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Second memory(Sarosu)13

「とうちゃーく! あー! 楽しかったー!! また、海に行こうね。サロス」
「当分は無しだ。明日からは、忙しくなるんだからな」
「むー、わかってるわよ。あーあ。明日が来なければいいのになぁ」

 子供みたいなことを言いながら、頬を膨らますピスティを見て思わず笑ってしまう。

 こいつは不思議なやつだ。

 普段は、何考えてるかわからないし、自分でミステリアスガール!……とか言ってるくせに、こーんな子供みたいな一面も覗かせる。

 いや、そもそもこっちが素なんじゃないかと思える。

 不思議と、ピスティが笑うと幸せな気持ちになれた。

 一日でも早くヤチヨを助ける方法を探さなければならないのに……ゴメンな、ヤチヨ。

 でも、お前ならきっと許してくれるよな?……もう少しだけ俺に時間をくれ。

「サーロスっ、どうしたのぉ? 疲れた?」
「あ、、あぁ。かも知れない」
「んー? なーんか、歯切れ悪いなぁ……あー! わかった!! まーた、愛しの、ヤチヨちゃんのことでも考えてたのかなぁー?」
 
 フフフと、ピスティがからかうように笑う。コイツ……本当に俺の心が読めるとでもいうんじゃないだろうか……。

「あのなぁ! 何度も言うが、ヤチヨはそういうんじゃなくてーー!!!」
「大切な仲間……。俺には、、いや、、俺たち四人にはなくてはならない存在なんだ……。 でしょ? 何度も聞いたわ」
「わかってんならーー!!!」
「はいはい。怒らない怒らない。ムキになればなるほど、おこちゃまに見えるわよ。サロス」
「……。もういい。寝る」
 
 そう言って、バイクから降りて歩いて行こうとした俺の手をピスティが掴む。

「拗ねないでよー。今日は、まだやることがあるんだからさ〜」
「やること?」
「うん! ちょっと待ってて!! すぐに取ってくるから!!」
  
 ピスティが何を考えてるのかはわからないが、、素直に従うことにする。

 楽しそうな顔をしたピスティを無視すると、翌日、大変面倒なことになる。

 具体的には、明日の作業が何一つ進まなくなる。

 ……まぁ、それでもこういう時のピスティの提案に乗って後悔したことがないのも確かだ。いつも結果的に、楽しい思い出として残っていくのだ。

「……しゃあねぇな。明日早いんだし、少しだけだからな」
「やったー! サロス、だーいすき」
 
 世界一軽くて、気持ちのこもってない大好きという言葉を背に受け、俺を追い越して家へとルンルン気分で戻るピスティを見つめながらその場に立ち尽くす。

 風もないのにいつもより涼しく、少しだけ過ごしやすい、そんな夜だった。

 ふと、上を見上げると星が数えきれないくらいほどに瞬いている。脳裏に浮かんだ記憶と重なる。まるで昔、ヤチヨと一緒に見たあの日の星空のようだった。

「お待たせ! はい! これ、持って!!」
 
 空を見上げる俺の背後から声が聞こえ、振り向く。するとピスティが俺に、見たことのない紐のようなものを渡してきた。

「なんだこれ?」
「大昔のおもちゃ?っていうのかな?ハナビって言うんだってコレ。んで、これは、その中の種類の一つ、センコウハナビって名前のやつなの! ほーら、火つけるからちゃんと持って」
「はぁ? 火を使うって? そんな、危ないものなのかよ!! だいたい、紐を燃やしたら俺があぶな――」
「大丈夫。もし、信じられないならあたしのやつに付けて良いから」
 

 そう言って、ピスティはぐいっと俺の方に自分が持っていた紐を突き出してきた。

「……どうなったって俺は知らないからな。文句言うなよ!」
「だーから、平気! だって!! 火、早く付けて」
 
 俺は、半身半疑でピスティの持つ、紐に火をつける。

 するとそのセンコウハナビと言う名前の紐は、先端からゆっくり燃えて火の玉のようになり、やがてパチパチと小さな火花が出始める。
 火の玉を微かに揺らしながら、暗くなったこの場所にいる俺とピスティの二人を照らしてゆく。
 だが、それ以上は何も起きなかった。

「……なんだこれだけ?」
「けど、綺麗でしょ!……まぁ、、あたしも実物は初めて見たんだけどさ」
「あぁ、確かに……ん? ってか、お前まさか試しもしないでぶっつけ本番で火つけたのか!!」
「えぇ、そうよ」
「お前、、もし、失敗して大やけどでもしてたらどうすん――」
「それは心配してなかったわ。仕組みはすごく単純だし。それにーー」
「それに?」
「あたしとサロスの二人で楽しみにしていることが失敗するなんて事、あるわけない、そうでしょ?」
 
 ピスティはそう言ってニッと笑った。

「いや! 俺は別にーー!!」
「隠さない隠さない。ほら、サロスのも付けて」
 
 ピスティに対してこれ以上ムキになると、また笑われるだけだと察した俺はおそるおそるその紐の先端に火をつけた。

 紐はさっきと同じように先端に火の玉を作り、やがてパチパチと小さな火花が散った。

「……このセンコウハナビをやって夏の夜を楽しんだ時代もあったんだってさ」
「なんつーか、、地味、だな。これ」
「う〜ん。実は、他にも色々あってね。中でも、ウチアゲハナビっていうのは空に大きな火の花が咲くんだって」
「火の花? へぇー、想像もできねぇな……」
「流石にそれを作るには人手も材料も足りなかったけど、、なにか一つ作ってみたいと思って作ったのが、このセンコウハナビなの!」
「なるほどな」
「サロスは嫌い? センコウハナビ?」

そう言って上目遣いにピスティは俺をのぞき込んできた。

「いや、どっちかと言えば、好きかな」
「だと、思った」
「んっ?」
「だって、あたしが好きだなって、思ったから。だから、きっと、、サロスも好きになってくれるだろうなって思ったんだ」
 
 その笑顔に動揺して思わず、センコウハナビを手から放してしまった。

 地面に落ちたセンコウハナビはやがて光を失い、元は紐だったソレは大地へと還るように闇の中へ溶け込んでいった。

続く



作:小泉太良
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