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【聞香会のアーカイブ】2022年12月14日・五味の会・鹹

このnoteは、香雅堂で行われる聞香会で話された会話の内容を(個人情報に関わる内容を必要に応じて削除したうえで)純粋に記録したものです。企画概要は以下リンクよりご覧くださいませ。
この企画は、お手伝いの方たちの大変ありがたいご尽力によって成り立っております。この場をお借りしてあらためて御礼申し上げます、誠にありがとうございます。
麻布 香雅堂 代表 山田悠介

「会長」こんにちは。いらっしゃいませ。よろしくお願いします。

「連衆」お願いいたします。

「会長」お久しぶり。

「連衆」お久しぶりです。

「会長」今日、だいぶ湿度が低かったんで、昼休みちょっと換気扇を止めて。で、加湿器をつけてましたが、現状まだ33%ですね。まあちょっと条件的にはあまり芳しくないですが、でも午前中はよく立ってました。

いよいよ五味の最後、「鹹(しおはゆい)」ですね。
しおはゆいというと、決していいイメージではなくて。お手元に、早川甚三氏の本のコピーをお配りしてますけど、「汗取りの鹹味(しおはゆみ)」という風に書いてありますね。汗取りっていうのは、汗を拭いた手ぬぐいですよね。
手ぬぐいの匂いをくんくんたら、しおはゆいんだと。これが風流にって書いてあるけど、全然風流とは思えないんですけどね。

「連衆」(笑)

「会長」まあ、汗くさいタオル、手ぬぐいの匂いじゃないかということですよね。別の角度から行くと、海岸に打ち上げられた昆布とか、わかめの類い。これを焼いた時に、磯臭い匂いがすると、それが「しおはゆい」という風に書いてありますね。
香木って、昔定められた五味の名香をお炷きしても、決して一味っていうことはないですよね。一味出ちっていうことはなくて、まあ、複雑な香りが伴って出てきて。ですから、「しおはゆい」そのものはあまりいいイメージはないんですけれど、だけど、「しおはゆい」だけが立つということはありませんから。まあ、総合的に聞くと、いい香木だなっていう風な印象がありますね。午前中も、そんな風な感想を持たれる方がほとんどでしたね。

で、とりあえず今日は、なんて読むか、ちょっと存じ上げないんですけど、えんり、遠い里、これから先にお回ししようと思います。
例によって、そんなにたくさん残ってはいないんですけど、(ビニール袋を)開けて、くんくんしていただくぐらいは大丈夫ですので。
(盆に乗せた『遠里』の香木を回す)

「会長」あ、結構ね、ビニールの上から香りがするって、言われてました。

「連衆」いいですね。

「連衆」あのー、えんり、「おんり」って言いますよね。

「会長」おんり?

「連衆」合ってるかどうかわかんないですけど。

「会長」私も全然…。

「連衆」私たちは一応…。

「会長」あ、そうですか。じゃあ、「おんり」と言わしていただきます。

「会長」ちょっとこう、黒っぽいタイプの伽羅ですよね。

「連衆」ごめんなさい。

「連衆」あ、いえ、とんでもないです。

「連衆」このぐらい大きさがあると、<聞き取れず>聞こえますね。

「会長」一応申し上げときますと、室温が23.2度、湿度が36%ですね。で、これ、100℃で回してみます。

<一>伽羅・『遠里』(おんり)・1回目・100℃(戻ってきた時:111℃)

「会長」『遠里』(香炉を回す)。

「会長」加熱した時と、加熱しない時とでは当然香り、違いますよね。

「連衆」違いますねー。

「会長」はい。それと同じように、今日、炷きはじめる時に、今日100℃って言いましたよね。

「連衆」はい。

「会長」これ、もし90℃で炷きはじめたら、ちょっと感じが違う可能性があります。
その時は、もしかしたら、しおはゆみがもっと最初に目立って出るかもしれない。それはやはり、加熱する温度の違いで、立ってくる味わいが変わってくるだろうという風に想像してます。
いろんな味を、基本的に持ってますから、香木って。だからそれを余すことなく味わおうとしたら、やはり強い火加減はアウトです。

いらっしゃいませ(遅刻者到着)。

「会長」えっと、ちょっとここですいません、えっと山本さんでしたっけ。

「連衆」山下です。

「会長」あっ、山下さん。ちょっとこちらで。これ、最初に炷き出してます(盆の上の『遠里』の香木を見せる)。この味の、しおはゆいの…まあ、手本木ですね。読み方はわからないんですけど、「おんり」と呼ぶことに今してます。はい、遠い里ということで、あ、これがその、今みなさんにお回しして帰ってきた(遅刻者に『遠里』の香炉を渡す)。

「連衆」ありがとうございます。はい。

「会長」これ、文献によると、立ちはじめはしおはゆくて、途中で甘くなって、それから次第に他の味も出ると、そういう風に書かれてますね。
確かに銀葉に乗せた途端、しおはゆみを感じました。ま、その後どういう風に変化するか、ちょっとわかりませんけど、変化していきますよね。

「会長」じゃ、続いて『白鷺』。これも回してまいります。

<二>伽羅・白鷺(しらさぎ)・1回目・100℃(戻ってきた時:114℃)

「会長」『遠里』はまあ、どっちかっていうと、黒っぽい伽羅ですね。
で、『白鷺』は、黄色いタイプだと思います。

「会長」どんな感じですか。

「連衆」いい感じです。

「会長」ハハ。いい感じ。

「連衆」<聞き取れず>

「連衆」いいです!

