【日記超短編】荷物を待ちながら

 連れていかれるとき、わたしたちは目隠しと花飾りをされていた。だからわたしたちは自分がどこへ行こうとしてるか知らなかったし、町の人たちには、葬式会場に運ばれていく花環のように見えていたはず。ある意味でそれは当たっていた。わたしたちが行き着くのは、おしまいの場所だったから。

 目隠しと濃い花の匂いを解かれると、ずっとざわついてた雑踏の音が消えて静まりかえった。目隠しと花飾りに小さなスピーカーが仕込まれて、音はそこから流れていたみたいだ。わたしたちはとっくに町を離れ、暗い荒涼とした、地平線が近くにある星にいる。ぐるっと見渡す。痩せた木の枝に痩せた鳥がとまり、右だけ大きい目でこっちを見ていた。どうやら、わたしたちは荷物が来るのを待つ役目のようだ。わたしたちを導いてきた、スーツケース型の引率者にそう告げられた。今まで知らなかったけど、生まれたときから役目は決まっていた。ただ順番が回るまでは他の人と同じように洋服屋でバイトしたり、好きな音楽を聴きにいったり、仲良くなりたい友達を誘ってお酒を飲みに行けた。くりかえすが、それはただ順番が来ていなかったからだ。

 わたしたちはここで荷物が届けられるのを待つ。中身は聞いてない。荷物を受け取れば役目が終わって自由になるけど、現地解散で、つまりここが荷物を待つための星から、何も待たなくていい星に変わるだけ。懲役が禁固に変わるわけ? 誰かが云い、わたしたちは笑う。でもそれがいつになるのか誰も知らない。引率者は、ひと足早く役目を終えてただのスーツケースとして黙り込んでいた。ひまなので星の上を散歩すると、小さな墓地が見つかった。わたしたちと同じ数の墓石。きっと前任者たちだね、と誰かが云う。前にも荷物が届いたのかな。他の誰かが云うと、ちがうよ、たぶんね。と別の誰か。きっとわたちたちと同じのだよ。だけど到着が遅れてて、待ち続けて、受け取る前にみんな死んでしまったんだ。

 だからわたしたちに順番が回ってきたんだよ。

 流れ星。この星は流れ星が多い。夜空に、星は少ない。どんどん流れてしまって、あんまり残ってないみたいな星空。知ってる星座はひとつもないね、と云いあって、誰も異論はなかったけれど、覚えている星座を指で書き足していっても、たくさん余ってしまう空だ。星が小さいから、空が広いんだろうか。むしろ狭くなりそうな気がするけど。そうなの? どうかな。わたしたちは頭が悪いね、いくら話をしても正解に近づける気がしない。とにかく荷物が運ばれてくるのは、この星にある玄関は空だけだから。空だけを見ていれば、宇宙トラックの独特な甘い響きに耳をそばだてれば、留守だと思われて、持ち帰られることにはならないはず。きっとわたしたちに読めない不在票が地面に埋められてしまう。次の配達が何年後、それとも何十年後になるかなんて、運転手だって知らないはず。星も人も寿命が違いすぎる世界で、それでも互いに荷物を送り合うなんて、この世の誰かと誰かの気が狂ってるとしか思えない。それはたしかなことだった。

 わたしたちの会話がとぎれ、重いまぶたを持ち上げると、また流れ星。

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