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Third memory 18(Yachiyo)
「……ずりぃな。そんな顔をされて信じられない。なんて、俺が言えるわけじゃねぇか」
そう言ってサロスが苦笑いを浮かべる。ほらね、サロスにだけは通じた。
あたしが言ったことが、嘘でも真実でも、唇さえ噛まなければ、サロスはあたしの言葉を絶対に信じてくれることを知っている。
ずるいという言い方は案外当たっているのかもしれないなと心の中でクスリと微笑む。
でも、これがあたしが昔からサロスに対してこっそりと行ってきたサロスも知らないわがままの通し方。
「嘘は、言ってないから。信じてもらうしかないんだからね」
大人っぽく片目でウインクをしてみる。らしくないな、なーんて心の中で苦笑いを浮かべる。
でも、今のあたしはヤチヨじゃない、ピスティでもない……この瞬間だけ存在する、ヤヨという存在なのだから……。
「……別人なんだな」
サロスが、少しだけ落胆した表情を浮かべて、椅子に腰かける。
「残念だった? あたしが、ヤチヨじゃなくて」
「あぁ、まぁ、な……」
少しというのは、嘘だろうなぁ。そんくらい、見ればわかるほどにがっかりしている。
「ねぇ、あんたヤチヨのこと、好きなの?」
「ばっ、馬鹿。そんなんじゃねぇよ!!」
わっかりやすいなぁ……。
でも……そっか……サロス……あたしのこと。
「アハハ、それじゃあそうですって言ってるようなもんよ。誤魔化すんならもうすこーしうまーくやらないと」
「だっ、だから違うって言ってんだろ!! だいたい、俺はヤチヨのことなんてーー!!」
「じゃあ、なーんでそんなにムキになってるの?」
サロスが黙りこむ。面白いな、ついからかいたくなってしまう。あたしってこういう一面もあったんだなぁと自分自身で新たな発見をしてしまった。
「ねぇ、あたしにだけこっそり教えてよ。サロスの本当の気持ち」
「いや、だからーー」
「待った! ちょーっと待った」
あたしは、ヤヨという別人。なら、サロスの本音を本人の口から聞いても良いと思った。
そう思ったら、なんだか心がウキウキしてきて、棚にしまっておいたオレンジ色の液体を思わず取り出す。
そう言えば、アカネさんもあの時、あたしがサロスに対しての気持ちを聞いたときには飲んでいたっけ?
そっか、アカネさんもきっとこんな感じでウキウキしてたのかな? だとしたら、酷いなぁアカネさん。まっ、あたしも同じようなことしてるんだけど。
「さっ、良いわよ。話しても!」
「……いやだからなんで、お前に言うことになってんだよ!!! だいたい、お前にバラしちまったら、ヤチヨにも伝わっちまうじゃねぇか!!」
「あーそれなら、心配しないわ。ヤチヨが天蓋に入ってからそういう不思議な感覚は一切なくなっちゃったから」
都合の良い嘘は、とことん都合の良いものにしていく。唇を噛まない限り、それは、サロスにとってぜーんぶ本当の事になるから。
「……なんかめちゃくちゃ都合よすぎる能力だな」
「んーあの中は、きっと特別な空間なんでしょ? きっと」
「……適当だな。お前」
「……知ってるでしょ。そういうところも」
「……まぁあな」
あたしたちは、二人で笑いあう。楽しい時間。でも……それも今だけ……。
もしも、神様がいるんなら、もう少しだけ、この幸せな夢を見させてくれたらなって思う。
「じゃあ、あたしの好きな人の話もしてあげるから本当のこと教えて」
グラス注いだ、液体に酔ってしまったのか、ついお喋りになる。
「えっ!? はっ?? えっ!? お前、好きなやつなんているのかよ!!」
「何よ、その言い方。あたしにだってそういう人が良いじゃない」
「……へー、ふーん、ほぉー、そうなのかー」
「ん~? 気になる? 坊やぁ?」
あーもう、こうなったら止まらない。もういっそ、こうなっちゃったらお酒? という禁断の力を借りて全て言ってしまおう!!
「だから坊やは止めろって……そりゃ、まぁ、どんなやつかっていうのは、ちょっと、ほんの少ーし、いや、こんくらい微かだが、気にはなるかな」
「じゃあ、教えてあげるから。サロスも本当のこと教えなさいよね」
「はー……わかったよ。でもピスティ、言うのはお前が先だからな」
「……良いわよ~でも、約束よ。サロスも、本当のこと教えなさいよ」
今度から、飲むタイミングは考えよ。
うん。そうしよ。けど、今は……もういいや。
あたしは、グラスに残った液体を一気に飲み干した。
続く
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