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43 どうしてわたしが
こげ茶色した長い一本の編みおさげの少女サブリナと大きなリボンをつけた金髪の謎の少女の視線が、銀髪の少女ティルスを挟んでぶつかり合う。ティルスは異様な緊張感にどうしていいのか分からなかった。
(な、で、できる!? あの子、なんて綺麗な食べ方なのだわよ)
サブリナは相手の皿に積まれたビビフ肉の骨の山を見て心の中でそう思った。額には僅かに汗が滲み始めていた。
「……根拠は、あるのだわよ? マウロではないという根拠は」
腕を組んで小柄な少女を見下ろすように不敵な笑みを浮かべた。
「自分の舌を信じているもの。今日のビビフ肉の味付け、ソースの深みの中に感じるスパイスのバランス、そしてビビフ肉の柔らかくも香ばしい焼き加減。スパイシーなソースに覆われて分かりにくいけれど、これは間違いなく…マイヨの技術」
大きなリボンの金髪の少女はふふんと鼻を鳴らしながら腰に手を当てて胸を張ってサブリナを見上げた。
サブリナは瞬間、ハッとする。確かにスパイシーなソースにより焼いた肉本来の味わいが判断しづらくなっていたのは確かだ。相手はその素材の調理の加減を見抜いたという事なのだろうか?
いや、そんなはずはない。断じてそんなはずは…しかし、彼女の感覚もその焼き加減を思い出し、今日の担当がマイヨである可能性を完全に否定できないでいた。
「ぐ、ぐぐ、言われてみれば……す、スープはどう説明するのだわよ」
サブリナは微かに冷汗をかいて自分がマウロの担当だと考えるに至ったスープを指摘する。
「確かにスープは素人にはマウロだと勘違いするのも無理はないわ。スープが得意なマウロの味付けを再現しようとしたのでしょうね」
「し、素人だわってぇ!? ふんぎぎぃ~ギリィ、そ、そうだわよ。今日のメニューにはもう一品ある! それで勝負だわよ!!」
サブリナは焦りから勝負を持ちかける。最早、担当が誰なのかはこの際どうでもよくなっていた。ただ、この大きなリボンの金髪の少女に勝ちたい。その一心だった。
「…勝負の方法は?」
「勿論!! 大食い勝負だわよ!!!」
「サブリナ、貴方まだ食べるの!?」
ティルスはこの雰囲気についていけていないようだ。危険な雰囲気ではないと悟り、小さくため息を吐くと自分の食事を再開した。他の生徒会のメンバーらしき者達は我関せずといった様子で各自の食事をマイペースに食べている
「ティルス様…いいんですか?」
「ええ、サブリナは食欲が制服を着ているのでしょう? もう何を言っても無駄な気がするわ。好きなようにやらせましょう。幸い危険な勝負ではないようですし」
「そ、そうですか。ティルス様がそう仰るなら」
その瞬間、大きなリボンは大きく揺れ、笑い声が高らかに響き渡り、直後にニヤリとした笑みの少女がサブリナを射抜く。周囲はようやく何かが起きていることを察して注目が集まる。
「くっくっくっく、この私に、大食いで、勝負を、挑むと??」
「ええ、当然受けるだわよねェ?」
サブリナも最早、後には引けないと言わんばかりにずずいっとショコリーの眼前に顔を寄せ肉薄する。二人は至近距離でバチバチと火花を散らして睨み合う。
その背後でこれまでの周囲の様子を無視して食事を続けていた生徒がいた。
(えー、なにこの空気?? すんごい嫌な予感がするんだけど)
大きなリボンの少女のいたテーブルのさらに後ろのテーブルの席にいたピンクの髪のお団子がゆっくりと背中の後ろの騒がしい方へと振り返る。これまでの様子は勿論、聞こえていたが面倒ごとに巻き込まれるのだけはごめんだったので無視するつもりだった。だが周囲の視線が集まるとそれに釣られて気になってしまうのが人の心理というものだ。
だが振り向いた瞬間、リボンの少女の積み上げた骨の山を挟むようにサブリナとバチバチッと目が合ってしまう。なぜだかとても嫌な予感がして瞬間的に視線を勢いよく逸らす。
「そっちのピンクのお団子ちゃん!!!!」
(ヒアアアアアア、イヤアアアアアア、私じゃない私じゃない私じゃない)
「あなた!! この勝負の見届け人になるだわよ!!」
(ちがう、ちがう、絶対に私じゃなーい)
必死に聞こえないふりをし続ける彼女の肩に小さな手が置かれる。
(まってまってまってーーーーーー)
「ヒッ」
身体がびくりと反応する。恐る恐る振り返ると青い巨大なリボンが目に入り視線を落とすと少女の青い瞳と目が合う。
「聞こえてるんでしょ? やりなさい。えーと、あなた見ない顔ね…新入生? 名前は?」
「ひ、ひゃい、り、リリアでしゅう」
「そ、リリア。こっちよ。頼むわね」
こうして強制的に二人の勝負を見守ることになり、周囲では面白そうだと集まった野次馬達が観客のように視線を集めていた。
続く
作 新野創
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