「会長」まあ、何百年ぐらい前の香木だかわかりませんけれど、今回、炷き出すために綺麗に切ろうと思ったら、鋸で挽かざるをえないので、挽くと、断面がすごくみずみずしいですよね。だから、その時にやはり香りも立ってるんでしょうね。

「連衆」<鋸に関する質問? 聞き取れず>

「会長」しょうがないですよね。なるべく目の細かい鋸で挽くんですけどね。でも、ちょっとだけですけど、それでも挽き粉は出ますよね。

「連衆」はい、ちょっとは、さすがにね。

「会長」だから、志野流の家元なんかは、滅多に鋸は使われないんですよね。割って切る。

「連衆」かすは一応、うまく切れるかどうかは別ですけど、はい、かすは出ないでしょうね。

「会長」はい。そうですね。

「連衆」ちょっと無駄な部分が出たりはしますけど。

「会長」はい。

「連衆」<聞き取れず>

「会長」まあ、そうですね、ほとんど無駄は出ないですね。でも、綺麗に(長四角には)切れない、どうしても。

「連衆」<聞き取れず>慣れてらっしゃらないと、使えないと思うんです。<聞き取れず>

「連衆」鋸は使えないですね。

「連衆」ありがとうございました(『遠里』の香炉を会長に戻す)。

「会長」(遠里の香炉が戻ってくる)111℃ですね。

「連衆」(白鷺を聞きながら)なんか、これだけね。全然違う。

「会長」はい、その、何によって、その、違ってくるのか、ちょっとわかりにくいというか…しおはゆみそのものはそんなに違いがないはずだと思うんですけどね。だから、それが違って聞こえるのは、やっぱりその他の要素、しおはゆみ以外の味とか、そういったもののバランスとか、絡み合いが影響してるんじゃないかなって思います。両方ともとってもいい伽羅だっていうのは感じますけれど。相当いい伽羅ですよね。
多分、伽羅らしい伽羅に対するイメージが、人によって違うんでしょうね。

「連衆」これは、この本のタイトルって、何ていうんでしょう。

「会長」これですか。あ、本の名前は、『香道』。

「連衆」『香道』?

「会長」『香道』。はい、確か『香道』でしたね。早川甚三さんっていう方が昔書かれた本で。

「連衆」早川?

「会長」早川甚三さん。

「連衆」この本は一般に発売はされてないんですよね。

「会長」んーなんかね、元々自費出版のような形で、まあ一応出版社から出されてはいますけれど、そんなに幅広く売られたものじゃないと思います。えーと、これですね、『香道』ですね(本を手に取る)。昭和62年。

「連衆」62年?

「会長」はい、62年。はい、あのー、甚三さんを訪ねていって、その時に、くださったんですけど。

「連衆」なんか面白いこと書いてあるから、ねえ。

「会長」この方、すごいロマンチストなんですよ。

「連衆」(笑)ちらっと読んじゃう。

「会長」広島大学の教授かなんかだったと思うんですけど、(先代の)大宗匠と仲が良かったんです。志野流の。懐かしい…。

「会長」ではあのー、しおはゆいの手本木、手鑑は両方とも伽羅でしたけども、私の手元にある木で、しおはゆいって言うと、まあ志野流でいう佐曾羅、そこらへんがまあ、しおはゆさを持っている。それから真南蛮も持ってると思いますが…
インドネシアの沈香。その中から志野流では佐曾羅を選び出したり、寸門陀羅を選び出したりします。その中で、志野流で佐曾羅に該当するもの、仮銘で「秋風」とつけましたが、これを次にお回しします。

「会長」で、インドネシアの沈香が持っている、そのしおはゆみっていうもの。それと、タイの沈香、真南蛮ですね、が持っているしおはゆみっていうのが、同じものかどうか微妙なんですけれども。確かにしおはゆみっていう点からすると、似通っているのは間違いなくて。
ですから、志野流で佐曾羅とか寸門陀羅とかに分類して使うインドネシアの沈香を、御家流では真南蛮として売られるということが、起きてますね、もう10数年前から多分、そうなってます。
ひとつには、それは、タイの沈香、そんなにおっきなものがたくさんあるわけではありませんので、どうしてもそれを大量に販売しようとなると、難しくなってくる、と。そうするとまあ、比較的手に入りやすいインドネシアの沈香の中から真南蛮として販売してしまうということだろうと思います。
今日はインドネシアの沈香のしおはゆみ、それから後ほどタイの沈香のしおはゆみ、両方とも聞いていただこうかと思ってます。

「会長」(盆に乗せた秋風の香木を回す)それ、丸太みたいな木ですが、多分、枝かなんかだろうと思うんですね。それがほぼまるごと樹脂化してる。まあ、珍しいですよね。まあ、何かあったから樹脂が出てきたって考えるのが普通なんですけれど、これはまんべんなく出てますから。じゃあ、樹脂化って、どういう時に起こるのかなっていうのがちょっと、不思議に思いますよね。

「連衆」びっくりしちゃう。

<三>佐曾羅・「秋風」(あきかぜ)・1回目・110℃(戻ってきた時:114℃)

「会長」「秋風」です。110℃(香炉を回す)。

「連衆」しおはゆさがちょっと、綺麗な感じ。

「会長」ハハ! そうですか。

「連衆」すごい綺麗。

「連衆」汗くさいなんて…。

「会長」(『白鷺』の香炉が戻ってくる)114℃。ちょっと上がってますね。

「連衆」(上座の席の人同士で早川甚三さんの本についておしゃべり)そうですよね、新しいの買えます。甚三さんのね、ご本が。

「会長」新しいの、出てるんですか。ああ、『文学と香道』をね。はいはい、これはこれで。それ、知ってます。だけど、前の『香道』は…

「連衆」『香道』は出回ってないですよ。

「会長」古本屋さんにあるかもしれない。もともとでも、そんなにたくさん印刷されてない。

「連衆」図書館に入れてあったりしますよね。

「連衆」あー、そっか。

「会長」図書館には大体1冊ずつある可能性が高いですよね。

「連衆」綺麗です、綺麗です。

「連衆」<会長に鋸について質問? 聞き取れず>

「会長」あのー、挽くのはそうですね、はい。
こっち(木目に沿った垂直方向)は割れます。比較的簡単な場合が多いんですけど…目が通っていれば、簡単に割れます。鋸いらないんですけど、
こっち(木目と直角方向)はどうしても鋸がないと。
ー炷分に綺麗に揃えようと思ったら、これをー炷分の厚みに引くんです。で、あと、とんとんとんとんって割っていけば、綺麗な形に揃えることができるんです。

「連衆」易しいです(笑)。

「会長」まあ、こっちはそれが仕事。はい、ガキの頃からやってましたから。はい。慣れればそんな難しくはない。

「連衆」それは、あんまり粉が出ない? 引いた時に…。

「会長」まあ、それはあの、鋸のタイプによって…。
早く挽こうと思ったら、目の粗い鋸を使えばいいんですけど、それをやると、たくさん粉が出る。
それがもったいない場合は、なるべく細かいのを使って、で、刃振(あさり)って分かりますかね? 鋸の刃って、まっすぐじゃないんですよ。こう、開いているんです。開くことによって、こっちが通りやすくする。ここをゴリゴリ削っていくと、結局その刃のてっぺんが通りやすくなる。通り道ができる。刃の通り道を作るために刃振っていうのがあって、はい、これをなるべくなくすと、あのー、粉は少なくなる。だけど…。

