【断章】探偵について
作者があらゆる仕掛けを施したあとに読者を導き入れている、かのように見せかけ、じつは読者を先に歩かせてから後出しで「予めそこに仕掛けがあった」かのように見せかけているところがミステリーというジャンルのキモだと思う。
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後出しで書き込まれた仕掛けになぜ読者が気づかないのか? 読者自身は仕掛けよりも先に書き込まれているからだろう。物語の読者は、物語に書き込まれている自分を発見することで読者になっている。
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ミステリは「それからどうなるの?」という物語の推進力を、「それから」がすべてすでに書き込まれているという(物語が「お約束」として隠している)事実をあえて物語の中で暴露するふりをしてみせることで、謎解きという過去にさかのぼる関心へ反転させているのではないか。
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ミステリの探偵というのは、物語という原則として過去に属するものと、小説という原則として未来に属するものとのあいだで生じる矛盾を一身に引き受けることで利用する存在だと思う。