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【ネタバレあり考察】インサイド・ヘッド2を漫画家と議論する
登場人物
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漫画家。ディズニー好き。インサイド・ヘッドは1が好き。
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エンジニア。ディズニーは(そこそこ)好き。インサイド・ヘッドは2が好き。
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今回、インサイド・ヘッド2が公開されたけど、二人の間で意見が割れたよね。
どちらもエンターテインメントとして優れていたのは前提として、
ホソヤは1の方が好きで、自分は2の方が好きだった。
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うんうん、自分はどちらかというと「カナシミ」がクローズアップされていた1の方が好きだった。
1を初めてみた時は高校生だったんだけど、実はその時は「エンタメしてて面白いな〜〜」としか思わなかったんだよね。
だけど少し前、自分の近しい人が亡くなってしまって、自分は悲しみでいっぱいで日々生きるのが辛かった。
何とか前を向こうと無理をしてて、そんな時にインサイド・ヘッド1をもう一回見たんだよね。
その時、「ビンボンにカナシミが寄り添うシーン」を見て、
悲しい時は無理に明るくせず、悲しみを感じている自分を受け入れていい、というメッセージが響いてしまって、涙が止まらなくなってしまった。
辛い時に「元気出して」と言われても元気は出なくて、どちらかというと一緒に悲しんでくれる人がいた方が心の整理ができる。
そういう意味でも、1は自分を救ってくれた話として特別なんだよね。
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インサイド・ヘッド1は、コミカルな感情たちのドタバタ劇を魅せる一方で、「カナシミ」との向き合い方をドラマの中で描いてて、そこが素晴らしいよね。
喜びと悲しみは二項対立ではなく、表裏一体なんじゃないか?というテーマ。
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そう。ピクサーの映画は、子どもの時に見ると純粋なエンターテイメントとして楽しめるし、大人になってもう一回見ると裏に隠されたメッセージを読み取れる。
そこが素晴らしいと思う。
1と2の違い
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自分はインサイド・ヘッド2が公開されて初めて、1を見たんだよね。
感想として "エンターテインメントしていて面白い" とは思ったんだけど、特別感は持てなかった。
「カナシミ」に共感できなかったというか、自分のための物語ではないな、という感じ。
逆に2を見たとき、新しい環境に踏み出すライリーと、それに順応するために暴走する「シンパイ」を見て、自分を重ねてしまった。
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1と2の見せ方は明らかに変わったよね。
1ではライリーに起こるのは「小さな事件」で、幼いライリーは受動的だった。
どちらかというと動き回るのは感情たちが主で、「インサイド・ヘッド」の名の通り頭の中をメインで描いている。
逆に、2はライリーが成長して行動的になるし、友人やチームメイトたちとの関係性が転がっていくから、起こるのは「大きな事件」なんだよね。
相対的に頭の中のストーリーは縮小していて、現実世界のシーンだけでいうと「インサイド・ヘッド」以外の映画でも成立できそうな展開ではあった。
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そうだね。
たとえば「1」で入るユーモアは、「頭の中で流れ続けるCMソング」とか「抽象化される世界」みたいに、「インサイド・ヘッド」でなければ描けないネタが多かった。
一方「2」で出た「ゲームのキャラ」とか「ダイナマイト」の下りは確かに面白いんだけど、インサイド・ヘッドでしかできない表現か?と言われると微妙だと感じた。
頭の中の感情たちの動きを求めていた人間にとっては「1」が好きで、人間ドラマを求めていた人は「2」が好きになりやすいのかも。
感情たちに感情がある問題
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「インサイド・ヘッド」のキャラクターたちは擬人化された感情だけど、彼ら自体にも感情があるよね。「カナシミ」が笑ったり、「ヨロコビ」がイラっとしたり・・・
それぞれの感情が独立しているのがキャラクターなのに、彼らの中にも感情があるのが矛盾だ、と思う人もいるみたいだけど、そこについてはどう思った?
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そこについての描写は作中にないから、あくまで解釈になっちゃうよね。
自分は、それぞれの感情たちの頭の中にも似たような「インサイド・ヘッド」世界があって、それぞれのキャラクターの感情を制御しているんじゃないかと考察した。
カナシミの中にもヨロコビやイカリがいて、カナシミの感情が頭の中の世界に反映されてるんじゃないかって。描かれてはいないけど。
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面白い!マトリョーシカのような構造ってことだね。
それぞれのキャラクターは感情のメタファーである一方、完全には独立していないというところが自分も同意だな。
「2」の道中で「ヨロコビ」が、文句ばっかり言って対案を出さない「ムカムカ」「イカリ」「ビビリ」にキレたのは印象的だった(笑)
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そうだね(笑)
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そういった世界観の解説をしすぎないところが、解釈が捗って楽しくなるところだよね。
同じピクサーでも「ソウルフル・ワールド」はより大人向けでSFに近くて、世界観の説明は詳細だったと感じる。インサイド・ヘッド2は細かい説明抜きでも楽しめるように設計されている印象だったな。
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そうだね!