「連衆」びっくり。

「会長」もう動かなくなっちゃうんですよ。途中で刃の逃げ道がなくなってしまうんで。

「連衆」じゃあ、お道具については、ご自分でなさったり…。

「会長」目立ては自分ではできないですね。で、近年、プロの大工さんが、使い捨ての鋸を使い始めて…だから、目立て屋さんが仕事がなくなって、うまい目立て屋さんがいなくなっちゃった。だから、下手に目立てに出すと、もうボロボロになって帰ってきたりしますから、怖くて上等の鋸を目立てに出すことができないですね。で、私の場合は、あのー、香割道具のちょっといいやつ、あの、江戸時代の刃物師さんが外科手術用に作ってた鋸とか、打刃物、そういうのやってた、あの、みなもとやすのり(源安則)とかいう人が頼まれて作った香割道具が、たまたまある方がお持ちで、それを修理したいって言われたんで、預かったら、すごくそれが綺麗で美しいんですよね。あの刀のカーブなんかもすごい綺麗だし、持ち手の、なんていうか、削り方。それが非常に持ちやすく、綺麗にできてて、で、「ああ、いいですね、いいですね」って言ってたら、その方が「そんなに言うんだったら、あげる」って。

「連衆」(笑)

「連衆」褒めるものですね。

「会長」いや、それで、「じゃあこれで、あのー、レプリカ作らしていただいていいですか」って。で、「どうぞ、どうぞ」っていうんで、刃物作ったんですよ。はい、それが今進行中ですけどね、香割道具。ただ、結構ね、鑿(のみ)が難しくて、うん。で最初、ああいう刃物だったら、あの新潟のね、燕三条って、あそこらへんにいい職人さんいるんだろうと思って当たってみたら、鑿以外はなんとかなったんですけど、鑿がどうしてもできませんと、うちらの技術ではできないと言われて。で、そらしゃあないなっていうんで、他を探したんですよ。そしたら、兵庫県に三木市っていうところがあって…私は知らなかったんですけど、刃物の街なんですね。で、打ち刃物の名人がいっぱいいるって、そこの高橋さんっていうおじいさんに見せたら、こんなちっちゃいのはやったことないなって言われて、だけど、できんことはないよって言われたから、じゃあ、すんません、10組だけ作ってくださいって、やってもらって。で、鋸は鋸でまた名人がいて、その人に私が使ってる鋸の目立てをお願いする。だから、傷んできたら、もうそこに、三木市に送って目立てしてもらう。

いろいろ、物作りの分野は人がどんどん少なくなってきちゃって。だけど、その三木市の高橋さんのとこは、息子さんが、えーっと何代目かな、おられるんですけど、自分で玉鋼(たまはがね)を作ってる。
いわゆる「たたら製鉄」を自分でやってる。「たたら製鉄」って言ったら、出雲が有名ですけどね。あそこらへんしかもう今はやってないと思いきや、自分の裏庭でやってるんですよ。

「連衆」すごい…。

「会長」だから、いい流れを作ってます。自分で香割をやってみたいと思われる方は、そんなに実は難しくない、ね。やればやるほど面白いです。で、やればやるほど香木っていうものがどういう性質を持ってるかっていうのがわかるんです。自分でね、挽いたり、割ったりしてると。だから、それは楽しいですよ。

「連衆」フフフ。

「会長」ちょっとあの、高価なセットになりますけど…。

「連衆」(笑)

「会長」今制作中で、今、一組だけ揃ってて、それで桐箱をどうしようかって言ってるところなんです。

「会長」今あの、えっとお回ししてる「秋風」が、インドネシアの沈香が出すようなしおはゆみで、今度はこれ、タイの沈香です。もともと2キロ500(g)超えてたんですが、だいぶ少なくはなってきましたけど、まだまだありますので、えー、タイの沈香の真南蛮です。で、真南蛮らしいやつという場合は、白雲が多分安定していておすすめかなと思いますが…
えーっと、名香で『白雲』っていうのはありますが、それとは何の関係もない、私が勝手に作った仮銘です。

「連衆」(戻ってきた「秋風」を聞いて)これがすごくまとまってきて、綺麗に立ってて。

「連衆」最初に感じたしおはゆみみたいなのが、わかりにくくなる、後ろに下がる、綺麗にまとまってしまうんですよ。どれ、これがこれがってなる。ひとつに今まとまってしまって。

「連衆」なんかまた、綺麗になりました。

「会長」あ、そうですか、ええ。見かけ、外見からすると、あの「秋風」、まあそんなすごいような風には見えないんですけど、今、意外といいですよね。

「連衆」うん、いいですね、なんか結構らしい感じがして。

「会長」あ、はい、ありがとうございます。
(「秋風」の香炉が戻ってくる)114℃です。

「会長」これ、御家流の方はやっぱりこれ、真南蛮っぽいですか。

「連衆」はい。最初聞いた時のほうが、しおはゆみを感じましたね。

「会長」あ、そうですか。本当にあのー、タイの沈香が持ってるしおはゆみと、インドネシアの沈香が持ってるしおはゆみっていうのが、似てるのか違うのかっていうのは、よくわからないんですけれど。まあでも、インドネシアの沈香を真南蛮に使っちゃうっていうのは、わからなくはないな、という…。
多分御家流の方だと、これ、「秋風」をお聞かせしたら、ま、大半の方が真南蛮だと思われるっていうことになろうかと思う。

「連衆」そんな気がしました。その、最初の時は特に、はい。

「会長」完全に今なんか、いい感じですもんね。

「連衆」本当に秋風が吹いてるような感じです。

「会長」はい、いい真南蛮だなとかって思われても、しおはゆいかな、みたいな感じ、しますよね。

「連衆」佐曾羅?っていう感じがちょっとしてしまう。

「連衆」あの、綺麗。

「連衆」直接聞いていた時は、あ、佐曾羅だなって思ったんです。けれども、聞いてみたら、いろいろな香りが出てきて、甘みや、それからしおはゆみも出てきて、でも1回戻ってきたら、後ろに下がってしまったので、逆に言うと甘い、優しい香りにまとまってきた感じがした。

「会長」確かにね、まとまりは出てきてますよね。うん、だんだん。

「連衆」今日はとてもそれを感じる。

「連衆」なんか、しおはゆみとかそういう香りって、あの、最初突出していても、わりとまとまっていく、収斂する香りなのか、それとも、今日の気候とかそういう影響とかある…。

