆」栴檀の木は、うちはあります。 
「会長」違います。 
「連衆」それは本当は、オウチって木です。 
「会長」はい、オウチとかコノデガシワとか、そういう植物が栴檀とか、白檀とか言われがちです。そうですよね。 何言ってましたっけ、私。 
「連衆」発芽したまで。 
「会長」あ、そうそうそう。発芽しました。京都にまだいたころですけど、京都のベランダで温室みたいなもの、ちっちゃいの あって、そこに植木鉢に蒔いたら3、4本発芽したんですね。 
「連衆」白檀はどうなりました?
「会長」発芽して、栴檀は双葉より芳しというから、双葉の状態で香りするのかって思いますよね。でも実際クンクンしてみ ましたけど、双葉の状態では全く香りなんか出ないですね。で、ある程度まで育つと白檀というのは、実は半寄生植 物なんですね。寄生。根っこから他の植物の根っこに寄生して、養分を頂戴して大きく立派に育つ。だから寄生する相手 がいないとうまく育たないんですね。だからちょうど大阪で花の万博、花博というのが開催されてた頃で、花博 に結局寄贈してしまいましたけども、自分のところでは育てきれないと思って。 
白檀と思われるのが今生育している例は、日本国内ではもちろん自然には育ちませんから。小石川植物園にま だ育っているはずです。最近知らないんですけど。そこに1本あるはず。 
「連衆」大きい木ですか? 
「会長」えっとね、これ私が知ってるのはこれぐらいの太さですから、今だったらこれぐらいになっているかもしれないですね。 はい。 
それでは、これもまた何かご質問があったら、その都度お願いしますね。 
ではメニューに入りますね。 

そもそもなぜ六国の聞香会やろうかというふうに考えたかと申しますと、先ほどちょっとお話ししたように香道で使われる 香木、どう分類するかというのは、それは家元とか御宗家の勝手なんですね。そこに合理的な理由とか何もないんです。 だから、客観的な基準が存在しないですね。 
そういう中で家元は、ではどういうふうに分類の判定をされているかといいますと、それはやはり代々継承されている規範 のようなものが存在するわけですね。それの証拠となるようなもの、手本木とか手鑑とかといいますが。手鑑って図鑑の 鑑ですね。 
そういったものが存在しまして、家元、御宗家は何かあるとそれに立ち返って確認をして、判定を下されるということ であろうかと思います。
一方で、世の中で皆さんが手に入れることができる香木、それは どうなっているかというと、別に全て家元が監視されているわけではないんですね。
店が勝手にやってることの方が多い です。で、唯一我々がやってきたことは家元にお願いをして、この香木に木所の分類と、それから味、位、を付与してください、という風にお願いをするんですね。 
味というのは五味のことですね。五味のどういう味がこの香木は持っているか、それをどういう順番で出してくるかというな ことを教えてほしいって言いますかね。お願いをするわけです。そうすると、家元は、はいはいということで、だいたい春夏 秋冬1年ぐらい…香木聞くのってその今日の今一瞬だけでその香木の本質がわかるかというと、わかりにくいんですね。 だから、一つの香木のこれは、どういう分類でどういう味を持っていて、どれぐらいの品質の高さかということを、ある一定 の期間だけでは、なかなか判断しにくいところがあるわけで、ですから、我々がこれ「極」お願いしますって申し出たら、大 体1年間ぐらいはいろいろなタイミングで試し聞きをされて、確かめながら最終的にこうだというふうに判定をしてくれるん ですね。
そういうことを何度か繰り返しています。 
そうすると、我々にしてみたら香木屋ですから、香木は専門なんですよ。それを使う専門は家元ですけれども、こっちは香木 の専門なので、これがどういうところでとれる木で、どの程度の品質でといったことはこちらもわかるわけですが、そういう 中で、こういう産地のこういうタイプのものは、これは家元はこういう分類をされるんだということを学んできているわけで すね。 
御宗家でもそれは同じことですが、そういう体験を通じて、志野流の六国の分類、あるいは五味の判定という のはこういうところとちゃうかいな、というのは何となくつかめているわけですね。 
そういった風なものに基づいて香木を自分たちなりに分類して販売をするということになるわけですが、基本的 には沈香、伽羅で使われている、香道で使われているものって産地は3つしかないんです。ベトナムとタイとインドネシア。 マレーシアとか、カンボジアとかでも沈香はとれるんですが、香道で使われているのはあんまり見 たことないですね。なぜか知らないけど。 
インドネシアと言いましても、めちゃくちゃ広くて1万、1万3000ぐらいですか、島があるわけですね。我々の言うインドネシ アというのは、ボルネオ島です。ボルネオ島のインドネシア領、カリマンタンですね。そこの沈香が志野流では、佐曽羅あ るいは寸門多羅に使われます。
それから伽羅と羅国。これはベトナムで見つかります。 伽羅がベトナム以外で見つかったのは、私は聞いたことがないですね。 
不思議なんですが、カンボジアと国境を接していて、昔25年間かな、ポルポトが支配していて入れなかったところにポル ポトが撤退してすぐに人を送り込んだんですが、沈香は見つかったんですけど、伽羅は全然なかったですね。なぜ、そう いうことになるのかがちょっとわかりませんけれど。 
それからもう一つの産地はタイですね。六国でいうと真南蛮と真那賀、これがタイですね。いわゆるシャム沈香と我々が 言うやつですね。
歴史的な名香の欠片を見ていても、大体そこら辺(ベトナム・タイ・インドネシア)のどれかに該当するという風なことが多いんですね。 
だから、逆に木所の判定を我々が我々なりにやる場合は、産地から逆に考えることが多いですね。ベトナムから来ている のだったら、香木として香道に使えるレベルであれば、羅国であろうと最初はそういう風に考えるわけです。
「連衆」すみません。香木なんですけれど、外から見たときには香木かどうかわからないんですよね。
「会長」何から見たら? 
「連衆」外側。 
「会長」あ、外側ですか。もし原木(沈香樹)があったとして、その中に香木があるかどうかというのは外からはわからないですね。分 からない。 
「連衆」そうですよね。そうすると、先ほど産地に入られたとおっしゃっておられたんですが、産地に入ってたくさん木がある 中で、まあ白檀だとして、どれが香木かというのは切って中を見ないとわからないということですね? 
