First memory(Hinata)11
「そろそろ帰ろうか。ヒナタ」
私が言い出す前に、彼がその一言を口にした。もう、学院内で行っていない場所はない。
ふと、あの場所が脳裏をよぎる。
「まだ、あの場所が残ってる」
「……そうだったな。行こう」
このデートごっこは傍から見れば、とても楽しそうに見えたのかも知れない。しかし、実際には私も恐らくフィリアも空しさしか感じていなかった。
時折、私たちを見てからかうヤチヨちゃんの幻覚が見えるほど、今は心が疲弊した状態だったのだと思う。
フィリアもそれを察したのか、はたまた彼も私と同じなのか時折ボーっとしている瞬間があった。彼にもヤチヨちゃんやサロスの姿が見えていたのかも知れない。
だからこそ、私が言った最後の一か所は彼にもわかっていたのだろう。二人の向かう先に迷いはなかった。
たどり着いたのは、あの日ヤチヨちゃんが私に教えてくれたあの場所。
星の見える丘の原っぱに立ち、横に並んで二人で空を見上げる。
「綺麗ね」
「あぁ、そうだな」
空を見上げると満点の星空が広がっていて、あの日の景色と重なる。あの日と違うのは二人がいないこと。
「……ヒナタ、すまない」
フィリアの声が消えてしまいそうなくらい頼りなく聞こえる。
「あなたのせいじゃないわ」
そう、彼も被害者。誰も悪くない。
「だが、僕は! 君から大切な友人を――」
「――それは、あなたも同じでしょ? あなたも親友と、そして好きな人を同時に失った」
私の言葉を聞いて、フィリアはどうしてそれを!?と言いたげな表情を浮かべた。
どうやら気づかれていないと思っていたらしい。
「いつから、気づいていたんだい?」
「そうね、あなたたちと一緒にいてから、、、三か月ぐらい経ったころかしらね」
「そうか、君には敵わないな」
フィリアはそう言って小さく笑った。
「最初は、憧れに近いものだった気がする。ヤチヨはとても強かったから」
「そうね。ヤチヨちゃんは、あー見えてすごく強いものね」
彼女は強い。きっと私たちの誰よりも……。
「でも徐々にヤチヨは強いんじゃなくて、強くみせようと背伸びしているだけだと気づいた。だから、彼女を守りたいと思った」
「けど、ヤチヨちゃんはそんなあなたを優しく包み込んで守ってくれていた。いつも、どんな時も、そう、いつだって、私達を」
彼女は、本当はとても寂しがりや。誰かの支えがなければ簡単に泣いてしまうほどに。でも、だからこそヤチヨちゃんは誰かと一緒にいることの喜びを知っていたのかもしれない。
「自分が情けないよ。僕は結局、昔のようにヤチヨに甘えることしかできなかった……あの頃と同じだ。何も変わることができなかった……」
やっぱりね。フィリアも私と同じ。
昔は、一人の世界で生きてた人なんだと思ってた。そんな孤独だったフィリアに手を伸ばしたのが、ヤチヨちゃんとおそらく――。
「サロスが羨ましかった。あいつは、僕に光を与えてくれた。そして、その光は時にヤチヨの事も助けていた」
サロスは、普段はみんなに助けられてばかりの頼りないやつのはずなのに。本当は誰よりも強くて、頼もしくて。私より遥かにヤチヨちゃんの心の支えになっていた。いつしか、ヤチヨちゃんの一番になりたいと思うようになった私にとって、サロスという存在は大きく、とてもじゃないが敵うはずがなかった。異性の私でさえ感じていたこのなんともいえない敗北感を同性であるフィリアは何倍も感じていたに違いない。
――続く――
作:小泉太良
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