【日記超短編】黄色い花

 収容所の子供たちに教えてあげた。あんたたち、一生ここから出られないよ。すると一人の子が屋根によじ登ってしくしく泣きはじめた。他の子たちは無表情にその子を見上げてたけど、しばらくすると屋根の子も泣きやんで下りてきて、無表情の列に加わる。みんなで誰もいない屋根をぼーっと眺めてる。
 子供たちがここから出られない理由は、わたしが許さないから。収容所は、わたしが思い出したときいつもそこにあるものであるべき。わたしが忘れたり、興味をなくしてるときも変わらず維持されてなければ駄目。そんなこと常識だし、いちいち言わなくてもわかるはず。でも念のため口に出してみたのは、わたし自身、どこか不安に思うところがあったのかもしれない。

 わかってるの?
 ねえわかってるのあなたたち?
 一生ここにいるんだよ?
 博物館の人形みたいにね。

 収容所は昔どこかで見た、もしかしたら映画の中かも、港湾の陰気な倉庫に似ている。雲の多い空だ。だけど太陽を浴びていい時間は終わったから、子供たちはぞろぞろとチケットを買う穴のような建物の玄関へ帰っていく。
 足音というより、棒で木のうろを叩くような音。せんせい、と一人の子がふりかえって言う。さっき屋根で泣いてた子だ。わたしは先生じゃないけど、その子の目を見すえて「なあに?」という顔をする。

「せんせい、せんせいのもってるお花は、なんていうおはな?」

 わたしは自分の両手をひらいて閉じて、じっと見つめる。
 もちろん花なんてどこにもないけど、わたしにはその子の欲しがっている花の色が、なぜかありありと目に浮かんでいた。大金鶏菊だ。
 子供の背丈にしゃがんで微笑みかけ、わたしはその見えない黄色い花束を小さな囚人服の胸に押しつける。

「先生じゃないんだよ。大統領閣下って言ってごらん?」

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