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Fourth memory 04

「えっ、天蓋にお二人だけで向かうなんて、危険です!」
 
 ソフィがその言葉を言うのを待ってましたとばかりに、ヒナタの口角が上がる。

「あら? ソフィ、あなたが私達を守ってくれるんじゃないの?」
 
 ソフィがその言葉を聞き、きょとんとした表情を浮かべ、続いて直ぐに小さく漏らすように「えっ!?」と、一言だけ呟いた。
 
 その怯んだ隙をついて、ヒナタが前のめりになって更に言葉を続ける。

「こんな時、フィリアならどうすると思う? ねっ、ソフィ」
 
 そして、とどめ、最後の切り札。伝家の宝刀。
 
 フィリアを引き合いに出されてしまったソフィは……。

「……わかりました。僕がお二人をお守りします。車、出した方が良いんですよね?」
 
 観念してこう言うしかなくなる。ヒナタはそのことが初めからわかっているんだろうな。

「流石、ソフィねっ。頼りになるわ」
 
 でも、きっとフィリアが同じことを言われたら、多分、もう少し、粘って止めさせようとするとは思う。

 まっ、結果は変わらず折れることになりそうだけど。

「はぁ……フィリアさんが、ヒナタさんに一生勝てる気がしないという意味が今、ようやくわかった気がします」
 
 そう言って、ソフィは肩を落とし、反対にヒナタはしてやったりな表情をあたしに向ける。可愛らしくウインクまで添えて来たから思わず笑ってしまったけど。

「あっ! そうと決まれば、準備しなきゃね! お弁当、お弁当! 何か残っていたかしら」
 
 そう言いながら、鼻歌交じりに厨房に入っていくヒナタはまるでピクニックにでも行くのかのようにウキウキ気分で準備を始める。

 ほんと、再会してからのこの数年間でヒナタには驚かされてばかりだ。

 思えば、それは久しぶりの外出だった。

 だからかな? ヒナタがやけにはしゃいでいるように見えたのは。

 楽しそうに話すヒナタとソフィの会話には混ざらず、あたしはただ窓から見えるあの頃とちっとも変わっていない景色をただぼーっと眺めていた。

 変わったのは、ここにはサロスもフィリアもいないということくらい……。

 ヒナタもあたしと同じことを考えているのなら、そんな寂しさをソフィに隠すために必要以上にこうして、はしゃいでいるのかも知れないと思った。

「着きましたよ」
 
 ソフィの車がゆっくりと止まり、あたしたち三人は天蓋跡地へとたどり着いた。

 今の天蓋は、あたしがいた以前のような立派な姿は既になくなっていて、ただのガレキの山のようになっている。

「んっ? これは……あっ」
 
 危険がないかと先を歩いていたソフィが何かを見つけ、しゃがみ込んでその何かを拾い上げる。

「また、例の鉱物? でも、形も今までと少し違うし、光り方も緑色じゃないみたいね」

 その、赤く輝く石を見た時、なぜだかサロスの赤い髪が脳裏をよぎる。

 それが偶然ではないという何かを感じるとあたしはいてもたってもいられなくなり、自然と走り出していた。

「ヤチヨ! どこに行くの!?」
 
 心配そうなヒナタの声が背中越しに聞こえてくる。でも、足は止められなかった。

 ゴメン、ヒナタ。あたし、どうしても確かめたい事があるんだ!

「ちょっと、もう少し先を見てくる」

 そう言って離れていく二人に声を掛ける。

「ダメです!! 危険ですよ!!」

 ソフィが大きな声でそう言った。

「大丈夫! 危なそうだったらすぐに戻ってくるから!」
 
 あたしは、そう言って二人の静止を振り切り、更に加速して奥へと進んでいく。

 ガレキの合間をすり抜けていくと、徐々に光は遮られる。

 小さなガレキの間に、人が通れるくらいの隙間を見つけて入り込むと周りがどんどん暗くなっていった。

「気のせい? なのかな……戻ったほうがいいかな。二人も心配してーーえっ……!?」

 これ以上行けば引き返すのは難しくなるなぁなんて思い、踵を返したその時、あたしは脆くなった足場を踏み抜き、崩れ下へと流れ落ちるガレキと共に吸い込まれ、そのまま下へと落下した。

「いたた………」
 
 お尻を強く打ちつけたけど、それ以外は大きな怪我をしていなかったのは幸いだった。
 それ以上にあたしを驚かせたのは落ちた先に広がっていた広い空間だった。そこには何もなく、ただ空洞のようになっていた。

 天蓋の中にいた時と似ているような。でも、全く違う空気も感じる場所。

 辺りを見回せば、あちらこちらであの謎の鉱石に似た物体が様々な色を放っていた。

 近づいて見てみると、それは、赤や青、緑や黄などそれぞれが一つ一つ色を放っており、それが混ざり合って中心に集まって、色を失った状態でその空間を真っ白に照らしていた。

「こんな場所があったのね……んっ? 何、これ?」

 あたしが見上げた先、そこには巨大な二体の像が何かを見守るように壁面に鎮座していた。
 
 更に、不思議なことにその二体の像の周りにだけは光が当たっておらず、真っ暗でどんな像なのかを確かめることはできなかった。

「なに……これ? こんなところになんで……。えっ!?」
 
 その二体の像を見ていたあたしの視界は徐々にぼやけていく。
 立っていることすらも出来ず、そのまま意識が薄らいでいくのをただ受け入れることしかできなかった。

 ふと、真っ暗になったかと思った視界が白くぼやけて淡く徐々に明確に景色が輪郭を帯びてくる。

「何? あたし、死んじゃったの?」
 
 意識が徐々に戻ったあたしがいたのは、暖かい光に包まれた空間。

「ここはどこ? あたし……えっ!?」
 
 あたしの目の前には巨大な赤と青の二体の光の巨人が直立してじっとあたしを見下ろしていた。

「何!? 何なの!! あたしをどうする気!?」

 途端に怖くなる。

 体が固まって、身動きができず、背筋に冷や汗が流れる。

 あたしはこの感覚を知っている。

 災いを呼ぶものの蓋としてあの空間にいたときと似たような視線を感じる。
 
 冷たく、そして恐ろしい視線。

 あたしをじっと見つめる視線。

 時折、聞こえる不気味で恐ろしい声。
 
 今まで聞いたことがないような、ただただ恐怖しか感じなかった声。

 この二体の巨人からそういった不気味さや冷たさは感じはしなかったけど、あたしは今、確かな恐怖を感じていた。




続く


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