「会長」いや、午前中もそういう話になったんですけど、なかなかわかんないですね。あの、聞くたんびにね、最後の「春霞」なんかも、はい、炷くたんびに印象変わるって、みなさんおっしゃるんですよね。うん。
それで、その日の気象条件とか、室温とか全部メモしてる方がおられて、それで、前回の「春霞」の時はこういう感じだったけど、その時の条件は室温が何℃で、湿度が何%って言われると、全部違うんですよ、条件が。その影響があるのかもしれないんですよね。本当に、同じようには、同じ香木でも同じようには立ってくれないですね。

「連衆」同じ席にいてもね、まったく同じ香りを聞いてるわけではないですよね。

「連衆」そうですよね。

<四>真南蛮・「白雲」(しらくも)・1回目・105℃(戻ってきた時:133℃)

「会長」(「白雲」の香炉を回す)105℃から。

「連衆」この話じゃないんですけど、はい、「守拙庵」さんっていうのが、香雅堂さんの守拙庵っていうのは、どういうとこからお付けになられたんですか。

「会長」あ、はい、あの、漢詩に「守拙全天真(しゅせつぜんてんしん)」っていう一行がありまして、「つたなきを守りて、天(てん)の真(まこと)を全うす」。
で、その「つたなきを守りて」っていうあたりがちょっといい感じかなと思って。で、志野流の御家元に揮毫してもらって…「守拙」っていうのを…
それを元に扁額を作りました。

「連衆」あー、そうですか、前からちょっとおうかがいしたいなと思っていて。謙虚なお気持ちで…。

「会長」はい。とかいって、全然謙虚じゃなかったりとかして。

「連衆」いやいやいや、そんなこと。

「連衆」山田さんのご著書の、あの『香木三昧』にサインをいただいた時に、「守拙」で。

「会長」あー、はいはい。一応、はい。座右の銘的には、させていただいて。はい、全部書くと大変なので。

「連衆」(笑)

「会長」二文字だけにさせていただいて。

「連衆」私は守拙を抜かしてしまいまして。全然、謙虚な気持ちが…。

「連衆」そんなことないです。

「連衆」守拙が重要だったのに。

「会長」ハハハハ。

「連衆」(お盆に乗った「白雲」の香木を手に)これって、今どのぐらい重さがあるんですか。

「会長」もともと2キロ500ぐらいあったんです、すごいデカかったですね。ええ、だいぶ少なくなってきて…

「連衆」1キロ以上じゃないかしら。

「会長」1キロあるかな、あるかもしれないですね。

「連衆」1キロはないです。

「会長」最近測ってないからちょっとわかんないですけど、あとで時間があったら測ってきますね。じゃあ、はい(と、「白雲」を回す)。

「連衆」香りますね。

「会長」香りますね。ただ、黒っぽいところとは、立ち方が若干違いますよね。

「連衆」今、同じ。

「会長」基本的には、匂いの筋は変わらないです。だけど、それ、茶色く見えるのは、樹脂が出てないところの割合が多いからですよね。そうすると、何が違うかっていうと、もとの植物の組織が加熱される匂いが出る。
その分、香木としての純度は低くて、香木じゃないところの香り、匂いが出てくる。それが嫌な香りだったりすると、台無しになるんですけど、大抵の場合、そんなに雑な味は出さないですね。だから、結構そういうところを使っても面白いです。

「連衆」面白いんですか。

「会長」見かけは明らかに変わりますしね、で、立ち方もちょっと変わるんで。まあ、組香で使うと面白いですよね。本香と試香で使い分けたり。

「連衆」それ、いじわる…。

「連衆」(笑)

「会長」一応ね、同木だから、聞き分けんとあきまへんでってね、言ったっておかしくはないけど…いじわるですよね。

「連衆」(笑)

「会長」まあ、本当にうーんと想像を働かせればね、「あ、本香で出た時は、試み香で出たときと同木だけど、ちょっと色の薄いところが使われた」と。

「連衆」そんな(笑)。

「連衆」そんな、決められなくなっちゃう。

「会長」さて、同じ真南蛮で違う感じ。
これ、馬蹄形といわれる沈香です。馬蹄形、馬のひづめの形。で、これ、こっちが上のように普通思われますけど(=三角形)、多分、出来上がり方からすると、こっちが上で(=逆三角形)、想像ですけど、多分なんですが…あの、1回採集しますよね、香木を。で、幹を輪切りにする。輪切りにしたところに、また樹脂が出てきて、香木になって…で、まあ何十年経つか、何百年経つか知りませんけど、水がその切り株を浸食していって、どんどん腐っていく。そうすると、あのー、下の方はまだ大丈夫だけど、上の方は朽ちているっていう感じですね。

で、大抵の場合、朽ちているところっていうのは、あのー、炷いたらどうなのかというと、炷いてみると、大抵の場合、ちゃんと香木の香りはします。ということは、朽ちる前に香木に一旦なってたということが、想像…推察できますよね。まあこっちの方はそうした香りはもちろんするんですけど、このへん(樹脂化してないところを指差して)炷いても、まあまったく香りがないというわけではないですね。

「連衆」それは、最初からそのぐらいの大きさなんですか。

「会長」これはこの形に、えっとね、一部このへんに欠けた状態で、二欠けらで見つかってますね。
で、これ、いつ頃のものかちょっとわからないんですけれど、そんなに新しくはないことは確かなんですが、前にこれを持ってた方が「烏帽子岩」っていう風に名前つけてたみたいで、メモが残ってます。なんか、湘南あたりに烏帽子岩ってありそうですけど…それかどうかは知りませんけれども、そういうイメージで、なんか岩山みたいな形からそうつけられたのかなって思ってますけど。
だから、これは証歌とかありませんが、仮名ではなく、『烏帽子岩』とさせていただきます。

「会長」ちょっと一走り(「白雲」の重さを測りにいく)。

「会長」440(g)。もう、2キロ500っていったら、本当に持てないですから、440グラムでした。ちなみに。

「連衆」『烏帽子岩』は真南蛮って書かれているけど、タイ産沈香って、あれ、書かれてなかったのは?

