Second memory(Sarosu)09
目覚めるとヤチヨが横にいた。
直後に眼鏡をかけた女の先生にきつく叱られ。
その後は、ヤチヨと病室で二人きりになった。
「ねぇ、サロス」
ヤチヨの声が横から聞こえる。
「なんだよ? もう遅いし、さっさと寝ろよ」
「あのね。ありがとね」
「なんだよ。気持ち悪いな」
「うん。その、、ちゃんとお礼言えてなかったなって、助けてもらったのに」
お礼を言わなければならないのは俺の方だ。ヤチヨやフィリアがいなければ俺はずっとあの暗い部屋に閉じこもっていたままだっただろう。
幻の母ちゃんの姿を追い求めて、光を失って。どうにかなってもおかしくはなかった。人の道を外れるようなことも起きたかもしれない。インチキ臭い呪いや、方法だってもしかしたら試していたかも知れない。
でも、俺にはヤチヨがフィリアがいた。俺は、一人じゃないと思い出させてくれた仲間がいた。
「礼なんていらねぇよ。お前やフィリアを助けるのなんて当たり前のことだからな」
照れ隠しにそんなぶっきらぼうな言葉を吐く。顔は、そむけることにした。なんだか、泣いてしまいそうだったから。
「うん、でも。あたし、どこかでサロスなら来てくれるんじゃないかなって思ってたんだ」
「なんだよ。それ」
「だって、あの日あの森であたしを見つけてくれたあの日から、サロスは必ずあたしを探し出してくれた」
「そんな頻繁に迷子になってたっけか?」
「ううん。でも、あたしが迷った時、寂しい時、辛い時。サロスは必ずそばにいてくれた。だから、今度はサロスがそうなった時同じようにそばにいてあげなきゃいけなかったのに。あたしは、どうしていいか分からなくて逃げた………」
ヤチヨの表情を見なくてもわかった。ヤチヨは、また泣いている。ヤチヨを泣かせないように守ってやれと母ちゃんと約束したのに。
いや。違うな。
母ちゃんとの約束云々じゃない。ただ、俺がヤチヨの泣き顔を見たくないだけなんだ。 胸がしめつけられるような気がした。これは、痛めた体の痛みとかじゃない。呼吸をするのがつらい。
なんなんだよ。どうしちまったんだよ、俺は。
「あっ、ごめんね。あたしが泣いてたら、またサロスを困らせちゃうね」
やめろ。その、俺を安心させるためだけに作る偽りの笑顔は止めてくれ。あの日の最後に見た母ちゃんの笑顔と重なってしまうんだ。
だったらまだいっそのこと泣いてくれていた方がいいのかもとも思う。そんな悲しい笑顔、そんな顔は、もう誰のものも、もう、見たくない。
「なぁ」
「んっ?」
「退院できたら、あの場所にもう一度行こうぜ」
「あの場所?」
「星の見える丘だよ」
もう、自分の顔がどんなになっていても構わない。ヤチヨの目をちゃんと見て言いたかった伝えたかった言葉。あの場所にもう一度行けば何かが変わる気がした。ヤチヨも俺も今、きっとあの場所にいかなければならない気がした。
数週間後、俺たち二人は厳重注意を受けつつ退院した。退院後、シスターには凄まじい勢いで怒られた。あんなシスター見たの初めてかも知れない。
翌日、俺たちは子供のころのように久々に三人で集まった。俺は、せっかく集まったのだから何かしようと様々な提案をするが、フィリアにことごとく却下されてしまった。
「二人とも、退院したとはいえ。まだ、無理はするなって言われてるじゃないか」
「なんだよ。フィリア、昔は俺らの後ろにくっついてくるだけの子分みたいなやつだったのによ」
「あぁ、そうだね。でも、僕はもう二人の後ろを付いていくだけじゃない。時には、二人の前を歩く、そんな僕に生まれ変わったんだ」
そう言って、フィリアは誇らしげにいった。正直、嬉しかった。ようやく、フィリアが俺たちと同じ場所に立ってくれたみたいで。
「だから、しばらくはこうやって集まって話すだけ。動いたりするのはもう少し時間を置こう」
「ちぇー。つまんねぇの」
「そう?あたしは、こうやってお喋りできるだけでも楽しいけどなぁ」
「僕もさ、サロスは?」
ずるいよなぁ。そうやって、二人で結託されちまったら俺が言えることなんて一つしかねぇじゃねぇか。
「俺も、それで悪くはねぇかな」
「素直じゃないなぁ」
「仕方ないよ。サロスだもん♪」
「っ、お前らぁ!!!」
「はははっ」
「ふふふっ」
「へへへっ」
よくわかんねぇけど、多分こういう風に笑えるのが幸せって言うんだろうなって思った。
そんなこと考えもしなかった。当たり前にヤチヨがいて、フィリアがいて。んで、家に帰れば母ちゃんがいる。そんな日々が永遠に続くと思っていた。
でも、それが壊れた瞬間に俺自身も壊れちまった気がした。
けど、俺自身は全然壊れてなんていなかった。ただ、忘れていただけなんだ。目を背けていただけなんだ。
母ちゃんはもういない。
でも、俺にはこいつらがいる。
だから今は、そのまま二人との時間を俺は精一杯楽しむことにした。
続く
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