「会長」今、白檀とおっしゃいましたか?白檀なのであれば、白檀は外からわかります。 
わかりにくいのは、沈香とか伽羅のもとになる植物ですね。 
あの、いわゆる沈香樹というふうな言い方を私なんかはしていますが、それは健全な木を見ても中に香木ができているか どうかはわからないです。 
「連衆」そうすると、もうどんどん切ってしまうということでしょうか? 
「会長」いろいろなケースがあって、大昔は多分、そんなことはしなくても香木らしきものが例えば土の中とか、土の上とか で見つかるということがあったと思います。 
で、今は栽培したりしていますから、そういう原木にみんなね、ドリルで穴を開けて、そこに何か刺激物を入れるんで すよ。それで、それをきっかけにして樹脂分を出さそうとしてやることも今だったらあります。 
「連衆」わかりました。 
「会長」だけど、そういうやり方で得られる沈香、伽羅は大したことがないんですね。 
伽羅の栽培も今、始まっていますが、やっぱりちゃんとした伽羅はできるんですけれども、まあ本物(山の中で見つかっ た昔のもの)に比べるとだいぶ品質は違いますね。 
昔は、昔の本には、沈香の原木が見つかったとして、そこに沈香ができているかどうか分かんないから、昔の人は蛇が巻 き付いている枝とかがあったら、そこは中に沈香ができているからヒヤッとする。だから、ヒヤっとして気持ちいいからヘビ が巻きついている、そこに矢を射っておいてヘビがいなくなってから、そこで採集したとか、そういうまことしやかの話があ ります。はい。 
確かに、中に香木ができていれば、普通の組織よりはもしかしたらヒンヤリするのかもしれないですね。だいたい産地っ てみんな東南アジアの山の中ですから。 

(ようやく最初の香木を炷き出す準備を始めて…)
我々なりに分類をした六国というものがあるんですけども、それが絶対的なものではないにせよ、近年、どうも世の中の 様子がどんどん変わってきているという風に感じてきたわけですね。 
というのは、これは羅国じゃないだろう、あるいは、こんなの真那賀じゃないだろうというものが販売されるようになってき ているんですね。真南蛮もそうです。 
それはいろいろな事情があるのかもしれませんが、特に羅国、真那賀に関しては、伽羅が売られていることが多くなって きています。このもう十数年ぐらいからですかね。 
想像するに、羅国というベトナムの沈香ってそんなに豊富には見つからなかったりするんですね。だから、どうしても売るものが少なくなってくる。だけど売らないわけにはいかないからということですよね。 
だからどうしようかというので、これだったら羅国としていけるんじゃないかしらというような伽羅を、言ってみれば伽羅らし くない伽羅、堂々とした伽羅とは言えないような、まあ伽羅。それを仕入れたのは伽羅として仕入れて沈香として売るのは 勿体ないけれども、羅国として売ろうと。言ってみればそういう風なことがあるわけですね。 
それは私の京都の実家にそういうことがあったので実例で、想像ではないです。真那賀もそうです。だから、ど んどん貴重なタイの沈香とか貴重なベトナムの沈香とかというのはやはり少なくなってきた。 それに比べると、しょうもない伽羅の方がはるかにいっぱいあるわけです。そういうことが起きてきてますね。 だから、それがまあやむを得ないことなんでしょうけれども、だけど、やむを得ないかもしれないけれども、だけどちゃんと した沈香の羅国、あるいはちゃんとした沈香の真那賀がまだ何とかある間は、そっちを使った方がいいんじゃないかしらと いう風なことがあり。

それともう一つは昔から香道をなさっている方は、もう記憶の中に羅国はこういう香りという ものがあるわけですよね。真那賀というのはこういう香りだと。そういうものをお持ちの方がお香の席に今どきに入られると、例えば御家流の場合 だったら、最初に今日、こんな組香で、こんな香木が出てきますよというのが紙に書いてありますよね。 そう、羅国があって、真那賀があって、伽羅があって、て風にして。 
ところが、いざ香席が始まってみると、全然羅国が出てこないとか、伽羅しか出てこないということがあるわけですから。本 当にそうなってくると、わけがわからなくなってきて、そういうことがふえてきておりますし、そういうこともあって…
もともとの分類の基準になるべく近い香木というのをちょっと味わってみようかなというのが、もともとの趣旨でもあったん ですね、一つには。 
一応これまたお回ししますが、袱紗で持っていただいて、それでご覧いただければと思います。
いろいろなベトナムの沈香の中で、これは『仮銘 雪間の草』というのから今日は始めますが、比較的樹脂の、樹脂化の浅い、 あまり樹脂化が、何て言うんですかね、高度に進んでいないと言いますか。そんなに樹脂化していない木です。 だから、当然、香りがボヤっとしてますね。で、これを最初にお回しするのは、こういうボヤっとした中で、意外とガッツリと 羅国らしさを出してくるという木なんですね。 
『雪間の草』という仮名を付けてますけれども、この仮名というのは、店で管理するのにあった方がいいので、1とか2と か、AとかBとかというよりは名前を付けちゃった方が後々分かりやすいので、仮の名前を付けてます。 で、これは香木炷いたときの感じに何か似つかわしいかなという歌を探して、そこから仮名を取ってますが。 ただ、歴史的な名香の名前とかぶることがあるので、それは本当に申し訳ないんですけれども、そこまで全部調べずに やってしまっているので、ですから、あくまでも仮の、仮名ということで。 
すごい秘密兵器を…(と、精密な温度計を用意し始める)
あの、いつも、ここでは電気香炉を使わせていただいています。これはもう加熱する温度が一定に保てるという良さがありまして。その特徴を生かして、この聞香会ではいつもこの電気 香炉を使わせていただいています。 
何度ぐらいで加熱しているのかなというのがいつも気になるんですね。で、今回記録しておこうというので、この表面の温 度を測れる温度計をいろいろ探しまくったんですが、なかなかいいのがなくて、で、最終的にこのアンリツという会社の温 度計が、これがいけるということで、ちょっと今日やってみますね。 
