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EP 06 真実への協奏曲(コンチェルト)05

「そぉら、行くゾォ!!」

 バネのように、地面を蹴り飛ばしアーフィが二人へと急接近する。

「サロスっ!!」
「あぁ!!」

 二人は咄嗟に腕の一部を変化させ、襲い掛かってくるアーフィの背中にある触手が放った攻撃を防いだ。

「ほォ。一発で終わると思ってたガ、まだ楽しめそうだナ」

 にやりとしてそのままアーフィが飛び上がると、空中で体を回転させて四方八方からの無数の触手攻撃を降り注ぐように二人の頭上から繰り出した。

「フィリア!!」
「あぁ!!」

 フィリアの全身から冷気が放たれる。二人に接近していた触手を凍り付かせ、その動きを封じると同時にサロスが持つ剣で触手を切り落とそうとした。

 その瞬間。

 アーフィは、自身から放たれた触手の全てを体から切り離すとその触手が影となり、視界がその影に覆われる。
 サロスもアーフィの姿を捕らえることが出来ず、触手の影の隙間から飛び出してきたアーフィの拳がサロスへと叩き込まれる。

 力強く殴り飛ばされたその勢いを相殺するようにサロスも自身の炎を利用し、体を守るように包み込むことでダメージを最小限に抑えて体勢を立て直した。

「サロス!!」
「おめぇはよそ見してんじゃねぇぞォ!!」

 サロスへと一瞬視線を逸らしたフィリアの隙をついて弾丸のようにアーフィが眼前へと迫る。
 彼は背中の触手ではなく腰に下げた短いサーベルのようなものでフィリアへと切りかかってくる。
 咄嗟に自分の変化させた銃の砲身でそのサーベルの一撃を受けて凌いだ。

「っぐ……」
「お前ら……本当に何者ダ? 俺ハ、顔が広い方だがお前らみたいのは見たことがねェ……それにーー」

 フィリアが即座に抜こうとした剣へ手を伸ばした瞬間、その剣をアーフィが触手で絡めとり膠着した。

「なんで、お前は俺と同じ顔をしてイル? マザーの匂いもない……なんなんダ? てめぇらハ?」
 
 その疑問は、同じくフィリアも抱いていたものでもある。
 アーフィだけではない、ターナやヨーヤもだが他人の空似だと片付けられない。フィリアがどうしても納得し切れない程に瓜二つと言えるのだ。

「同じ顔、ね。確かにそれに関しては僕も気にはなっていることだが……」

 絡めとられた剣を瞬時に凍結させるとその冷たさに思わずアーフィの触手はその剣を手放して離れた。
 その瞬間に銃身でサーベルを弾き飛ばしアーフィの背後に回るとフィリアは強く剣を握り構える。
 今は余計なことは考えず、目の前の存在に集中しようとフィリアは視線を強く相手へと向けた。
 
 自分の目の前に立っているアーフィという男は、今の自分が全力で挑まなければならないほどに強い相手であるとここまでの動きを見た肌感覚で理解していた。

 アーフィは臆することなく振り向きざまにフィリアに向けて触手の一部を変化させ、自身の鉱石の一部を撃ちだし疑似的に銃のような使い方を見せ、その戦闘力を更に見せつけたのである。

「……驚いたな……君も僕と同じく、戦い方が柔軟で多様なようだね……」
「そいつは俺のセリフダ……お前みたいなやつを俺が認識していなかったとはナ……そしてーー」

 その戦いの最中の周りの変化にアーフィは気づく。戦いが始まった時よりも周辺の気温が上がっていることを感じた。さらに空気中の水分量が増え、周辺が少しだけ湿度を増した様にも思う。
 
 炎が爆ぜる小さな音に気付いたアーフィは自分の目の前まで迫っていた一撃を自身の背中の触手を集中させ防ぎ払い、同時に高く飛び上がって、空中で待機していたサロスと対峙した。

「っち……」
「見えてないとでも思ったカ? お前の動きは単調ダ。分かりやすい……」
「あぁ。確かに俺は分かりやすいだろうな……」
「!?」

 払われ四散した炎が再び空中で一つにまとまると槍のような形状となり、そのまま触手で作り上げた盾を貫く。
 アーフィは驚きの表情を浮かべるも、自身の顔を緑色の鉱石のような材質に変化させ、そのまま炎の槍を顔面で弾いた。

「ちょっとは驚いたぞ……油断させるのが狙いだったカ……」
「さぁあな。俺は、単純だからよ。そんな深い意味はねぇかも知れねぇぞ」
「何?」

 サロスの不敵な笑みに、アーフィが不信感を抱くがその原因が判明する。
 自身が弾き、火の粉となって空中に霧散している炎はまだ完全には消えてはいなかった。

「どういうこーーはっ? もう一人はどこ行きやがっタ!!」
「あぁ。まぁ、気づくのが遅かったな」
「何!? ナッ!!」

 アーフィがサロスの後ろを見ると巨大な氷の塊が出来上がっていた。
 チラリと地面を見ると自分が落下するであろう付近が白く輝いている。サロスと同時に着地をすれば、凍り付いた地面に自分の足の自由を奪われるようにと配置された罠。

