【日記超短編】道路で寝る

 きみは、部屋の電気をつけたたまま眠り続けた子供のなれの果て。夢の中がまぶしくて、目を細めながら怪獣退治をしたから、間違ってよく友達も殺した。投げた槍や振りまわした剣が、あの子の頭にだんごみたいに突き刺さったり、あの子の首を茄子のヘタみたいに斬り落としたりした。殺してしまった子たちと翌朝教室で再会すると、気まずいというよりちょっと胸が痛んだり、逆にものすごく興奮したりして、授業は上の空になるから成績は落ちる一方だった。
 やがてきみはジャージで通学する中学生から、あいだの記憶が十年くらい飛んで、袖口ののびたジャージで毎日ぶらぶら過ごす大人にいつのまにかなっている。
 女子中学生なんて、この世のすべてが自分の宿敵だと思っているし、宿敵はみんな自分の構えたピストルの銃弾に、自分からいそいそと当たりにきてくれるものと信じている。それくらい、いつも崖のぎりぎりの風に吹かれて髪が舞い上がっているような、晴れ晴れとして滑稽で、朝から晩まで眠たい目尻を光らせて毎日を生きてたんだと今にして思う。

 放課後、きみは友達と二人で並んで道路に寝たこともあった。はじめは普通に立って話していたけど、なんか疲れてしゃがんで、それも疲れたから道路にべたっと座った。それでずっと話し続けていたら、相手がぐっとうしろに傾いたからこっちも同じくらい傾いて、斜めのまま手で支えて喋ってるのも中途半端だなと思ったら、ほとんど一緒にばたんと道路に寝た。そして二人は寝たまま喋りつづけた。
 何を話したかよく覚えていないけど、今自分たちが道路に寝てる、ということだけは絶対に話題にしなかったと思う。それはちょっと意地になってたりとか、まああの子も正直夢の中できみを殺してたと思うし、いってみれば血で血を洗うライバル同士だから、互いに負けん気を出してたところもなかったとはいえない。だけど、なんかジャージで道路に寝ることが自然に思えることに、新鮮に驚いてたというのもある。寝てみたらすごくしっくりした、夕方の住宅街のちょっとひんやりした狭い道路が、ジャージに包まれて発熱する自分たちの額縁なんだと気づいてしまった。
 大人になったきみは道路に寝ることは、たぶんもうないだろう。すごく酔っ払ったりしたらどうかわからないが、もし泥酔してぶっ倒れてゲロまみれで道路に寝てしまったとしても、それは中学生のとき道路にあの子と寝て平然とした顔で会話を続けた時間と、けっして一緒にしてはいけないような気がするのだ。
 あのときの額縁はからっぽのまま、お城のように朽ち果てていくのだと思う。

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