-200度から1370度まで測れるという。ただ、このセンサー、いくつかセンサーがあって、このセンサーだとそこまで高温は 無理かもしれませんけど…
 
(電気香炉を持って)これ京都で開発してもらったやつですが、これの真似っこみたいなものが中国でいっぱい出ているんですよ。 それはね、これよりも進化していて、温度表示が出るんです。100何度とか、それでダイヤル合わせて自分の好みの温度 に設定することができるんですよね。 
私もそれ中国人から貰って幾つか持ってるんですけど、今度一回これを使って表示温度がちゃんと合っているかど うか調べてみようと。 
普段聞香炉で聞香する場合に、火加減をどうやってみるかというのが大問題ですが、昔あの火味見というもの があって、炭団のてっぺんまで、どれだけ距離があるかというのを一定にするような道具ありますが、それもまあ、一つの 案だろうと思いますが、そんな炭団のてっぺんまでの距離を一定にしたからといって、いつも火加減が一定にできるかと いうような、そんな単純なものでもなく。私が教わったのは銀葉の温度を指のここで測る。実際にこれを触れて、どれだけ 熱いかで判断するというのを教わりました。それは志野流の先生ですけれども。
ただ、その感覚って、じゃ、どれぐらい熱いのかというのは、それが言われたのは、こう手首をよけるぐらいの熱さではだ めで、ここから動くぐらいの熱さみたいな。でもここの感覚の問題ですからね。人それぞれですから、それもちょっとほんま かいなて感じですが、でも、そういう教え方をしている方がおられました。 
では、これが何度ぐらいかというのをちょっとやってみたろうかと思っています。で、これまで何回かここで聞香会をやって いて、やっぱり部屋の湿度によって全然違うんです。火加減が。これが適温だというのが、湿度によって随分影響されると いうことを経験してきましたね。 
今日は室温が25.5度。で、湿度がこれが問題なんですけど、今44%ですね。 
これまで一番条件が悪かったのが20%を切っていましたから。本当にもうカサカサっていう感じで。えっとですね、この『仮銘 雪 間の草』」というのが、さっき申し上げたように、そんなに樹脂化が進んでいない木なので、香りがわりとほのかなタイプで すね。で、これに適切な温度ってこれくらいかな、ていうのを今、測ってみたら148度ですね。いや、ごめんなさい、141で すね。141度。これでちょっと実際に香木を乗せてみて。 
『仮銘 雪間の草』です。これでジグザグに行って向こうへ行ったら、また帰ってくるということで、お願いします。 羅国・雪間の草・1回目・141℃ 
「連衆」やはり、炷いたほうがよくなりますね。 
「会長」うん、沈香は常温だとあんまりわからないですね。 
「連衆」すごくいい羅国ですね。 
「会長」あの、羅国っぽいですよね。 
「連衆」そうですね。 
「連衆」その木なんかはどのぐらいの大きさなんですかね。やっぱりこんな大きいんですか?
「会長」もともとの塊ですか?これは2.5キロありました。めちゃくちゃ大きかったです。
これは『春吹風(はるふくかぜ)』という仮名ですが、『春吹風』に関しては、もうまだまだ先、何十年でも大丈夫。なくなりま せんから。珍しいです。 
「連衆」そんな大きかったんですか。 
「会長」はい。大きかったです。 
これ、後でご覧いただけたら分かるように、ここって、こぶしが出ているんですよね。だからここはほとんど使えないんです よ。 
木目が〈聞き取れず〉、ここら辺は綺麗に目が通ってますけど、こっちは全然使いにくいですね。だから、2.5キロあっても 全部使えるかというと、そんなことはなくて。多分1キロぐらいは使えないところだと思いますね。 それであの、この電気香炉を今、ブルーの点が見えると、使えているという印で、これが消えてしまったらもう切れちゃって ますから。一応安全のために15分で切れるようになっているんですね。だから、もし気づかれたら、おっしゃっていただい て。そうしたらスイッチ入れ直しますので。 
「連衆」よく伽羅が少し低めの温度がいいとか、聞くんですけれども、羅国はどのくらい、低いとか高いとか、やっぱり低 め? 
「会長」他の沈香に比べてですか? 
あのね、必ずしもそうも言えないですね。あの、今141度と申し上げましたよね。 
それはこの『雪間の草』が比較的樹脂化の密度が浅くて、そんなにはよく立たないタイプの木なので、高めに設定していま す。ところが、樹脂化の密度が濃いといいますかね、そういう部分だともっと低い温度でよく立つようになりますから、これ ばっかりは千差万別です。 
「連衆」じゃあ、香木によってというよりも、その木を見て、樹脂分が多そうだなという時が低め? 「会長」そうですね。 
「連衆」というふうに、大まかには思っていた方が。 
「会長」そうですね。はい。で、樹脂が多いからといって、今度樹脂の性格がやはりありまして、揮発性の高い樹脂と、そう でもないやつがあるんですよね。で、さっきおっしゃった伽羅は比較的揮発性の高いのが多いんですよね。なので、おっ しゃる通り低めの方が無難ですね。まず低めから始めるというのが無難ですね。 
「連衆」わかりました。 
「会長」温度が高すぎるともったいないので。おそらく、低い温度でしか出ないような気(香気)というのもあると思いますので、そ れをいきなり高く始めてしまうと低い温度でしか出ないやつが聞けなかったらもったいないということですよね。 
「連衆」例えば、ですけれども、先に低い温度で焚いて、そこそこ十分に楽しんだなと思ったら、ちょっと高い温度にしてみ ようかなとかそういう楽しみ方もありという? 
「会長」ありますね。よくここではそれをやっています。 
「連衆」そうですか。 
「会長」2、3周回して、では、もうちょっと上げてみましょうかって。そうすると、また変わってきたりもしますので。いろ いろ楽しめて面白いです。 
「連衆」 さっきの蘭奢待の話をしてもいいですか? 
「会長」はい、どうぞどうぞ。 
「連衆」さっき正倉院のは黄熟香だとおっしゃいましたよね。源頼政〈聞き取れず〉のは伽羅はとおっしゃいましたね。そうする と、源頼政の蘭奢待は正倉院の黄熟香から切ったものではないという風に理解していいんでしょうか? 
