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First memory(Hinata)06

 ――が、
「ヒナタ、避けろ!!」
「えっ!?」
「ヒナタちゃん!!」
「ヒナタ、手を伸ばせ!!」 
「ひぃぃぃぃ!!! 来ないでぇぇぇ!!!」
 思い出したくない位に過酷で大変なことの連続だった。途中、私は何度も、もうダメだと思った。しかし、その度に一番近くにいたヤチヨさんは私の手を握って励ましの言葉をくれた。
「大丈夫だよ!ヒナタちゃん!!」
 彼女の言葉は、決して気休めではなく不思議と安心できる力があった。それは、彼女が常に前を走り私たちを守ってくれている二人を心から信じているからだろう。
 ここまで人を信じ切れる彼女の強さとそれを信じさせる彼らの強さに、私の中からもいつの間にか恐怖心は消え、あふれる希望で胸がいっぱいだった。同時に胸が高鳴りワクワクしていた。これは本を読んでいる時には感じたことのない気持ちだった。

 そして私達は遂に――――

「っしゃ!あれ、出入り口じゃねぇか!!」
 サロス君の喜びの声が上がる。嘘のようだが、本当に出口まで辿りつけてしまった。
「サロス、昇降口のシャッターが閉まり始めている。ヤチヨとヒナタさんを先に学院の外に出すぞ!!」
「了解!!」
 後ろを振り返らずともわかる。先ほどから何度も聞いた錆びついた駆動音がうるさいくらいに近づいていたから。
「ただ、外にもまだ何かあるかも知れない。サロス、君も二人と同時に外に出てくれ!!」
 えっ、私は耳を疑い、二人の方を見る。ヤチヨさんはただひたすらに前を向いて走っていた。もう、限界なのだろう。息はだいぶ上がっているようだった。
「お前はどうすんだ!!」
「必ず、後を追う!!」
 二人がお互いを短く見つめ合い、うなずき合う。
「約束だぞ」
「あぁ」
 二人の拳が、並走しながらコツンとぶつかる。なんだかいいなと私はこんな状況ながら自然と二人のやりとりを見ていた。
「っし、ヤチヨ、ヒナタしっかり捕まっておけよ!!」
「えっ!?」
「ちょっとサロス、何す、、、キャッ!!!」
 サロス君は、私とヤチヨさんを両手で抱えるとそのまま出口に向かって大きくジャンプし。着地と同時に私達を降ろした。すぐさま彼は背後を振り返り叫ぶ。
「フィリア!!」
 フィリア君が、警備ロボに消火器を投げつける。警備ロボが怯んだ一瞬の隙に昇降口へと駆けてくる。シャッターは既に動き出していた。
「サロス!!」
 サロス君が伸ばした手を、フィリア君が掴む。
「うぉぉぉぉぉぉ」
「はぁぁぁぁぁぁ」
 警備ロボットがフィリア君の足に掴みかかる。
「っく!!」
「フィリア!!」
「こいつ、まだ……」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
 ヤチヨさんがサロス君の腕を掴む。
「サロス!!キャッ!!」
「あっ、危ない!!」
 私はヤチヨさんの手を思わず掴む。ヤチヨさんは更に力を込める。それに気づいたサロス君が力強くフィリア君の手をがっちりと掴んだ。
「フィリァァァァァ!!!」
「サロスゥゥゥゥゥ!!!」
「お願い!!!」
「間に合って!!!!」
 サロス君がつかんでいるフィリア君を三人で引き寄せるように引っ張ぱり、フィリア君の身体が学院の建物の外へと抜けだしたと同時にシャッターが閉まる音が大きく響き渡った。


――続く――

作:小泉太良

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声プラのもう一つの作品
双校の剣、戦禍の盾、神託の命。」もどうぞご覧ください。
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