「会長」あの、それは、私は知らないから。あの、タイ産沈香とか、インドネシアとか書く場合は、大半は自分で輸入してるから、わかるから書くんですけど、そうじゃない場合は確証がないので、入れてないんです。

「連衆」書かれないってことは、山田さんとしては、これはタイ産沈香とは言い難いっていうことなのかな、と。

「会長」いや、もう完全にタイだと思ってますよ。はい。

「連衆」あ、そうなんですね。でも、あの、確証がないと書かれない。

「会長」裏付けがないですから。はい、こういうあのー、馬蹄形って、別にタイだけじゃなくて、インドネシアでも、ベトナムでも見つかることは見つかります。まあ、成り立ちからすると、かなり珍しいんだろうとは思いますけど、意外と結構あります。でも、聞香に適してるようなレベルのものってのは、そうそうないんですね。

「会長」(『白雲』の香炉が戻ってくる)133℃。

<五>真南蛮・『烏帽子岩』(えぼしいわ)・1回目・108℃(戻ってきた時:119℃)

「会長」(『烏帽子岩』の香炉を回す)108℃。

「連衆」いい匂い。

「連衆」全然違う。

「連衆」<会長に前にも同じ香木を使ったことがあるか質問? 聞き取れず>

「会長」いや、使ってないです。うん、使ったかもしれませんが別物です、はい。

「連衆」形がこれだと思って。

「会長」いや、馬蹄形でね、すごく面白くていいのって、時々あるんですよね。わりとわかりやすいっていうか、納得しやすいタイプだと思います。

「連衆」え、これ、味はよくわからない…。

「連衆」どんどん来た…。

「連衆」(盆に乗った『烏帽子岩』の香木を手にとって粉が落ちる)帛紗に落ちてしまいました。

「会長」そう、どうしてもね、粉が落ちるんですよ。

「連衆」そうみたいですね。

「会長」前、ちょっと前に、たわしで擦ったんですけどね。

「連衆」あ、そうなんですね。

「会長」はい、香木って、もう出来上がってしまっていれば、水に浸けても、たわしで擦すっても、全然問題はないですね。あの、ちゃんと乾かせば。そんな簡単には悪くならない。

「連衆」そうなんですね。

「会長」これ(=『烏帽子岩』)、今月の…今月か? 推奨香木にさせていただいてるんで、あのー、割らないといけないんですけど、綺麗に割れないんです。なかなか。この面に沿って割っていくしかないんです。
本当は、ここの面のところは全部削り落とせればいいんですけど、なかなかそれも難しいので。で、割ってから、あと、ほら、あのー、もし、気になるようだったら、ちょっと下の方を削り落とししていただいて、でもそのまま炷かれても、はい、別にそんなにおかしくはならない。今日はちょっと下を削り落としたものをお出ししていますが、だから、あんまり雑味は出てないと思うんですけど。

「連衆」今、大丈夫でした。

「連衆」その際に出るいわゆるクズみたいなのって、どうされるんですか。

「会長」あ、いや、あれですよ、ちゃんと全部取ってあります。

「連衆」何かに使われる?

「会長」うん、あの…練香を作る時とか。はい、あとは、線香。
うちの<天の海>シリーズっていうのは、はい、香木しか使ってないので。そういうものの原料に。ランク分けして、無駄なく使ってますね。
このへんに落ちましたね(烏帽子岩の粉)。今落ちたやつも集めて炷いても、まあそれなりに香りは楽しめるとは思うんですけどね。チャンスがあったら、ダメそうなところだけ炷くみたいなこと、やってみましょうか。

「連衆」(笑)

「連衆」結構高い…。

「会長」意外と楽しめますよ。
で、次にね、同じインドネシア産でも、志野流では佐曾羅に該当するっていう、あ、じゃなくて、寸門陀羅ですね。
はい、さっき佐曾羅やりましたから、今度、寸門陀羅。
で、沈香のスモ(=寸門陀羅)って、五味に該当しないんじゃないかなっていうような香りが出るのが特徴ですね。もう、鼻から脳に突き抜けるような、す~っと抜けるような味、味とは言えない「気」のようなものが特徴です。それがあると、あ、これはスモだなって。
それで、この木肌のところに細い筋みたいな模様が全体についてますけど、それはなぜついたかっていうのをちょっと想像してみてくださいませ。
正解はわかってるので。

「連衆」これも(お盆の上の「うすき衣」の香木を見ながら)一木なんですよね。

「会長」はい、それも多分、枝でしょうね。中にはあの、根っこらしいやつもありますしね。

「連衆」あー、なるほど。

「会長」むかーし昔、あの結構細長い根っこが樹脂化したなって思えるようなのが…細い丸太っていうか、棒状のものが出てきたことがあって。それはあの桂雪会の熊坂さんが気に入って、まるごとお持ちになって。それで、後日に来られて、「あれ、堀川って名をつけたわ」っておっしゃるんで、「堀川って何ですか」って訊いたら、「堀川ごぼうみたいだから」って。
(注:約400年前から作られて来たと言われる京都の伝統野菜)

「連衆」(笑)

「会長」牛蒡かいって(笑)。

「連衆」お元気なんですか。

「会長」お元気らしいですね。長いこと会ってないですけど。

「連衆」筋って、どの…。

「会長」あ、表面に筋がついてますよね。

「連衆」隆起してるところ、少し?

「会長」隆起したり、へこんだり、筋状になってますよね。溝状というか。全体が。

「連衆」確かにね。

<六>寸門陀羅・「うすき衣」・1回目・115℃(戻ってきた時:121℃)

「会長」(「うすき衣」の香炉を回す)115℃。

「連衆」今の戻りの?

「連衆」それで混乱しちゃう。

「連衆」先に聞いちゃいます。

「連衆」すごくいい感じです。

「会長」(『烏帽子岩』の香炉が戻ってくる)119℃。

「連衆」海藻を焼いたような香りっていうのって、すごく強烈な香りだっていうイメージがあります。

「会長」はい。

「連衆」海岸とかのとは違うっていう。

「会長」はい。

「連衆」選んでくださってるのも綺麗な中で、ってことなんですか。

「会長」あの、午前中もね、その話が出て。
ある方が、自分が知ってるしおはゆみって、もっと悪い匂いだと。だけど、今日出てくるのがみんな品がいいけど、どうなんですかって聞かれて…
いや、うちにはそんなのしかないんです、って。

「連衆」(笑)