「会長」はい、その通りです。両者は全く違いますね。
その、頼政公の所持と言われるのが、そもそも本当かどうかというのも知らないし、それにいつ『蘭 奢待』て名前がついていたものかというのも存じ上げませんが、両者は全く違いますね。 
「連衆」それはみんな見たことあるんで、源頼政の。だからあれと違うというのは見た目で、 
「会長」全然違いますよね。はい。 
「連衆」分かるんですけど、どっちも蘭奢待って言われているので、そういう風に理解していいわけですよね。違うとね。 「会長」はい、そう思います。はい。明らかに別物ですね。 
「連衆」有難うございます。 
「会長」頼政の所持と言われるような伽羅の蘭奢待がこんなにあったら素晴らしいんですけどね。 「連衆」東大寺という名前がついているものと、蘭奢待が同じっていう風なの説も聞いたことがあるんですけど、 
「会長」 はい。言われますよね。 
「連衆」ええ、それは別物なんですか? 
「会長」いや、本当は知らないんです。 
蘭奢待っていう字の中にね、東大寺が隠されているんだという、何かこう本当に聞いた風なような説があって、確かにそう なのかもしれませんが、実際のところはわからないですし、私が存じ上げている東大寺は蘭奢待とは違いますものね。実 物はね。なので、そこら辺のこともわかりませんし、香木に関しては、本当に、いい加減とは言いませんけど、わからない ようなことばかりなので。はい。いろいろ尾ひれがついたりとか。もっともらしく伝わっていたりとかね、いろいろあって。 
「連衆」東大寺は伽羅なんですか?伽羅は伽羅なんですか?東大寺というのは。 
「会長」いや、そんなに私が見たところ、そんなに私が見たやつはいい伽羅のようには見えないんですけどね。 今はまだ香炉回っていますが、次の『仮銘 春吹風』という2番目の羅国を回します。 
これはあの、今、ちょっとお話ししていましたけれども、もともと2キロ500以上あった、ベトナムの羅国の沈香としては非常 に異例な大きさですね。当然いろいろな場所がその一つの木の中に含まれていて、使えるところもあれば使いにくいとこ ろも混ざっているというような状態ですね。 
これは樹脂化の進んでいるところは真っ黒黒に見えますし、白っぽいところは全然樹脂化していないようなところも含まれ ていますし、割れ目には水が入ったような跡があったりもしますし。まあ、どうぞ、『仮銘 春吹風』です。 
羅国・春吹風・1回目・123℃ 
「会長」これは今、『春吹風』は123度ぐらいで始めてます。ちょっと低くしています。香木の写真はどうぞご自由に撮ってく ださい。 
この『仮銘 雪間の草』の香炉が返ってきたのを測ると、150度ぐらいでしたね。ちょっと高くなってますね。 『仮銘 雪間の草』ってこれ、ボヤっとした木ですけれども、結構香りしっかりと出てますね。使いやすいですよね、わかりやすい 羅国だと思うんですね。 
「連衆」あの、昔の武将が戦に行く時に兜にこう、忍ばせた、焚き染めた?ちょっとよく分からないのですが、どんなふうに して行ったのかなっていうのがもし、 
「会長」本当ですよね。 
歴史学者かな、よくテレビに出ている磯田さん。あの人がそれまさしく疑問に思って、で、志野流の次期お家元、今の若宗匠ですよね、にその話をされたことがあって、そしたら若宗匠が、じゃあ、香雅堂さんに頼んで やってみようという話になって、新橋の料亭で若宗匠が新年のお初香をなさる時にやったんですよ。 
「連衆」やったんですか。 
「会長」磯田さんという名前でしたっけ。磯田さん、あの人が兜をどこかから借りてきて、若宗匠がお持ちの伽羅 の欠片を持参されて、香炉で焚きました。
「連衆」香炉で兜に焚きしめる感じですか? 
「会長」ええ、香炉でブワッと焚いて上から兜をのっけて、香りを兜の中に焚きしめたんですね。ところが、火が強 すぎて煙ってしまっていたんですよ。 
で、兜をクンクンしたら、煙っぽくて。そういうやり方を試したのは、磯田さんが多分そうしたんだろうというような お考えでそうしていました。 
「連衆」そうですか。 
「会長」ちょうどテレビで真田丸とかやっていた時期で、ついでに堺雅人さんとかも来たんですよ。杏さんも。 残念ながらあんまり結果としては、ぱっとしなかったですね。我ながら。 
「連衆」でも焚きしめていたんだとしたら、この新田義貞公とかが蘭奢待だったとか、そういうのが文献によってわかるとい うことですかね、兜に忍ばせていたのかなとか勝手に思ってたんですけども。 
「会長」はい、あの、忍ばせただけではあんまり香りは出ないですね。 
「連衆」ああ、では両方、忍ばせて、焚きしめて行ったのではないかという。 
「会長」そういうこともあったかもしれませんけど、いずれにしてもそれって首取られた時の話ですからね。首取られた時 に、いかに自分を良く見せるかという話ですから、基本的には。だからいろんなことをなさったのでしょうけれどね。
「連衆」有難うございます。 
「会長」いえいえ。伽羅はもう引き粉だったら、常温でかなり香りは出しますけどね。 
それで、メニューの中に伽羅を入れてますが、これはですね、これが羅国っぽいという意味ではないんです。あの、な ぜ、その六国の羅国として…いいですか、お話のところを済みませんいいですか。 
なぜ羅国として伽羅を使われると困るのかという風なことをちょっとなるほどと思っていただければと思って、このメ ニューの中に伽羅を入れています。これが羅国っぽいですよ、という意味ではないです。 
で、聞いていただきたいのは、ポイントはどこかというと、伽羅が持っている味というものは、沈香が持っているものとは違う、ということをわかっていただきたいんですね。
同じ甘いでも辛いでも、伽羅 が持っている甘いと、羅国が持っている甘いは違うと。そこがもし、その違いになるほどと思っていただければ、幸いとい う、そういう話なんです。 
で、今お回しするのが『仮銘 波路の舟』という伽羅ですが、これは伽羅の中でもいろいろなタイプがある中で、比較的、何と言いますかね、そんなに伽羅伽羅していない伽羅です。何と言っていいのか。 どういう分類があるかというと、塊を外から見て何となく緑っぽく見えるものというのは緑油伽羅。緑の油と書いてリョク ユキャラという言い方をしますし、黄色っぽく見えたら黃油(オウユ)。紫っぽく見えたら紫油(シユ)。黒っぽく見えたら黒油 (コクユ)。それっぽく見えるというだけの話なので、絶対的な基準があるわけではないですから。これはこの『仮銘 波路の舟』 というのが、今のどれにも当てはまらなくて、恐らく鉄油(テツユ)というやつだと思います。鉄の油っていうやつね。 
「連衆」鉄油っていうのは鉄色なんですか?そういう訳ではないんですか? 