世界観の掘り下げと、メインのストーリーのバランスはとても難しいけど、ピクサーは作品毎に適切なバランス感覚でうまくやっている印象だな。
カナシミとの向き合い方
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ここまで論を進めてきて、自分の意見が固まってきた。
1にそこまで入り込めなかったのは「カナシミ」に共感できなかったから、そして2が好きな理由はライリーが不器用ながら能動的に自分の人生を切り開いていく姿に共感したから、なんだと思う。
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うんうん。
「1」を評価するにあたって、視聴者が「自分の中の『カナシミ』とどう向き合っているのか」がかなり大きなファクターとなっているよね。
自分は「1」のカナシミを受け入れるストーリー展開がとても好きだから。
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カナシミとの向き合い方は3つ考えられて、「解消」「共存」「回避」だと思ってて、
現代社会は、あらゆる問題を資本と思考力とマンパワーによって解決しようとする力学が働くから、ついついネガティブな感情も「解消」しようと思い込んでしまうと感じる。
でもインサイド・ヘッド1は「悲しい」という感情は無理に乗り越えず、自分の中にとどめておいていいんだよ、という「共存」のメッセージを打ち出しているんだよね。
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そうだね!
この「共存」というテーマは「解消」に比べてカタルシスを感じずらいから、それを上手くシナリオで回収したピクサーはすごいと思う。
当初は「カナシミ」を悪役として描いたストーリーも考えていたらしくて、それはとても分かりやすい二項対立で描けるけど、そのアプローチをとらなかったところにピクサーのチャレンジ精神を感じるな。
そしてやりたいことだけが先行してるんじゃなくて、シナリオもちゃんと丁寧に描いている。
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なるほど…!
一見ネガティブに感じる存在との「共存」をテーマにした作品って、とても凄いことをやっているんだなぁ。
そして、自分が「1」にハマらなかった最大の理由が、自分はカナシミを「回避」する向き合い方をしているからだな、と思った。
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「回避」かぁ。
それは、「1」でライリーが「ヨロコビ」と「カナシミ」を放棄して、心を閉ざした状態に似ている?
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少し違ってて、どちらかというと、新しい世界に飛び込んで自分を忙しくすることで、「カナシミ」を感じる余地を無くしている状態かな。
未知のものに挑戦するとき、人はワクワク・恐怖心・不安を感じると思うんだけど、それを繰り返すことによって感覚がマヒしてくる感じがある。辛い物を食べすぎて辛くなくなってくるみたいな。
新しいことに挑戦するとき、やるべきことが多くなるから、良くも悪くも自分の心の機微に構っていられなくなるんだよね。
この「未知への挑戦とともに、悲しみを感じるセンサーが壊れていく習慣」が生来の好奇心と結びついて、悲しみと距離を取る生き方が身に沁みついてしまった、と気づかされた。
「2」の劇中で「シンパイ」が暴走してライリーの心が壊れていくシーンは、色々と考えさせられたなぁ。
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なるほど。これまでの人生が感想に結びついていて面白いな。
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そんな自分と重ねてしまって、「2」の未知に飛び込もうとするライリーは好きだった。
同時に、「いろんな感情を無視せずに向き合おう」という最後のメッセージはぶっ刺さってしまったけれども…
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メッセージに共感して「1」が好きになった自分と、メッセージに突き刺されて「2」が好きになったコガとでは、好きの種類が異なるのも面白いね。
そして、何年後かに見たらまた確実に感想が変わるだろうね!
おわりに
いかがでしたでしょうか。普段ホソヤくんとこんな映画の議論ばっかしてるんですが、今回はせっかくなので文字起こししてみました(協力してくれたホソヤくんありがとう)
インサイド・ヘッド2、超面白いので皆さん見に行ってみてください。
あわよくば感想聞かせてね。
『お別れは、インドで』
— 細谷 しゅうへい (@gv_ou9) August 17, 2023
インドで離婚旅行する夫婦の話。(1/12)#漫画が読めるハッシュタグ pic.twitter.com/PVRs1QlgXD
インサイドヘッド2見てきました!複雑な感情を分かりやすくコミカルにキャラクター化していて、1時間半があっという間だった!
— コガ (@kogagako) August 13, 2024
思春期がテーマなのもあって胸が締め付けられた、、5年後に見たら感じ方が変わりそうで、いつかもう一回見てみたいな! pic.twitter.com/f5lNVFNKhq