「連衆」そういう、こう、イメージの中である、しおからい、いい感じのする香木もあるってことなんですか。

「会長」はい、ありますよ。あの、たとえばね、あの、インドネシアで取れた沈香っていうのが結構いっぱい輸入されてくるわけですよ。 で、それ、みんなピンからキリですから、本来その中から厳選して、これは佐曾羅に使える、これはスモに使えるっていって分けていくんですけど、基本的にはインドネシアであれば、大体似たような立ち方はしますから、だけどうちらの基準でね、これ聞香に使える、あるいはこれ聞香に使えないっていう分け方、我々なりにやっぱりしますから、取捨選択するんですよ。
こんなの使えへんとかっていうのはね。だけど、そういうもの、聞香に使えないようなものの中でも、やっぱり販売されることがあるんですよね。だから、世の中にはそういうものもありますから。
でも、逆にそういうものの方がわかりやすいっていうこともありますよね。
だから、あんまり良すぎると、(却って)木所が分かりにくくて…

「連衆」品が良すぎて、わかりにくいですね。

「会長」苦労するっていうことが出てきますよね。そう思います。
だから、伽羅立ちする沈香って、わかりにくいですよね。
木所を何に入れたらいいのかがようわからんっていうことが出てきます。
それも良し悪しかなとは思いますけど。

「連衆」聞かせていただくのは、いいのばっかり。

「会長」わりとそのなんていうか、こう、注意して聞いていただかないと、どこに何が隠れててっていう、何より何が優勢でっていう、その時間があって、でも、それが時間と共にまた変わっていくっていう、そういう変化の仕方っていうのも、なんていうかな、集中するようにしないと、聞き逃してしまうっていうことが、あり得るかなと思います。
あと、本当に思うのは火加減ですよね、ええ。
最初のスタートをかなり低めにすると、同じ香木でも、立ち方の印象がだいぶ違うっていうことはありますね。

一番最後に、あのまあ、何回もよく出てきてますけど、伽羅で「春霞」っていうの、これ、また今日も、しおはゆみが出るので炷いてみますから。私、この「春霞」っていうのが、なんか面白くて好きで、どんどん使ってると、どんどんなくなっていって。

「連衆」(笑)

「連衆」伽羅っていうのは、みんなバランスよく入っていて、しおはゆみの感じの伽羅って、あんまり聞いたことがなかった。

「会長」あ、はい、あるんです。意外と。持ち味がやっぱりそれぞれ違いますけど、しおはゆみを持ってる伽羅ってそう多くはないですけど、あることはありますよね。

「連衆」私はないんです。

「会長」そうですか、あのー、後で時間があったらちょっとひとつ炷いてみますけどね。はい。

「連衆」伽羅の、この筋とは違う感じがするけど、今日の一番(=『遠里』)とか二番(=『白鷺』)って。

「会長」伽羅っぽくないっていう? うーん。

「連衆」はい、顔がどうのじゃなくて。うん、今までなんか聞いてきた、いい伽羅とはまた違うし。どこで分けるのかしらって。

「会長」なんでしょう。この古五味は米川常伯っていう人が、選んでますよね? で、その人の考えなりで、「うん、これはしおはゆみっていうのの手本に使えるな」っていうんで、選ばれてると思うんですね。で、その人の考え方っていうのが、ちょっとえー、私には…わからないですけど。

「連衆」(笑)

「連衆」いや、香雅堂さんの伽羅をいろいろね、あれしてるけど、それとはちょっと違うなと思ったんですけど。

「会長」ああ、タイプ的にはまあ、そうかもしれませんよね。

「連衆」あの、多くはないってことですよね、こういうの。

「会長」意外とそうですね、しおはゆい伽羅っていうのは、しおはゆみが目立つ伽羅っていうのは、そう多くないです。はい。確かに。で、これの解答ですけど、この模様の謂れは、あのこれ、鑿の跡です。

「連衆」へぇー。

「会長」で、これだったらインドネシアですけど、インドネシアの現地で採集した人たちに、掃除してもらうんですね。我々、あの、香木にならなかった部分は買っても、目方でナンボですから、損しますから、なるべくそういうところは落としてもらう。
だから、どんどんどんどん掃除していって、最終的に、ちゃんとしてる部分がこういう姿だったと。で、そこに至るまでに削った跡がついてるんですね。
そういうことですから、これもそうですよね。これも筋が入ってますが(「春霞」の香木を指して)、この筋も鑿の跡です。鑿も何種類か現地の人は持ってて、幅が5ミリの物とか、1センチの物とか、いろいろ使い分けて掃除してくれる。そういう掃除っていうのは、多分相当昔からやってたと思うんですけど、あ、これは「春霞」、伽羅ですね、はい(盆に乗せた「春霞」の香木を回す)。

「連衆」よく聞かせていただいてます。

「連衆」そうですね、うん、そうなんですよね。

「会長」五味の会でも、何回か登場してますよね。

「連衆」安心感が。

「連衆」香木屋さんによって、あの、その選ぶ方の趣味っていう、ちょっとある気がするんですよね。だから、香雅堂さんばっかり聞いてると、香雅堂さんの趣味で、自分、私たちも好きだって感じで。

「連衆」いつもの伽羅です。

「会長」(笑)

「連衆」これだけ5つの香りを目指して(古五味香の)そのほとんどが伽羅っていうのは面白いですね。佐曾羅以外は結局、全部伽羅じゃないですか。

「会長」そうですね、うん。

「連衆」さすがにまあ、苦いとか甘いだったら。まさか、しおはゆみまで伽羅で来るって、ちょっと苦いバン(=真南蛮)とか来そうな感じ、しますよね。

「連衆」癖もあって。

「連衆」最初の時はわかったけど、2回目になったら微かに。

「連衆」最後にしおはゆみを感じたけど、少しだけ。

「連衆」ありがとうございます。ちょっと最後に。

<7>伽羅・「春霞」(はるかすみ)・1回目:95℃/1回目が戻ってきた時:104℃、そのまま続けて2回目に回す/2回目に戻ってきた時:105℃

「会長」これ、「春霞」(香炉を回す)。95℃。

「連衆」95℃だそうです。

「会長」(「うすき衣」の香炉が戻ってくる)121℃

「連衆」(「春霞」を聞いて)同じです。

「連衆」しおはゆみがちょっとあるかなって感じがしますね。

「連衆」もうひとつが最後に、ちょっと感じられるところが。

「連衆」ああ、もうあっちの方。

「連衆」(戻ってきた「うすき衣」について)最後の最後にしおはゆみを感じるっておっしゃられてたので、私は見逃してしまったか。

「会長」結構立ってましたよ。

「連衆」そう思って聞いてるからかな。

「連衆」うん。

「連衆」これ(=「春霞」)をしおはゆみに選んだ理由は? 最後にちょっと来るってところですか。

「会長」私は結構しおはゆさを感じ…。

「連衆」最初から?