「会長」あの…みんな、っぽいですね。 
何となく緑っぽく見えるとか、何となく鉄色っぽく見えるとか。そんな感じです。人によって、それは見方なんて様々ですか ら。 
ところがですね、ところが焚いてみると、鉄油には鉄油なりの特徴というのが見受けられるのですね。 緑油はいかにも緑油っぽいというのは香りで分かります。結果的にはなんですけどね。このタイプは常温であんまりプン プンしにくいタイプですね。 
「連衆」でもすごく良かったです。 
「会長」はい。どちらかというと、緑油系が一番揮発性高いですね。ちょうどノコギリで挽いても抵抗なく挽けるていうの は緑油ですね。 
『仮銘 波路の舟』です。えっとね、これちょっと118度にしてなってます。いいですよね。 
伽羅・波路の舟・1回目・118℃
「連衆」伽羅だけが産出って言うか取引量が少なくなっちゃって、羅国とか真那伽とかはそうでもないのかなって思ってたんです けれど。 
「会長」そうではないんですよ。 
むしろ本当にいいベトナムの沈香とかタイの沈香、真那賀とかですね、本当にそれの方が希少ですね。本当に希少です。 何というかな、我々もね、いいのがあったとしても、売ったら売っただけなくなってしまいますから、何かね、あんまり買って もらうのもなぁみたいな。そんな感じなんですよ。年々そうなってきて。 
ただ、伽羅ははあくまでもピンからキリまで伽羅は伽羅ですから、伽羅の方がそんなに珍しくないとも言えます。はい。た だ、品質がいいものというのは、どの木所でもやっぱり限られてますけどね。 
「連衆」すみません。伽羅って原木はあまり匂わないというか、香らない? 
「会長」何ですか? 
「連衆」伽羅。伽羅の原木は、あ、香木か、ごめんなさい。 
「会長」原木?タイプによって様々です。 
揮発性が高いやつは、常温でも香りは感じられますし、この鉄油みたいなタイプはそんなにはプンプンしない。
「連衆」鉄油っていうのは、黒いやつを鉄油っていうんですか? 
「会長」何て言うか基準がはっきり何か紙に書いてあるわけでもないので、何ともなんですけれど、はい。ま、こういう風な 類いのタイプの伽羅がやはりいくつか存在しますね。はい。 
「連衆」すみません、あんまり揮発性が高くない伽羅っていうのは、切った時の粉って、サラサラ、あの伽羅のわりと伽羅 のベタって、こう、粉もするのがありますね。 
「会長」ありますね。 
「連衆」これは意外とその揮発性が高くないってことはあんまりベタってしてないんですか?切った時の粉って。 
「会長」はい。ところが、伽羅が、全ての伽羅が引き粉がベタっとしないっていう、あ、ベタッとするという訳ではないんです けれども、大抵の伽羅は、これもそうです。ノコギリで挽けば粉はベタつきます。サラサラにはならないです。はい。そこが 沈香と違う点ですね。沈香はどんなにいい沈香でもノコギリで挽いた粉などはベタつくことはないです。 あ、一つだけ私が知っているので沈香なんですけど、真那賀でね、挽き粉がちょっとベタつくのがありますね、そういえ ば。『仮銘 風の移り香』というのがそうですね。 
で、さっき申し上げたみたいな伽羅ですが、羅国として使われることが、売られることがあると、それ「伽羅系の羅国」という 言い方をされますね。
販売する側は「伽羅系の羅国」。伽羅系と書いてあれば、それは伽羅です。 で、これからお回しするのがいわゆる伽羅立ちをする羅国。伽羅系と伽羅立ちではまったくもとが違うわけですね。本当に 伽羅のように聞けるかどうかというのは、ちょっと皆さんの感覚次第なんですけど。 
「連衆」伽羅系の羅国っていうのが鉄油系っていうわけではないんですね? 
「会長」そういうわけではないんですね。 
今の鉄油系というのは、あくまでもたまたまこれを出しただけで。 
「連衆」香包に切った香木を入れておくと、樹脂がこう、染みる。 
「会長」はい、染みますね。 
「連衆」それはその、緑油系とかによって、多少違うものでしょうか? 
「会長」多少違うと思いますが、伽羅は大抵の場合、染みますから。だから、できれば、竹皮紙とかそういったものを使う のがいいですよね。紙とか布に樹脂吸われちゃったらもったいないので。ただ、竹皮紙て、すける人がたぶん今、全 国で一人かそこらしかおられませんから、ものすごく貴重だし高いです。 
嵩山堂さんが前から扱われていますけれども、その嵩山堂さんでも今、常にあるとは限らないと思いますね。この間、あ るお客さんがでっかい伽羅包むのに買い占めちゃったとか言われて。今は嵩山堂さんになくなっていると思いますけれど も、はい。
こんな竹皮紙を買い占めるぐらいの伽羅持っていったらいいですよね。 
「連衆」皮1枚みたいに薄いんですね。危ない。 
「会長」これね最初のころ、もうちょっとあったんですよ。何だっけこれ『仮銘 神路山』ですか。もうちょっと大きかったですけれど も、切っていたらもう使えないところがいっぱい出てきて、悲惨な状況で、だから後、これぐらいしか残っていないんですよ ね。 
「連衆」ああ、そうなんですね。 
「会長」これも今、オンラインショップで出ていたかどうかはちょっと私知らないんですけど、あの、出ていたとしたら、もう今 買っておかないと無くなる感じですね。 
せっかく頑張って歌探して、いい仮名つけたなと思っても、切ってみたら、もう全然使えるところがなくて。
「連衆」そういうのもあるんですね。 
「会長」あります。 
「連衆」これは〈中奥?聞き取れず〉をしてお掃除したわけではないんですか? 
「会長」あの、切っていていくと、もう空洞もありましたし、それからあの、真っ白しろのところもありましたし、そういうのを全 部落としている状態ですよね。 
最初はね、濃いところはすごくよく立って、いい香りしてね、これいいなと思っていたんですね。いざ切ってみたらがっかり。 で、それはいわゆるその塊の外見。我々よく顔と言いますけれども、いい顔をしているんです。本当に羅国という顔をして いる。そういう木肌、典型的なベトナムの沈香の顔をしているんです。はい。 
「連衆」顔て、どういうことを言うんですか? 
