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Second memory(Sarosu)11

「ねぇ! あたし、今年海行くんだ!! 海」
「う、海!?」

 突発的なヤチヨの発言に素っ頓狂な声をあげる。

「うん! そのために新しい水着も買ったんだから!!」

 楽しそうな声でヤチヨが、矢次早に話してきた。
 まったく……。思わず苦笑いがこぼれた。

 でも、、いつかヤチヨにも好きなやつが出来て……そしたら自然に俺たちとも段々疎遠になっていって……

 俺が、知らない誰かと俺の知らない顔をして楽しそうに話すヤチヨがいる。

 そんな未来もあるんだろうか……。それは嫌だな。

「ねぇ! サロス!! 聞いてるの?」
「んぁ? ……あぁ、、まぁ良いんじゃねぇの? 楽しんで来いよ」
「楽しんで来いよって、、なんで、そんな他人事なの? サロスとフィリアも一緒に行くんだよ!!」
「へっ?」

 ヤチヨの予想外な返答に、再び素っ頓狂な声をあげる。

「? なんでそんな驚いてるの?」
「いや、、だって! 学院の友達とかと行くんじゃーー」
「行かないよ~ サロスとフィリアがいないのに行くわけないじゃん」
「いや、、だってお前! クラスのやつらと仲良く話したりしてるってこの前!!」
「それはそれ、これはこれ、あたしはサロスとフィリアの三人で海に行きたいの!! だめ?」
「いや……ダメ、じゃねぇけどよ………」
「じゃないけど?」

 少し、身を乗り出してヤチヨが俺の顔を覗き込む。そんなヤチヨから少しだけ視線を逸らした。

「その、、もうあの頃みたいにガキじゃねぇんだから……一緒につーのはーー」
「エッチ」
「はぁ!?」
「サロスってば今、あたしの胸の辺り見てたでしょ?」
「ばっ、、馬鹿!! 見るわけねぇだろ!! お前のそのガキみたいな胸なんて!!」
「あっ、言ったなぁ!! こいつ!! こうだぁ!!」
「わっ! 止めろヤチヨ!! くすぐったい」
「うりうり~。失礼なこと言った罰だぞー」

 ヤチヨは、あの時も楽しそうにそう言ってはしゃいでいた。

 考えてみれば、、俺が最初に意識し始めていたのかも知れない。

 昔、近くの川でフィリアとヤチヨと二人で水遊びをしたことがあった。

 あの頃は、何も考えずに一緒に遊べたが……。なーんて、そんなことを考えるのも離れていた時間が長かったからなのかも知れない……。

「しょうがない、思春期真っただ中のサロスにはあたしと海行くのは難しいのはわかったけど、、あーあ、でも本気で海、、三人で行きたかったなぁ……」
「……そんなに行きたいなら学院のやつらと行けば良いだろ」
「ふーん」
「なんだよ、その顔は?」
「サロスは、フィリア以外の他の男の子にあたしの水着見られてもいいんだなーって」
「はぁっ!?」

 ヤチヨが悪戯っぽい笑みを浮かべ。こっちを見ていた。

「いいんだね~?」
「かっ、、関係ねぇ!! そんなの別にどうでも―――」
「本当に?」
「……んぁー!!!! やっぱダメ!! 良くねぇ!!」
「素直でよろしい」
「っるせぇ!!」
「……じー」
「……」
「……じぃいいい♪」
「……あ”ーッッ!!! くっそ! そんな目で見るなよ!! わかったよ! 行くよ! 海」
「アハッ! サロスはそう言ってくれるって信じてたよ~」

 ヤチヨは満面の笑みを浮かべていた。

 またしても俺は、ヤチヨの策にハマってしまったというわけだ。
 
 まったく……。いつからだろうか、、ヤチヨに完全に敵わなくなったのは……。

「じゃあ! 約束だからね」
「あぁ」
「んっ」

 ヤチヨが、俺に向けて小指を差し出す。

「なんだよ? その指は?」
「指切り!」
「ったぁー! ガキかよ!! やらねぇぞ!!」

 ヤチヨがじっと俺を見つめて小指を差し出している。

 ヤチヨのその姿からは一切引くつもりはないと言いたげな強い意志を感じる。
 
 こうなったヤチヨはどんなことをしても譲る気はないことを俺は知っている。

「はぁ~……わかったよ。するよ、、指切り?」

 そう言って渋々、小指を差し出す。またしても、俺の完敗である。

 それを見たヤチヨは満足げな表情を浮かべ、俺の小指に自分の指を絡めた。

「指切りげ~んまん、、嘘ついた~らーー」
「んっ?」
「……にひっ! サロスは、一生あたしのど~れい! 指切った」
「おっ、、おい!! なんだ!! そりゃ!!」
「えっ? だって、約束守ってくれるんだから問題ないよね?」
「いや、、それはーー!!!」
「あっ! サロス!! 見て!!」
「話をそらす―――ッッ! うぉおおお!!!」

 ふと、上を見上げると無数の星々が降り注いでいた。光のシャワーのように俺たちの目の前で。

 それはとても綺麗で、、幻想的で……この世界の景色には見えなかった。

「綺麗だね……」
「あぁ」
「もー! そこは、お前のが綺麗だよっていうところじゃないの?」
「言って欲しいのか? お前」
「いやー、、良いかな? なんか言ってて鳥肌立ってるし」
「なんだそりゃ」
「アハハ」
「ハハハ」
 
 俺たちは、二人で意味もなく笑いあった。

 俺たちはこうして何年たっても変わっていない……。

 年ごろの男女の甘い関係なんて俺たちには縁のないものだった。

 こうやって、馬鹿みたく笑っている、、楽しそうなヤチヨが目の前にいる。


 それ以上俺が望むものなんてなかった……。

 結局この数日後。俺以上に渋ったフィリアを無理矢理連れ出し、ヤチヨとの約束は果たされた。

 その翌年はヒナタというヤチヨの友人を加えて、再び動き出した俺の時間の中での二度目の夏。

 そして、本当ならそのまま


 三度目の夏が来る


 はず――だったんだ



続く

作:小泉太良
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