「会長」はい。

「連衆」どわーって来ますよね。

「会長」わりと。あの、これ今、95℃でしたけど、午前中はね、90度で炷き出してみたんですよ。そうするとね、95℃の時よりもさらにしおはゆみが感じられました。

「連衆」へー。

「連衆」低い方が。

「会長」意外とだから、しおはゆみっていうのは、低い温度の時に出るのかもしれないですね。

「連衆」今までもそうでしたよね。

「連衆」あ、じゃあ温度と兼ね合いがあるんだ。

「会長」うん、考えられますね。

「連衆」2回目が楽しみ。

「会長」その、「春霞」っていう伽羅は、見かけはそんなによくないですよね。水に放り込んだら沈みそうでもないし。
むしろプカプカ浮きそうなタイプなんですが。でも炷くたんびにね、結構これ、深みのある立ち方をするなって思うんですよね、不思議な木ですね。

「連衆」いろいろな香りがする感じ、しますね。

「会長」はい、これ、軽いから、目方の割に量(かさ)があるんですよね。はい、だから、あの、言い方によってはコスパがいいですよ。

「連衆」(笑)

「連衆」しっかりね、真っ黒ですよね。

「連衆」ここで聞いてもいい香りが。

「会長」ええ。

「連衆」ちょっと固まりが。

「会長」それでですね、あの、ちょっともう時間がちょっと過ぎてしまいましたので、もしお時間お急ぎの方は…ということで。
あのー、今日、木下様からちょっとご好意で、みんなで聞いていただいてもいいわよっておっしゃっていただいてる木がありまして。(生徒の)みなさんに分木される必要があるっていうんで、お預かりして、ちょっと切ったんですね。で、それをまあちょっと聞いてみろって言われて、聞かしていただいたらまあ、真那賀なんですけれども、沈香なんですが、結構伽羅っぽく立つんですね。甘く立つ、非常にいい木で。『芝の戸(しばのと)』といわれる名香で…120種なのか、200種なのか、何に分類されてるのか存じ上げないんですけれども、名香ですね。
これ、オッケーをいただきましたから、ちょっと炷かしていただきますね。付箋(ラベル、題簽)が貼ってあるんですが、これを五つに、0.5gを五つにしてほしいってご依頼だったんで、最初どうしようかと思ったけど、細切れにしたらその付箋が全部破れてしまうので、ちょっと考えて、縦にポンと割らせていただいて、残りを切りました。

まあ、なかなかこういう名香を炷かせていただいたり、聞かせていただく機会がそもそもありませんから。しかも、真那賀っていうのが少ないんです。で、あと写真はちょっと、これはやめていただいて。

「会長」右肩に朱でなんか書いてあります。それ、なんて書いてあるんでしょうかね。よく見えないんですけど。

「連衆」松平家。

「会長」ああ、松平家ですか。

「連衆」「松平家の真奈伽、芝の戸」って書いてありますね。

「連衆」真那賀の「な」が、奈良の「奈」なんですね。

「連衆」御家流は結構いろんな字を書くので。

「連衆」あ、そうなんですか。

「連衆」「か」も、賀正の「賀」じゃなくて、伽羅の「伽」で。

「会長」(『芝の戸』の香炉を回す)もうちょっとね、温度低めでもよかったかもしれない。

「連衆」あ、でも、そうでもないような気がします。

「会長」よく立って、立ちすぎてるぐらい立ってますよ。

「連衆」ああ。

「連衆」(戻ってきた「春霞」を聞いて)こういうのは扱いやすいですよね。

「連衆」そうですね、優しい感じも。

「連衆」今までも何度も聞いているのに。

「連衆」意識しながら聞くと、それがしおからいのかもしれませんね。

「連衆」聞こえました。

「連衆」そういう意味で、教えていただきながら聞くと、自分では見つからなかった。

「連衆」それはそうよね、きっとね、もうちょっと、今まではふわって感じに聞いてた。

「連衆」しおはゆみに意識してるあいだに、聞こえてくるんですね。

「連衆」前はしおはゆみの感じが掴めなかったけど…

「会長」なんかね。しおはゆみを意識すると、それなりに聞こえてきますよね。

「連衆」そうです。

「連衆」しおはゆみモードになってしまった。

「会長」なかなか。どうしてこれ。

「連衆」最後にまたすごくよくなっちゃいました。

「会長」見かけによらないですよね。なんかいかにも。

「会長」(「春霞」の香炉が戻ってくる)104℃。

「会長」緑油の伽羅っていう立ち方ですね。これね、すごいうん。全然これ、香りがへこたれてないですよね。
(「春霞」の香炉を再び回す)

「連衆」ちょっと甘みが。

「連衆」結構濃い甘みを感じました。

「会長」『芝の戸』は?

「連衆」そうそう。

「連衆」ドライフルーツの甘味みたいなものを真那賀には感じるんですけど、少し南の果物を干したやつみたいな。

「会長」なるほど(笑)。

「連衆」これ、苦みとかね、苦みとかそんなのは、あれだ。

「連衆」<聞き取れず>

「連衆」ちょっと、しおはゆみが。

「連衆」<聞き取れず>

「連衆」あの、1本だったの? もとは?

「会長」それをまあ、一部縦に割らしていただいて、その付箋(シール)を貼ってあるのを、 切れないようにして、その割った残りをお切りして…
だから、その貼ってある付箋は、もうそのままずっと残していただいて、貼ってない方を、なんならまたお切りできると。1本だったですね、はい。