「会長」見かけの風合いとか見た感じ。あの、木目の具合とか木肌の色とか。 
「連衆」これは、じゃあ元は結構あったんですか? 
「会長」元でもこれぐらいですよね。 
そんなにめちゃくちゃ大きなものではなかったんですね。はい。だけど、効率が悪かったですね。
「連衆」『仮銘 夢の浮橋』ってありましたよね。あれも効率は悪かったんですよね。 
「会長」悪かったですね。本当に香木ってそういうのが多いですよね。 
本当のいいところというか、その、この『仮銘 神路山』なら『仮銘 神路山』の持ち味を最大限に発揮してくれるような場所というのが限 られて。 
「連衆」ちょっとしかない。 
「会長」はい。ちょっと外しても羅国の持ち味は出しますけど、やはりああいいなっていう伽羅立ちするというようなところは そんなに多くはないと寂しいですよね。 
「連衆」そうですよね。 
「会長」『仮銘 神路山』です。これで今139度になっています。もうちょっと低い方がよかったかもしれないですね。 羅国・神路山・1回目・139℃ 
「連衆」火、大丈夫そうです。大丈夫そうです。 
「連衆」すみません。 
あの、この今までの香りは、甘いとか辛いとかそういったものに例えると、私その辺がすごくよく分からなくて、はい。
「会長」はい、えっとですね。味に関しても結構絶対的な基準みたいな標準みたいなものがないもので、非常に捉えづらい ですよね。それで去年、六国シリーズをやって、今年は五味シリーズを始めていますので、もしよかったらご参加いただい て。 
「連衆」この間、甘いには参加させていただいたんですけど、何か今日の味はどんな感じで表現されますか?
「会長」うんとね、羅国の持ち味としてたぶん一番重要かなと思うのは辛みじゃないかと思うんですね。
「連衆」やっぱり辛いで、今のはだいたい辛いで合っていますか?辛いか塩辛いかどっちかなと思ったんですけど。 
「会長」はい。私なりの感覚ですけれども、一応、通っていてほしい匂いの筋、すじとしては辛いだと。しおはゆいも、まああることはあるでしょうし、この間、五味のときも申し上げたと思いますけれども、一味立ちなんて あり得ないんですよ。はい。必ずいくつか含まれてますし、それがまあ五味完備というのは大層に言われますけれども、 あれは五味が非常に高いレベルでそろっているというのは本当に貴重ですけれど、みんな凸凹でそれぞれ少しずつはみ んな持っていると私は思っています。 
「連衆」一定した何かその香りがあるんですけれども、これを一般的に辛いというのか、塩辛いのと言うのかというのを今 すごく悩んでいたんですけど。でもたっているとしたら辛いがたっていてほしいというところですね。 
「会長」はい。しおはゆいと塩辛い、しおはゆいという言い方が本当だと思いますけれども、しお はゆいという感覚は決していい匂いじゃないんですよ。本当になんて言うかな。汗取りのにおいとか、それから海岸で落ち ている藻屑を燃やす匂いみたいなそういう例えをされる、ちょっと独特の感覚だと思います。だから、辛いとは大分違う。  
「連衆」五味って、志野流と御家流とで違うんですよね?不思議なことに。 
「会長」それも私は家元とか宗家に直に教えてもらったわけではないので、何とも言えませんが、もしかしたら違うかもしれ ないですね。 
「連衆」同じ香木だったら、ちょっと違うというのは不思議だな、という気がすけれども、私は。 
「会長」あの、まず六国の分類の考え方が違いますね。それははっきりと分かります。 
先々代の堯山宗家がどういう分類の仕方をされたかという現物をつぶさに拝見した機会があって。 それで私なりにわかったことはあります。 
それは志野流の場合はどうかというのもちょっとまた分かりませんけど、堯山宗家の場合、はっきり言えるのは 伽羅に対する考え方がシビアですね。我々からすれば、ピンからキリまで伽羅は伽羅ですよね。すごくいい 伽羅と、普通の伽羅と、しょうもない伽羅と、いろいろありますよね。でも、みんな伽羅ですよね。ところが堯山宗家んはそうじゃないんですよ。 
もうあの人が考えている伽羅というのがこういう伽羅ですというのがあって、それ以外は伽羅に入れない。で、入れなく て、ほっといてくれればよかったんですけど、それを羅国に入れたり、真那伽にされたんですね、あるいは新伽羅とか。 それでややこしいと私は思っています。個人的にね。
 
みんな返ってくるときに最初より温度高くなってますね。これね、『仮銘 波路の舟』でしたっけ。これ127度ですね、
今…また済みません。時間を超過してしまっていて…申し訳ないです… 
「連衆」とんでもない、ゆっくり聞かせていただいて。 
「会長」余裕、調子こいてたら、またペース配分を… 
それで次の伽羅立ちするタイプの羅国、『仮銘 曙の空』というもの。 
これはえっとさっき申し上げたようにタイで見つかる沈香はシャム沈香って我々は言っています。 それから、ベトナムで見つかる沈香は、ドロ沈香。なぜドロ沈香というのか、私もよく知りませんけれども、泥の中から掘り 出してくるみたいな、そういうことがわりと多いのと、それから確かに香木の塊の中に泥が入っているということがよくある んですが、そういうことから言われていたのかもしれませんが、で、ドロ沈香さっき申し上げた顔と言いましたけれども、香 木の顔がいかにもシャムらしい顔をしている。あるいはドロらしい顔をしているというのがあるんですね。 ところが、中には、ドロ沈香なんだけど、シャムみたいな顔をしている、そういうやつもありますね。 で、中にはどっちとも言えないような、実際はどっちかで見つかっているんだろうと思いますけれども、結果的に見たらどっ ちなのかよくわからない間の子みたいなそんな感じというふうに見えるものがある。 
その一例がこれからお回しするこの『曙の空』です。
これは京都の母が大事に売らないでとっておいたやつを、いつ何年前だか忘れましたけれども、送ってくれた。大体、京都で大事にとってあった、離れの押入れの中にしまってあったようなものは、みんなこっち来ているんですけど、そ の中の一つですね。 
ドロとかシャムとかというのが面白いので、母の残したメモを一緒に添えておきます。 
羅国・曙の空・1回目・129℃ 
「連衆」山田さんにとって大事な大事なメモですね。 
「会長」はい。そうそうです。 
「連衆」ドロやけれど、と京都弁ですね。 
「会長」すごい勿体つけてますけどね。 
それ、何十年か、30年前くらいだと思いますけどね、その頃からそういうものはもう二度と出てこないなっていう感覚です よね。だから、売らずににとっておきたい。そんな感じだったです。 
「連衆」もうこれはこれで終わりなんですか? 
