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44 おれもまぜろ
「ど、どうしてこんなことに……」
椅子に座らされたリリアは目の前に広がる光景を前にして、食堂の天井を遠い目で仰いだ。
西部学園都市内では日常的に様々な形で決闘が行われてきた。
その為、その戦いの結果を知る第三者、見届け人を用意することが決められており、その勝敗に不正がないようにすることが義務づけられている。
学園内における個人の評価ランキングを不当な形で上下させないための一つルールである。
とはいえ、このような食堂での特殊な決闘はほとんど前例はない。
リリアにはなぜか審査員席のような特別席が用意されており、好待遇されている特別な生徒のようにも周りからは見えていた。
それもそのはず、学園内でも上位メンバーが集う生徒会の一人の決闘イベントの見届け人ともなれば、ある程度は同じような力量か、一定のランキング以上と認知されているいわゆる数字持ちの生徒が担うことが暗黙の了解となっているからだ。
そんな中で、リリアは食堂に集まる多くの生徒達に異様な視線を向けられ続け、変な汗が止まらない。
盛り上がりがヒートアップしていく食堂奥のエリアに集まる野次馬もとい観客を押しのけて、二人の男がその中へと進み出てくる。
リリアからも掻き分けられた人垣の向こうから現れた二人が目に入った。
(あ、あれは確か、、、私と同じ新入生の!? えーと、、、なまえ、、、なんだっけ?? んー、わかんない! とりあえず先生に吹っ飛ばされてた人!!)
「ねぇ、ドラゴ。流石にいきなり、、、迷惑じゃないかな?」
「勝負って大声が聞こえたからな。丁度いいじゃねぇか。見てる奴らもめちゃくちゃ多いし、俺達の顔を売るチャンスじゃねぇか。おい!…」
(ドラゴ? ふんふん。あのおっきい方はドラゴくんっていうんだ。…ていうか、ちょっとまったーー!? これ以上話をややこしくしないでよー!)
「おい!! そこのどでかいリボンのチビ。今から勝負するんだろ? 俺もその勝負に混ぜろ」
(えぇー、相手は明らかに先輩だよー!? なんて口をきいてるのよー!!!!)
リリアは再び食堂の天井を仰ぎ見る。とても高い天井だなぁ。凄いなぁ。どうやって作ったんだろう? 関係ない事で脳内の思考を満たそうとするが耳から入る一触即発な気配のする声に現実に引き戻され、心中穏やかではなくなっていく。
「はぁぁ? あんたも見ない顔ね。ふ~ん、どうせ新入生でしょ。食堂のなんたるかもわかってない雑魚じゃ勝負にならないわ。それにチビじゃない。言い返すのなら、あなたが無駄にデカすぎるだけ、個体差による偏見やそれに伴う優越感を持っているという証拠ね。くだらない」
大きなリボンの少女は早々と捲し立てるように話す。改めてよく見るとそのリボンの大きさは尋常ではなく、かなりの大きなであることがリリアの位置から見て取れた。
ドラゴは雑魚という単語に即座に反応した。午前中に先生にコテンパンにされ、鼻っ面をへし折られていたドラゴにとっては聞き捨てならない言葉だった。
確かに先生には負けた。でも、同じ生徒になら負けたりはしない。そんなプライドが垣間見える。
「あぁん? 雑魚だぁ?? 勝つか負けるかはそんなのやってみないと分かんねぇだろうが!!」
「それは確かに一理ある。けど、本気でこの戦いに参戦するつもり、だわよ?…隣のあなたも?」
「そうですね。えーと、もし、先輩お二人がよければ、ぜひ僕も勝負に参加させてください。僕も今の自分の力を試したい」
「ふん、分かっただわよ。アンタたち、名前は?」
「…ゼフィン・ブレイズです」
「ドラゴ・べリアルドだ」
二人の名前が出た途端、周りの生徒達が騒ぎ出した。どうやらこの二人はちょっとした有名人だったらしい。
完全にぽつんと一人だけ置いてけぼりになっているリリアの耳に近くにいた生徒の声が聞こえてくる。
「わたし、聞いたことある! 昔まだ正規の騎士にもなってないゼフィン・ブレイズって少年に、正式な騎名授与《ギヴァーナ》を経てはいないけど、二つ名が人々の噂でついたことがあるって話…たしか、、そう!! 瞬光の申し子!!」
「俺もその噂、聞いたことあるぞ! あいつがその、ゼフィン・ブレイズ!? マジか」
(へー、なんかすごい人なんだぁ。すらっとした美少年がゼフィンくん、なんだか空気がキラキラしてる気がする。これがオーラっていうやつなの、かな?)
