【断章】時計について

(かつてのわれわれの社会がそうであったような)時計の丸い文字盤が、部屋とか町で目の届くところにいつもある。という状態は太陽や月のある世界を真似していたことだと思う。

太陽や月を真似ている時計の文字盤じたいはその場を動かないかわりに、針が文字盤の上を太陽や月のように回り続けている。刻々と移ろう時の数字はその場にとどまり、指し示す針の方が回るという転倒は地球のめまぐるしい自転と、他の天体の静止や非常にゆっくりした動き、の関係を偶然なぞってもいる。

時計は世界のミニチュアであり、顔であり、つまり人間と宇宙の模型、自動人形(ロボット)の親戚だったわけだが、さまざまなものが現在時刻を(メンテナンス不要で)正確に示すようになってしまった現在、そのような意味での時計の存在はほとんど透明に近づいている。

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