「会長」そうなんです。 
「連衆」そうですか。 
「会長」だけどこれと同じようなタイプの木が見つかっているので、そっちの方はまだ販売できるかもしれないですね。
『曙の空』です。これ129度。やっぱり羅国もいろいろあって、はい。 
こうやって聞いてくると、やはり『雪間の草』最初の。ああいうタイプがわかりやすくて安心して、あ、羅国だなって思える。 伽羅立ちするようなものって、本当に香木としてはすごくいいなって思えるんですが、じゃあ、木所何かって言 われたら、ぱっと、え?って、断定しづらいところが出てきますよね。でも、こんな羅国はそうそうないです。はい。 なかなかお目にかかれることが、普通はないので、はい。組香に使うってのは難しいでしょう。鑑賞香用。はい、 一炷聞(いっちゅうぎき)で楽しむっていうのが、向いてるような気がしますね。その典型的なものが、この最後に 残った『仮銘 ふるき梢』。 
これはね、本当に訳わかんない香木です。香木のタイプとしては、いわゆる馬蹄形と言われる、馬蹄て馬の蹄。馬の蹄って こんな形してますよね、こういう形してる、あの塊を馬蹄形ってよく言いますが、これも馬蹄形の沈香ですね。 これ塊見ていただくと、ここのですね、実際はこういうふうにして見つかります。 
木の切り株の上に香木がある。それが、これが水が溜まって、長い年月のうちに腐ってるんですね。朽ち果ててる。浸食 されてる。だから、こういうところは、焚きにくいですよね。ボロボロになってしまうので、これのすぐ下、内側が、下に行くほ ど、ちゃんとした香木になってます。一番この木の中で、一番いい場所っていうのは、これひっくり返したところの、ここに、 黒っぽく見えますよね。ここが一番良かった。一番樹脂化が、密度高く。ここ焚くと、本当にあの杏仁の匂いみたいなフ ルーティーな香りが、出ました。 
で、もう挽いてくうちに、そういうところがもうだいぶなくなってしまっているんですけれども。 
これ本当に面白い木ですね。はい。形も面白いですが、香りが面白くて。
これもだから羅国なのか何なのかって、本当は 家元とかご宗家にこれ焚いて、聞いていただいて、どう思われます?って聞いたら、意見が様々にわかれると思います。『仮銘 ふるき梢』です。 
羅国・ふるき梢・1回目・107℃ 
「連衆」この下の木もちょっと大きかったんですか? 
「会長」えっとね、もうちょっと大きかったですけど、でも馬蹄形て本当に蹄ぐらいの感じなんですよ。 そんなに大きくはないですね。はい。 
そうか、かつてめちゃくちゃ大きいのもありましたけどね。普通はそんなに大きくないんですね。 本当に、あの、何が羅国かってなると、千差万別な香木の特徴とか持ち味がそれぞれ違いますから、一概に言いにくくて難 しいと思いますね。はい。 
今、忘れないうちに予告しておきますが、真那賀やるときは歴史的な名香の中に勅命香に真那賀があり、たまたまそれが結構、私、たくさん持ってるんで、それを炷きます。はい。勅命香って、霊元天皇が名前をおつけになった香木なんですが、やっぱりそれはね、炷いてみると、なるほど、と思えますから、真 那賀っていう木所がどんな特徴を持ってるのかっていうのは、なかなか実例がなくて難しいんですけど、勅命香を炷けば、もうそれが答えのようなものなんで、非常に稀な例ですよね。
回答をそのまま味わえるっていうことになりますから、真那賀のときはそれがあるので、炷いてみようと思います。

(戻って来た『仮銘 曙の空』の香炉を手にして…)
そうな んですよね、切ってくれって言われてもちょっとすみません、て。 
なくなってしまう。本当にこれに近い、似た木がまた見つかりましたから。それは『夕月夜(ゆうづくよ)』っていう仮銘を つけたりしていますが。 
「連衆」でもやっぱり羅国なんですか? 
「会長」はい。本当に似たような木です。同木かもしれないと思うぐらいなんですけど。 
これ今、107度に、なってます。 
「連衆」今までで一番低いですね。 
「会長」ちょっと変わった香気が感じられませんか? 
「連衆」これ、知っています。
「会長」そうか、ご存知ですか。 
「連衆」やっぱりいいです。 
「会長」本当に変わった…珍しいですよね。 
「連衆」なんかすごく仮銘が合ってる気がする。 
「会長」はい。〈聞き取れず〉 
「連衆」それでものすごくよく、覚えてます。 
「会長」そうですか。 
「連衆」『仮銘 雪間の草』っていうのは、もうないですか? 
「会長」あれいっぱいあります。さっきの塊ですね、他にもちょっとあるんで、大丈夫です。 
「連衆」わかりました。 
「連衆」〈聞き取れず〉について、伽羅は竹皮紙がいいっておっしゃってたんですけど、羅国もちょっと油が多そうなものは 大丈夫なんですか? 
「会長」大丈夫です。樹脂化がものすごく密に進んでた塊でも、沈香の場合は、樹脂分が外に漏れる(滲み出る)ことはないです。だから、それこそ紙で包もうが布で包もうがぜんぜん大丈夫です。
「連衆」ちょっとあの、香の、志野流展を観てきたんですけども、昔の香木を包んでいる紙、和紙が ほとんどこういう感じだったんですけども。中身は見えてないんでよくわからない。 
あれで保管して、あの抽斗(香箪笥のこと?)に入れていた? 
「会長」はい。普通はそれで、はい。伽羅以外は大丈夫ですね。 
「連衆」あの抽斗は、種類ごとにした方がいいんですか?伽羅は伽羅の抽斗? 