「ね、ねぇ」
リリアは今聞こえてきた中の単語で分からない言葉が気になりその生徒に声をかけた。
「…あのぉ」
「はい?」
「騎名授与《ギヴァーナ》ってなんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
いけない事を聞いてしまったのだろうかと不安になった。どうやらここに来る騎士を目指す生徒達の中では当たり前に知っている事なのかもしれない。
「…騎名授与《ギヴァーナ》っていうのは、騎士にとっての名誉の一つ。国が優秀な騎士に対して正式な二つ名を与える為に行う儀式の名称よ」
躊躇する女生徒の後ろから声だけが飛んできた。リリアはその声に対して礼を言う。
「ありがとう!!」
視線を戻したリリアは腕組みをしながら、なぜか視覚的ではないはずのその不思議な眩しさに目を細めた。
更に反対から聞こえる声にも耳を傾ける。残念ながらリリアには騎士に関して知識がほとんど全くない。今は情報収集に徹するべきだと考えた。
「もう一人は、べリアルドって言ってたぞ。もしかして」
「ああ、この国でべリアルド姓といやあ」
「「「黒銀の騎盾!! ダイナ・べリアルド!!!!!! うおおおお、まじかよ!! ってことは、あいつ、いや、あの方はもしかしてダイナ様の息子なのか!?」」」
「「「「「 うおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 」」」」」
そのひと声に周りは大きな歓声を上げ熱気は更に高まっていく。どうやらドラゴは高名な騎士の家系の血筋らしいことが分かった。流浪の生活を母と過ごしていたリリアもその名前くらいは知っているような有名な人物の名前だったからだ。
「な、なんかすごい人たちが集まってるみたいだけど、なんなのこれ」
周りの熱気とは対照的にリリアは一人、テーブルに座ったまま微動だにしなくなった。というより固まっていた。
視線は再び食堂の天井を仰ぎ見る。
(へぇー、学園の天井って人が居たりもするんだぁ。へぇ、すごいなぁ)
リリアの視界には情報量でパンクした脳が見せた幻覚なのか誰かの姿が映っているようだった。
「ドラゴにゼフィン。で、えーと、そういえば、今更だけど、デカリボン。貴方の名前はだわよ?」
サブリナは乱入した二人の名前を聞いた後、メインターゲットである少女に名を問うた。
「…………ショコリー」
とポツリと青い大きなリボンの少女が一言呟いた瞬間、この場に居るリリア、ドラゴ、ゼフィンを含む新入生と思われる者達以外の生徒達のほとんどが突然、場の大きく空気を変える。
「…はぁ、久しぶりに人と関わったらこんなことになるんだから、ほんと面倒な事だわ。極力誰とも関わらないように過ごしてきたはずなんだけど、今日は誤算だわ。ま、いいけど。今日の食事担当の件だけは譲れないものね」
ショコリーはそう言いながら大きなため息をついてリボンを揺らしている。
傍で食事をしていたはずの生徒会のメンバー達も瞬間に臨戦態勢を取って各々の構えをもって大きなリボンの少女と相対し、食堂内に緊張が走っていった。
続く
作 新野創
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