「はぁはぁ……これだけ大きいものを君の自慢の触手で捌き切れるのかな?」
「どう……だろうナ……?」
「その余裕、いつまで続けられるんだろうね、ぬぁぁぁぁ!!!」

 フィリアが力を込めるとそのまま頭上で、停止していた氷の塊がアーフィへと落ちていく。白く冷たい地面に着地したアーフィーは足を大きくあげてその薄氷をたたき割るように踏ん張った。

「いつまでも余裕に決まってるだろうガァ!!!」

 背中にある触手と、自身の拳で落ちてくる氷塊を砕いていく。大きな塊が削れ、空中に氷の粒がどんどん散っていく。
 あっという間に、巨大な氷の塊は当初の半分くらいの大きさへと削られていく。

 やがて触手で砕き続ける攻撃にその氷の塊が全てなくなるとフィリアとアーフィの周りには氷の粒たちが綺麗にキラキラと散り舞っている。
 だが、次の瞬間にはその氷の粒が一瞬で炎に包まれて溶けて蒸発し始めた。その熱により先ほどまで凍り付いていた地面も解け、再び水の状態に戻っていた。

「なっ!?」
「僕等は、一人じゃない」
「お前は相当強いからな。悪いが、勢いで上回らせてもらうぜ!!」

 そして炎により解けて、霧散した水が再び空中で細かく凍り付く。
 先ほどとは違い巨大な氷塊ではなく、無数の氷の針のようなものが次々とアーフィへと降り注ぐ。

「あァ。面白れぇナ!!」

 しかし、追い詰められながらもアーフィは笑みを浮かべていた。。
 彼にとってこれほどまでに心が踊る戦いは始めてであり、高揚感に包まれる。
 それはある意味、彼の限界への挑戦でもあった。

「おぉぉらおらおらおらおらおら!!!!」

 異常な光景だった。彼の両腕の拳が触手よりも早くその針のように小さな粒を砕いていく。
 更に体の一部を緑色の鉱石へと変化させ、砕いた粒が当たったとしてもそれは彼には無意味なもので致命傷には至らない。

「そっ、そん、な……」

 全てを捌かれた瞬間、ピンと張りつめていたフィリアの中の何かがぷつりと音を立てて切れる。
 
 先ほどまでの行動がフィリアの限界だった。足が、腕が、体が動かず、濡れたままの地面へと倒れこんだ。
 
「フィリア!! もう一度だっ! どうした?ーーフィリア!?」

 サロスが振り向いた先、そこにはその場に倒れこみ意識を失ったフィリアがいた。
 体の変化も元に戻り、完全に無防備な状態である。
 
 自分は限界だというのにサロスにはまったくその様子は見えなかった。フィリアはそんなサロスに勝敗を託し、意識を完全に手放すしかなかったのである。

「どうやら、お仲間は限界だったみてぇ!! だなァ!!!」

 アーフィが、体の鉱石をバラバラに砕きそのままフィリアの頭上へと振り落とす。

「っくそ!!」

 サロスがフィリアの周りに炎の壁を作り出して守ろうとするが構わずアーフィは攻撃の体勢を崩さない。

「あぁ!! そうだよなァ!! お前はそうやってお仲間を守るよなァ!! でも、それじゃあ俺にハーー」

 背中の無数の触手をアーフィは、サロスに向けて収束して放つ。全ての触手の力が一点に集中し、その形を継続、維持させることに相当の力を使うようで苦悶の表情が浮かぶ。

 これほどまでに長い時間そして複雑な力の行使は、彼にとっても未知の領域である。

 もはや彼の身体もフィリアのように限界を迎えていた。
 しかし、それを超える事ができれば自分はさらなる高みに上り詰めることができるはず、そのはずだった。

 ……アーフィの唯一の不運はその相手となった二人がサロスとフィリアであったこと。その一点だけだった。

 サロスは仲間のピンチでこれまでにないほどに冷静だった。それはフィリアが信じてくれた自分を信じているからである。
 
 目の前の動きが全て止まって見える。同時にサロスの胸が熱くなる。
 
 炎が、彼に答えを導く。
 サロスは自分の意思を大きな何かと無意識に同調させたのである。

 『フィリアを守り、目の前の相手を倒したい』それはシンプルが故に強い想いであった。

 その想いに応えるようにサロスの背後から出現した巨人の腕はアーフィをそのまま殴りつけ、遥か遠くへと吹っ飛ばした。勢いよく壁へと叩きつけられたアーフィは衝撃で吐血が吹き出す。

 勝負は一瞬で決まり、アーフィは信じられない光景を目にしていた。

 目の前のサロスがこの空間の天井に届きそうなほどに巨大の姿になっている。
 その腕はフィリアの使ったあの大きな氷塊よりも逞しい太さで、更にはフィリアを守るように大きな盾がその周りを囲っていた。