「会長」えっとね、そこもね、厳密に申し上げますと、伽羅と伽羅以外のものは別にされた方がいいですね。 「連衆」伽羅だけ別にすればあとは一緒で? 
「会長」あとは沈香系統は一緒で大丈夫です。 
「連衆」沈香系統と白檀とか、また別?
「会長」白檀系はもう完全に別にされた方がいいです。 
「連衆」では沈香系は、ひとくくりでも大丈夫? 
「会長」はい、大丈夫です。ほぼ、大丈夫です。はい。 
白檀と、あと、黄熟香、それはもうそれぞれ別個にされた方がいいですね。 
伽羅とかは、特に他の匂いを吸着してしまう恐れが高いんですよ。例えば、香水線香と一緒に伽羅を保管さ れたりしてると、香水線香の匂いが伽羅に移っちゃう。移ると10年も20年も取れないんです。表 面は香水線香の合成香料の匂いがしちゃう。そういうことになるので、ご家庭であれば石鹸とかね、一緒に棚に入れたり とかされると匂いが移ります。 

(『仮銘 ふるき梢』の香炉を手に)
「会長」いいですよね。いいけど、これ羅国なのかなっていう。 
「連衆」すごい素敵ですよね。 
「会長」はい。これ本当にこういうやつは困りますね。難しくて。 
「連衆」羅国じゃなかったら、何に? 
「会長」消去法でいくと羅国なんですよね。うん。はい。 
「連衆」結局沈香だからもう伽羅ではない。 
「会長」伽羅ではないですよね。明らかにね。でも、こういう伽羅もあるって思われがちですよね。はい。ええ。こういう品質 の高い沈香は本当難しいですね。『仮銘 曙の空』も『仮銘 神路山』もそうですけど、『仮銘 ふるき梢』がえらい特殊で…この3種類は、割と特殊な沈香で、それこそ鑑賞香向きですよね。組香で使ったら、皆さん混乱して。ちな みにこの香炉は今、戻ってきたとき137度でした。みんな上がってますね。うん、でもいい感じだな、これ。 
「連衆」いいですね、いいですね。 
「連衆」すごく落ち着いてて、ね。 
「会長」本当にこういうのがね、2、3キロあったらニコニコしちゃうんですけどね。皆さんにバンバンお分けできる。
「連衆」ここも聞いたらよさそうなところですか? 
「会長」これは、割れ目に水が入って朽ちてます。 
「連衆」こちらが黒っぽいのとは全然違う。 
「会長」こことは大体意味が違う。これね、上から水分の侵食を受けてて、どんどんどんどんひび割れができてますから。 だから、ここもそうですね。使えるのは、上からここ、この手前まで。ただ、この辺炷いたらどうかっていうと、ちゃんと羅国 の香りは出します。 
たぶん、一旦全部樹脂化したところが、水分の侵食を受けてる。だから、こういう端のところでも、ポロポロって削れますけど、 そこ加熱したらちゃんと香木の香りは出します。 
「連衆」ここでお水を受けてたわけなんですね? 
「会長」そうですそうです。どんどんどんどん下に染み込んで。これ発見がもっと、4、50年早かったら、もうちょっと使えると ころが多かったし、あと100年ほど遅かったら全然駄目かもしれない。 
「連衆」樹脂化した後に水分で浸食されちゃう、されますか? 
「会長」はい。樹脂化しちゃったら、もう全く影響を受けないかっていうとそうじゃないんですね。 それ私よくわかったのは、何かこんな話ばかりしてね、時間ばかりが経ちますけど。 
あの、池上本門寺のお墓に、熊本藩の3代藩主の生みの親のお墓があるんです。清高院さん。清い高い院ね。お墓が あって、それが本門寺さんの五重塔が倒れたら危ないところにあったんで、文化庁か何かから移してくれと言われて、移す ことになったんですよ。で、お墓を移すのって大変ですから、ちゃんと法要をして、それで何か、立正大学とかの研究者の立ち会いでね、お墓開けたら、石室があって、そこに香道具が納まってたんです。ただ、地震か何かの影響で石室が ちょっと壊れてて、水浸しになってたんです。 
で、何年間水浸しになってたかわかんないんですけど、清高院さんて今から二百二、三十年前に亡くなってる。そ の方が残した香道具。一番面白いのは、脇息。肘掛。そこに抽斗があって、そこに重香合とかが納まっ てたんですよ。 
で、そこが水浸しになってて、その中に入ってた香木、それも水浸しで見つかった。 
で、清高院さんって、熊本藩の藩主のお母さんですから、細川家ですから。『白菊』の可能性があるわけですよ。その欠片が ね。私、当時の執事長たぶらかして、炷きました。 
そしたら、あの、朽ちてるんですよ。やっぱり、朽ちてる。もう元が伽羅であったかどうかっていうのがわかんないぐらいに しらっちゃけて、朽ちてるんですが、加熱したら、やっぱり伽羅だったんだねっていう香りが、出ました。 
それ、何十年間水浸しだとかよくわかんないんですけど、ただ最大で長くても、200年くらい。 はい。だから、水分の影響を、まあ2、30年だったら受けないと思いますが、どんどんそれがすごく長くなると、やっぱり受け るっていうことですよね。 
だからあれ、もしかしたら『白菊』だったんじゃないかって本当に思いますよね。その時、そうそう、あの三條西堯水宗家 もおられました。日蓮宗に頼まれて、お香の会をやったときに、このチャンスに聞こう。で、その当時の執事長は本当に香 木好きだったんですよ。もうお亡くなりになりましたけどね。惜しいことしました。脳腫瘍で亡くなったんですよ。まだ若かっ たのに。あの方が生きておられたら、また炷けたのに。 
「会長」まだ香炉回ってますけど、えっとですね、私の見通しの甘さによって45分ほど経過してしまっています。誠に申し訳 ないですが、はい。こんな感じで、シーズン2も、順番にまた六国をやっていきたいと思いますし、香雅堂としては、何て言 いますか、こういうことをできる機会っていうのが普通はあまりないだろうから、頑張ろうという風に思っておりま すので、また案内があるときはぜひお越しくださいませ。よろしくお願いします。 
「連衆」よろしくお願いいたします。 
有難うございます。 
「会長」ありがとうございました。 
終了


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