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First memory(Hinata)13

「はぁ、疲れた……」
 疲労した体は私が思っていた以上に重くシャワーすら浴びる気力が起きない。
 ベッドに倒れこみ、天井を見上げていた。
 ふと、一枚の写真が目に入った。起き上がる余力はないので、ずりずりと体を引きずりながら写真を手に取る。
「懐かしい……」
 そこに映っているのは、まだ学生服を着たサロスとフィリアとヤチヨと私。
 記念になるからと、ヤチヨが無理矢理撮った写真。
 撮る前はなんだかんだ文句言っていたはずなのに、みんな良い笑顔で写っている。
「もうあの頃には、、戻れないのよね……」
 答えが返ってこない問いを、思わずつぶやく。
 
「フィリア……」
 自警団に入ってすぐフィリアの噂は耳に入った。それは、私にとって聞きたくないものだった。
 
 彼は今、団長の一人とお付き合いをしている。
 しかも、その団長というのが私がいる医療部隊の総団長であるアインさんらしいということ。
 真相は正直わからない。でも、今の私ではそれを確かめる方法はない。
 なにより、そんなことでよそ見をしていればあっという間に周りに後れを取ってしまうから。

 忘れよう、、。

 少なくとも、ちゃんと一人前になる日まではこの気持ちは胸にしまっておこう。
 そう決意し、私は写真をもとに戻して目を閉じた。
「明日は少し、、早起きしなくちゃ・・」

 大切な気持ちを押し込めるように激動の毎日を送っていると、時はあっという間に過ぎ去っていった。
私が、見習いとはいえ部隊に所属して数か月。医務室をフィリアが部下と訪れたことで私たちは再び巡りあった。
 そして、訓練で負傷する二人を治療することが当たり前になってきた頃、私の中で忘れられない一日が訪れた。
 
「まーた、無茶してきたのね。二人とも」
ため息をつきつつ、ソフィとフィリアの治療を終える。
「面目ない」
「すいません」
 二人の謝罪の言葉はもう何度聞いたか覚えていない。
 まったく……。
「医療品もただじゃないのよ。あまり危険なことはしないで」
 文句を言いつつ、診断書を書きなぐった。これを提出しなければ直ぐに物資は底をついてしまう。最近、少し無理をし過ぎているかも知れない。眠気を覚ますためにマグカップに入れておいたブラックコーヒーを一気に飲み干す。
「ソフィは、もう帰っていいわ。フィリア、あなたにはお話が残っているけど」
「……。ソフィ、先に戻ってツヴァイたちに報告しておいてくれ」
「わかりました」
 ソフィは私に向かってペコリと頭を下げると、その場を退出した。
 少しだけ眩暈がする。睡眠不足の影響はもはや、コーヒー程度じゃ誤魔化せるものではないようだ。
「まだ……怒ってるかい? ヒナタ」
 私の機嫌を伺うように、フィリアは恐る恐る訪ねた。再び走らせていたペンを止め、顔を上げる。
「怒ってはいないわ」
 この寝不足の原因の半分は、フィリアにある。
「なら、せめてこっちを見てくれないか? その……顔を……!!!」
 ギリッとフィリアを軽く睨む。赤く充血した目を見て。彼は、体を一瞬びくりとさせた。
「どうして、アインさんのところに行かないで私のところに来たの? 彼女の方が腕も信用も上のはずよ。それに――」
 言いかけて、思わず言葉を飲み込む。
 これ以上の言葉は公私混同になってしまうからだ。
「それは……」
「また、方針について喧嘩でもしたの?」
私の一言はどうやら図星のようで、そのまま押し黙ってしまった。
「あなたたちこれで何度目? 言いたくはないけれどパートナー同士でもあるんだから、もっとお互いのことを想い合って――」
「僕は、彼女のことをそういう風には!!!」
「じゃあ、どうして未だにズルズルと関係を続けているの?」
 フィリアのはっきりしない言動にイライラが募る。現に、昨晩だって二人で抱き合って――
「それは、君にはわからない色んな理由が――」
 イライラが小さく爆発し、マグカップを机に思いっきり力強く叩きつけるように置く。割れはしないもののガンっという大きな音が室内に響いた。
「えぇ、そうね。私はただのパルテノスの見習い医師。私のようなぺーぺーにはわからない理由があるんでしょうね」
「ヒナタ、何かあったのか? 今日の君はなんだかイライラして――」
 机を思いっきり叩き、私は立ち上がった。
「あなたは……もう、いい。出て行って、治療は終わったから」
「ヒナタ――」
「出て行って!!!」
 机のものを思いっきり床にぶちまける。フィリアはそんな私を見て、何も言わずに医務室を出ていった。マグカップが割れ、破片が床に散らばる。
「今日はずいぶんと荒れていたわね。ヒナタちゃん」
 カーテンレールを開け、先ほどまで話題の中心になっていたアインさんとその後ろにはドライさんがいた。
「お二人とも盗み聞きとは良い趣味ですね」
「そのゴメン! そんなつもりはなかったんだけどさ……ただ……たまたま——」
「たまたま、ドライを付きっ切りで看病していた私が居合わせていた。それだけよ」
 申し訳なさそうな表情を浮かべるドライさんとは対照的に、アインさんは堂々とした表情を浮かべていた。
「そうですか………」
 ペン立てからボールペンを抜き、私は冷静に診断書の続きを書き始めた。



――続く――

作:小泉太良

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双校の剣、戦禍の盾、神託の命。」もどうぞご覧ください。
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