【日記超短編】ごみ

 手紙の中では何度もそのつま先を褒めた。どういうわけか彼女のつま先は植物的で、歩いているというよりは運ばれている、靴を履いているというより、靴につま先が植えられているようだ。
 どんな植物的なものも等しく素晴らしい、などと言うつもりはない。彼女はどちらかといえば声も息も血なまぐさく、目のまわりが脂でぎとついたタイプで、そばにいると、つねに体のどこかが音をたてているのがわかる。関節であったり、口の中だったり、内臓からも。そのにぎやかで微かに汗臭い身うごきに、紫煙や香辛料をからみつかせた複雑な背景が覆いかぶさるようにして、彼女は暗闇からあらわれる。わたしはびっくりして大声を上げて逃げまどい、時には泣き崩れて懇願し、すべて忘れたような顔で髪を撫でつけると、口をあけたまま眠ってしまう。彼女が握りしめて離さない、テーブルの脚や動物の尾。動物の耳。解体された陸橋の破片。豆菓子の包み紙。みんなくだらない、取るに足らないごみで、彼女の切実な宝物だ。他のどこにも似たところがないのに、ただわたしの夢に一度も出てきたことがない点でのみ、彼女とそれらの宝物は瓜二つだった。

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