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18 東西戦の存在意義
「今後、お前たちに課せられる学内での通常の模擬戦闘というのは個人同士の戦だ。これまでの歴史上、幾多の戦場において起きたシチュエーションを参考に指定された戦闘状況を決められ、その中で戦うものだ」
カレンは一息入れると言葉を続けた。
「そして、東西戦というのは大局的に行う戦闘訓練で、模擬戦闘を集団で行うようなものと考えて相違ないだろう。ただし、うちの学園内での模擬戦闘というものは総じて文字通りの"模擬"ではない」
「つまり、東西の生徒達同士で実際に戦を、戦争するということですか?」
メルティナが少し血の気の引いた顔でカレンに質問を投げかける。
「そういうことだ。だから弱いやつはそこで大体は死ぬ。勿論、生き残る為には力量が全てではなく、知恵も必要になる」
「生徒達同士なのにどうして!?」
「それがこの国の、いや学園の存在する意義、そして使命だからだ」
「だからって!!」
「メルティナ・フローリア!! 落ち着け。お前の言いたいことも分かる……だが、これは昔から繰り返されてきた伝統だ。優秀な騎士を生み出す為に必要な儀式のようなものなんだ」
カレンは少し言葉を選んでいるような様子で続けた。
「……今はその儀式たる東西戦を生き抜く以外で本物の騎士を生み出す術が、この学園にはない。いや、この国には……ない」
「でも、だからってそんな」
「……外の国との争いが今やほとんどなくなったのも、そうした礎の上で優秀な騎士たちが育ち、幾度となく国を守り抜いてきたからだ。私と、そしてお前達自身がこうしてここで生きていて。今まさにこの話が出来ているこの時間こそが。それこそが、この双校制度の、東西戦の一つの結果といえる」
「……っ」
メルティナはその言葉を聞いて複雑な表情で黙り込んだ。だがそれは他の生徒達も同じだった。 教室内は一気に重苦しい空気へと変化していく。
それもそのはずだ。勿論、騎士になるのが厳しいというのはここにいる誰もが知っている事である。学園の噂という伝え聞く話でなら命を落とすこともある場所というのは今や国中の者達に知られている。
だが、実際にそれが噂などではなく真実で、自分も、死に直面するかもしれないと。目の前の現実の話として現れるということとは全く別物だ。
それは言い知れない恐怖となって、彼らの心に満ち始めた。
「先生。でも、それが、周辺国との大きな争いがなくなった今でもまだ続いてるっていうのは、なんでなんですかねぇ?」
突然フェレーロが口を開いて先生へと問いを投げかける
「何が言いたい、フェレーロ」
「いやぁ、個人的に今の話を聞いての単純な疑問なんすけど、もう大きな戦いが起こらないなら、どうして、こんな事を続けるのかなぁ、なんて?」
「ふむ、どうして……か」
「そもそも俺なんかはできれば楽して騎士になれたらいいなぁみたいな人間なもんで、出来れば、なんかそういう殺伐とした事とか血なまぐさいアレコレを出来るだけしなくて済む方がありがたいなぁ、死にたくねぇしなぁと思うわけでして」
教室内に先ほどまでの空気を一蹴するようにどっと笑いが起こる。
カレンはそれを咎めるでもなく、小さく呼吸を一つして
「そうだな。この伝統は確かに今の時代にはそぐわないものではないかと私も個人的には、そう思っている」
そう呟いた。
「おっ、おやおや、やっぱり先生もその考えの方でしたか~!?」
「その考え?」
「もう騎士に戦いは必要ない!って派閥の考えですよ。ならいっそ東西戦をやめちゃうってのもいいのかもなぁ?なんて。今の時代は話し合いで解決もできるような時代ですし? 東と西で話し合って東西戦を回避するような事があってもいいんじゃないかなぁ、とか思う訳なんですよ!! 死にたくないんで!! ええ、全力で死にたくないんで!!」
教室は笑いと共にざわめき始めた。今の時代の生徒達の間には少しずつ同意の空気が広がっていく
「静かに! お前やメルティナが言う事も分からないでもないが、こればかりは変えることは出来ないだろう」
「ええー、どうしてですかー? かつてシュバルトナインの最強の盾と評された、森羅万象の守護者カレン先生の進言でもダメなんですか?」
一瞬、カレンは眉間をピクリと動かした。
「また随分と懐かしい二つ名を持ち出すものだな、、、」
「ええ、俺ってば昔から先生のファンだったもんで!!!!」
キラキラ目を輝かせるフェレーロをみてカレンはため息を吐いた。
「はぁ、向こうの西部学園の方針は知っているか?」
「……単騎能力至上主義、でしたよねー?」
「そうだ。東部学園内のみで言うならば話し合いによる解決も可能なことかもしれんが、西部の生徒達が話し合いで東西戦を取りやめるなど、納得をするとは到底思えない」
「そういうもんですかね? 今の世の中を知らなさすぎません??……いや、でもかなり野蛮だもんなぁ、そういえばあっちのやつらぁ」
フェレーロは窓の外の遠い空を眺める。西部学園のある方角でも見ているのだろう。
「しかも、ここ近年の東西戦では、ほとんど西部の勝利で終えている。騎士の正義、正しさは西部学園都市ディナカメオスに傾いている状態だと言えるだろう」
「なるほどなるほど、そうなると交渉的にも向こうに東西戦を回避するメリットがまるでない、という訳ですね」
「そういうことだ。次の東西戦でもし東部が勝てれば、そのまた更に次の戦いでは、あるいは検討が可能な方法なのかもしれないが」
神妙な顔でふむふむと頷きながらフェレーロは答える。
「どちらにせよ、思い通りにしていくには優位に立つ必要がある、と。いうことですね。いやぁーーーそれは、残念だなぁ。出来れば全く戦わずに平和に学園生活を過ごしたいんですよねぇ……そうだろ? シュレイドもそう思うよなァーーーー???」
突然フェレーロはシュレイドへと視線を送り、話を振ってきた。
続く
作 新野創
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