「連衆」<聞こえず>初めて意識しましたけどね。

「連衆」すいません(部屋を出て帰る)。

「会長」はい、じゃあまた。

「会長」かなりあのー、なんていうかな。(『芝の戸』は)はっきりとした伽羅立ちをしますよね。

「連衆」ですね。

「連衆」古い真那賀で、そこまではっきりしているのも少ないかもしれない。

「会長」うん、はい、意外とちゃんとした真那賀って、なかなかお目にかかれないんですよね、意外と。

「連衆」そうですね。

「連衆」そう感じましたよ。けど、ちゃんとね、いい香り。

「連衆」やっぱりいいから、聞きやすいですよね。

「連衆」(御香木を提供して下さった木下様より)いいお香だと思いますとおっしゃっていただいて。

「会長」いや、そりゃそうですよ。だって、松平さんですもん。

「連衆」これだけで申し訳ない。

「会長」いえいえ、聞かせていただいて。

「連衆」<聞き取れず>が聞けたのが一番嬉しい。

「会長」(再び戻ってきた「春霞」を聞いて)立ちますね。

「連衆」ここに書いてあるのをみなさんに差し上げて。松平家って朱で書いてありました。松平家って多いですから、どこだかわからないですけど。

「連衆」ありがとうございます(部屋を出て帰る)。

「会長」また、来年はあの、香雅堂ができて40周年っていうことで。

「連衆」おめでとうございます。なにか記念の…とかあるんでしょうか。

「会長」それでねえ、あのー、聞香会とか、推奨香木で、ちょっと古めのやつとか出していこうかなって。

「連衆」あー、嬉しい。

「連衆」それは来年ですか。

「会長」来年です、はい。やっぱりあの古い木って、それなりにその、なんていうかな。枯れた感じというか、なんか、こうちょっと透明感とか、あの雑味が抜けてるような感じっていうのがあることが多くて、「あ、なるほどいいな」と思えることが多々ありますので、推奨香木として分木させていただくっていう風なことも含めて、聞香会で炷かしていただこうと思ったりしてます。
そんなわけで、また来年も引き続き、よろしくお願い申し上げます。

「連衆」楽しみにしています。ありがとうございました。

「連衆」コロナが収まって、やっとこうなんかね、こういうのをやっていただけるようになって…収まってないですけど。

「連衆」一番ひどい時よりはね。

「会長」そうですね。だから、またどっかでそのー、別の席でね。どっかで設けて、なんかお食事でもいただきながら一日遊ぶみたいな。できたらいいですよねえ。昔よくあのー、椿山荘さんからお頼まれして、年に5、6回やってたことがあって、あれ、なかなか良かったですよね。いいお香聞いて、おいしいもん食べて。そういうことをまたね、もしかしてね、できたらいいかな、1回ぐらいは。

「連衆」ぜひぜひ。やってください。

「会長」あーいや、あのね、組織が変わっちゃって…今、フォーシーズンズの系列から離れてから組織がちょっと変わって、日本文化のどうちゃらっていう部署がなくなったんですよ。

「連衆」そうなんですか。

「会長」それで、お声がかからなくなったんで。

「連衆」前、女性の方でね、担当の方いらっしゃいましたよね、あの人、じゃ、変わられちゃった?

「会長」あの人、ウエディング(担当の部署に)に行っちゃった。

「連衆」そうなんですか。

「会長」部そのものが消滅しちゃったんですね。

「連衆」あ、そうなんですか。

「会長」だけど、あの、(料亭)錦水の総支配人はまだご健在なんですよ。だから、またやりたがっておられるんです。

「連衆」お食事のご案内ばっかりね。だからね、言うんですよね、お香は入ってないんですかって。

「会長」思い切り言ってやってくださったら、また支配人も考えるかもしれない。

「連衆」はい。

「会長」(2021年に、とある香道講座をお頼まれした際の会場が椿山荘の『錦水』で、)久しぶりに総支配人が出てこられたから、参加者のみなさんにご挨拶していただいて…喜んでおられました。あの人、好きなんですよね、香道が、やっぱり。

「連衆」可能性ありますか。

「会長」そうですね、椿山荘さん…そうね、錦水が場所代安くしてくれたらね、安く開催できるんですけどね。「お料理食べるから場所代マケてね」ってできればね。そうすると、参加費を抑えることが出来て…

「連衆」前だってそんなにね、すごいあれではなかったですよね。

「会長」以前ですか? ええ、以前は椿山荘が主催でしたから。

「連衆」もう少しいろいろ複雑になってきそうですか。

「会長」せめて2万円とか。

「連衆」じゃあぜひお願いします。

「会長」できればいいなと思いますが。

「連衆」あまり変わんないですよね。
これは(=『芝の戸』)ちょっと不思議な、ちょっと不思議な香りが入ってますね。ちろっとね。

「会長」そこらへんがやっぱり真那賀ということだと思いますね。
そういうのがないと聞き分けできない。

「連衆」(2回目の「春霞」を聞いて)まだまだ聞けます。

「会長」そうですか。はいはい、恐るべし「春霞」。ほんとに。

「連衆」ちょっと、しおはゆいが。

「連衆」変わらない、すごい。

「会長」そう、午前中もちょっとね、話出たんですけどね。あの、外からの匂いが入ってくる。あの、お昼時になってくるとね。

「連衆」お魚の匂いとか。

「会長」そうするとね、あの、ちょっと邪魔されるんですよね。でも、私なんかはそれが慣れちゃってるから。

「連衆」全然識別できる?

「会長」そう、あの、脳が(邪魔な匂いを)シャットアウトする。多分ですけど。

「連衆」そこまで行けばね。いいんですけども。

「会長」いや、あのー、参加したAさんなんかも言ってましたけど、この嫌な匂いは聞かなくていいようにしちゃうんです、脳が。

「連衆」だってAさん、ほんとすごいですもの。

「会長」それで、逆にね。聞きたいようなものに関しては、なんか集中するんじゃないか。だから、普段は意識していなかったしおはゆみっていうのが、ここでテーマにしたら、聞けるっていうのがあるんじゃなかろうかっていう話をしてました。そうかもしれないな、という気はしますよね。

「連衆」まあ、それはね、確かに。

「会長」シャットアウトできるっていうのが、事実としてありますから。

「連衆」(『芝の戸』を聞いて)なんか、伽羅立ちしてると思います。

「会長」うん、これ、本当に伽羅みたいなね、さっきちょっと言われてた、ちょっと変わったような匂い(曲=くせ)っていう、それの、なんていうかな、あの「女のうち恨みたるが如し」みたいなのが…。

「連衆」(笑)

「会長」…なかったら、伽羅みたいな感じです。

「連衆」ちゃんと聞けてまして、おかげさまでありがとうございます。感動。

「連衆」それ(=「春霞」の香炉のスイッチを)切ると、(炷き空が)まだ聞こえそうですね。厚みがあるので。

「会長」そうですね。

「連衆」全然長持ちする。

「会長」(「春霞」の香炉が2回目から戻ってくる)これ、105℃ですね。

「連衆」すいません、ありがとうございました。

「連衆」(木下様に)ご相伴にあずかりまして…。

「連衆」いえいえ、そんな。

「連衆」ありがとうございました。

「会長」こちらこそありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

「連衆」よいお年を。



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