 アーフィが一番信じられなかったことは、力の使い過ぎでまったく体の動かない自身との決定的な違い。

「どこにまだそんなに力が、残っていやが……ん、だ」

 激しい戦いの末、崩壊を始めたこの場からアーフィとフィリアを抱えその場所から脱出しようとしているサロスの姿を薄目に見ながら彼は驚愕していた。

 あれだけの戦いの上で体力は元よりあの不思議な力を使いつつ、今も尚、二人を抱えて走っている。

 結果的に彼が居なければ戦いの激しさで崩壊したあの場所に二人は生き埋めになっていた事だろう。

 アーフィの知るエルムの力は使えば使うほどその肉体と精神に莫大な負荷をかけるはずだった。
 しかし、サロスにはその疲労感がまるで見えない。その類稀なる状況にアーフィは自分の常識を疑わざるを得ないまま意識を失い瞳を閉じたのだった。

 

 闘いが終わってからしばらく経った頃。

 サロスは二人を連れ、別の場所へと移動していた。それはアーフィたちのアジトから少し離れた開けた場所であり、もう少し進めばターナやヨーヤの住む村にもたどり着ける場所でもある。
 
 自分より先に目覚めていたフィリアから水を手渡され、アーフィは素直にそれを受け取って飲み干した。

「っはぁ。おい、なんで助けた? この俺を……?」
「さぁね……なんとなくわかるけど。本当のところはサロスにしかわからないさ……ただ……」
 
 呑気にいびきをかきながら寝ているサロスを見てフィリアが苦笑いを浮かべる。

「サロスはきっと、君も見捨ててはいけない存在だと思ったんだろう……」
「……とんでもねぇお人よしやろうだな……」
「ふ、君がそれを言うのかい……?」
「……どういうことだ……?」

 その発言にアーフィの視線が鋭くなる。
 しかし、そんな凄みのある視線も今のフィリアから見れば彼の本当の姿が透かして見えるようで口元に笑みを零しながらこう言った。

「君は、本当はターナやヨーヤに今の自分のその姿をどうしても見せたくなかったんじゃないのかい…………?」
「……」
「こんなやり方は間違っている。そんなことは、君自身が一番わかっていることでーー」
「やめろ!! 俺は、お前らの考えるようなお人よしなんかじゃーー」
「何があったんだい……? アーフィ、君が、今のようになってしまった理由を話してくれないか……?」

 反論をしようとしたが純粋に自分を見据える瞳を見てアーフィは大きなため息をついた。

「嫌な目だ……どうしてもあいつらのことを思い出しちまう。その目は……」
「……」
「良いだろう。約束だからな。話してやる」
「……」

 フィリアから顔を背け、ぽつりぽつりとアーフィは話し始めた。

「あの日、大人達と一緒に度々現れる集団の退治をしに出かけた……俺たちはその集団を早々に退治し終わって村へと戻ろうとしていた……だが……」
「だが……?」
「その道すがら俺たちは知ってしまった。俺たちの身に何が起きているのか……その真実をーー」
「真実……?」

 アーフィはゆっくりと、自分の右手を見つめる。
 その腕は、変化したり元に戻ったり、安定していないようだった。

「ターナやヨーヤ……それに村のみんなもいずれ、いつか、こうなっちまうんだ。マザーが壊れ、呪いを振りまく存在になってしまった今、それは誰一人として逃れる事が出来ない未来だ」
「呪い……その呪いとは……まさか!?」
「そうだ……今、俺たちに起きて居る現象。体がこうして変化してしまうという呪いだ……」

 フィリアは思わず息を飲んだ。
 ターナやヨーヤも目の前のアーフィのようにそのうち人ではない姿になってしまうのだと。そのことに彼の胸はひどく焦燥感に駆られた。

 顔が似ているだけの他人である村で良くしてくれた二人、この先に訪れる未来に気が気ではなかった。

「マザーの呪いによって、こんな体になってしまうことを避けることはできない」
「なら、そのマザーってやつをぶっ倒せばいいんじゃねぇのか?」

 いつの間にか起きていたサロスが口を挟む。
 フィリアは思わず笑いそうになる。

 いつだって、サロスは単純が故にシンプルな答えを導き出す。

 仮にそれが不可能なことであったとしても、他の誰かが言わなかったとしても、彼はそれを口にする勇気と覚悟がある。

 その彼の決断力にフィリアは何度も助けられてきた。

「そうだ。その元凶を叩けば。君だってーー」
「それは無理な話だ」
「無理かどうかはやってみねぇとーー」
「バカか!! マザーを失えば、俺たちは結局生きてはいけない。俺たちの命はマザーによって生かされているんだ。方法など何もない」

 今までで一番真剣な表情のアーフィの言葉と迫力に二人はこれ以上何も言えなくなっていた。

 沈黙がしばらく続く中で、夜がまもなく明けようとしていた頃。話の重さなどどこ吹く風というようにあっけらかんとしたサロスが再び口を開いたのだった。



つづく

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