Third memory 15(Yachiyo)
「約束する時は指切り、するんだろ?」
「……うん」
「どうした?」
小さいころ、絶対に守らなきゃいけない約束は指切りをする。
ママと、いつも必ずしていたことだから。
……でも、ママはその約束を破ってあたしの前からいなくなった。
アカネさんとも指切りをしたけど、そのアカネさんもいなくなってしまった。
だからかな? あたしはこの時、少しだけ指切りするのが怖かった。
サロスも、もしかしたらって……。
「ほらっ」
そんなあたしの不安を消し去るようにサロスが強引にあたしの小指に自分の小指を絡ませる。
「あっ」
「もう大丈夫だ、お前やフィリアを置いて俺はいなくなったりなんかしねぇ」
そう言って、サロスがあたしの頭にぽんっと手をのせる。
「サロス」
「俺とフィリアがお前をずっと守ってやる! だから安心しろ!!!」
「うんっ!! ありがとう」
嬉しくて、少しだけ今度は嬉し涙が零れた。
「勝手に巻き込まないでよ、サロス」
苦笑いを浮かべつつ、フィリアが病室に入ってきた。
「フィリア、ありがとね。ここに来れたのフィリアのおかげなんだよね?」
「まぁ、正しくは兄さん、のおかげなんだけどね……」
そう言って、フィリアはまた苦笑いを浮かべた。
「なんだよ、フィリア。お前、ヤチヨや俺のこと大事じゃないのかーー?」
「ヤチヨ」
めずらしく、怖い顔でフィリアがあたしの方を見つめる。
「なっ、なに?」
「君も、それからサロスも、もう、危ないことはしないでくれ……僕、すごく心配だったんだから……」
フィリアがそう言って涙をひとつ零した。
「ごめんね、フィリア、泣かないで」
「ったく、フィリアは泣き虫だなぁ、この程度でどうにかなるような俺じゃあ―――」
「どうにかなっていたかも知れないんだよ!!!」
フィリアが珍しく大きな声をあげ、あたしもサロスも驚いて言葉を失った。
「……もし、無茶をするっていうなら、次からは僕が見ている前でやってくれ……」
「フィリア」
「ただ、僕はそんな二人を全力で止める。もう、二人の後ろをただ付いて行ったりはしない。僕が二人を危険から守る。そのためなら、遠慮だってしない!!」
「はっ、ははは。おもしれぇ。んじゃもう、泣き虫フィリアは今日で卒業だな!!」
「また君はそうやって茶化す!」
サロスは、そう言って嬉しそうに笑っていた。
フィリアはそんなサロスに怒っていたけど、あたしはそんな光景が懐かしくて、嬉しくて、また少し泣いてしまった。
「なんだ? 今度は、ヤチヨが泣き虫か?」
「ちっ、違うもん!!」
「どうだか、ガキのころはおもら―――ってぇー!!」
「そっ、その話は禁止!! バカ! サロスゥ!!!」
「あの……ヤチヨ………」
「えっ?」
「ってぇぇぇえぇぇ!!!!」
つい、思いっきり叩いてしまったが、忘れてた、サロスは今、怪我人だったんだ。
「あなたたち、騒がしいーーって、何してるのよ!! コラ!! 絶対安静だって言ったでしょー!」
私達に安静を言い渡した女医さんの表情がみるみる恐ろしい表情になっていって、三人揃って
「「「ごめんなさい」」」
と言うしかなかった。
でも、その夜は、とにかく懐かしさを感じる時間だった。
サロスがいて、フィリアがいて、あたしがいる。
そんな、当たり前だったはずの時間がとても嬉しくて、楽しくて、とても幸せだった。
「おやすみ、サロス」
「……」
「おやすみ! サロス!!」
「だー! わかったよ。おやすみ」
その日は、とても良く眠れた。
朝、目が覚めると横のベッドで大きないびきをかいているサロスがいた。
ふと、上半身だけを動かして外を見てみる。
雨が降っていた。
そんなに強くないものだから、きっとお昼には止むだろう。
「今日雨かぁ……」
あたしにとって雨は別れの象徴だった。
お母さんがいなくなった日も、アカネさんがいなくなった日も雨が降っていたから……。
だからこそ、不安が押し寄せてくる。
サロスが、フィリアが、どこかにいなくなってしまうんじゃないかって……そんな不安が雨音と共に心の中に響き渡る。
「ふぁーあ」
あたしの心配をかき消すようなサロスの呑気なあくびが隣から聞こえてきた。
「ふふっ」
そんなサロスを見て、思わず笑みが零れた。
続く
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