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Fourth memory 11
その夜、あたしはアカネさんから言われたことやサロスの未来を決定づけるような発言には慎重に注意しつつ、今のあたしが知っている天蓋についてのことをサロスに伝えた。
正直、多くはない。あたしが知っていること……それは、あの日、サロスとフィリアの二人と交わした内容……それが全てだった。
サロスもフィリアもいったい、どうやって天蓋について知ったのだろう?
あたしですら、知らないこと……天蓋の中にただいただけであたしは結局……何も知らないんだ……。
いや……知るチャンスはあったんだ……ずっと、誰かに話かけられていたから……。
でも、あたしは怖くて、ずっと聞こえないフリをしていた。
今、思えばあの声たちはきっと……過去の選人になった人たちの声。
確証はない。けど、そんな気がした。
なんとなく、あたしと同じような感じがしたから……。
天蓋を出れたとしても、彼ら、彼女らは幸せにはなれなかったのだろう。
その後悔や、悲しみの気持ちだけが伝わってきていた。
だから、余計に、あたしは、目を閉じ、耳を塞ぎ、小さく蹲っていたんだ……。
でも、その時、怖がらずにちゃんと話を聞いていれば……こんなことにはならなかったかも知れない……。
何か、解決策があったのかも知れない。
悔やんでも遅い……だから、あたしはサロスに精一杯、伝えた。
サロスに話しながら、自分の発言を整理する。
どうやら、ヤチヨ……天蓋にいるであろうこの世界のヤチヨを救うためにはヤチヨの代わりとなる新たな選人を用意するか、原因となっているであろうわざわいをよぶもの自体がいなくなればいいのかもしれないと思った。
誰かを犠牲にする。つまり新たな違う選人を用意するというプランには、サロスは否定的だった。
他の誰かを犠牲にすることを選べば、ヤチヨが悲しむと……。
あたしのことちゃんとわかってくれてるなって、内心嬉しかった。
「なぁ、ピスティ、色んな問題は一旦、置いて置いて……正直、俺たちは、ヤチヨを天蓋から救い出すことはできるのか?」
「それはできるわ……ただーー」
動かしていたスプーンが止まる。
ヤチヨはあたしが何もしなくても……サロスが助けにきてくれて、そして、天蓋からは解放される……でも、その後……問題はその後……。
サロスを救い出す……それができる、そんな、保証は今はどこにもなかった……。
そもそも今のこの状況自体をまだ完全には呑み込めていないのだから。
「まっ、どうにかなるだろ」
俯いた顔を上げた時、ニッと笑ったサロスの顔が目に入った。
確証なんて、ない。でも、この笑顔を見れば何故か上手くいくそんな気がした。
能天気というか……前向きというか……本当、そういう考え、あの頃から変わってないんだね。
「それにいざとなりゃーー」
「?」
「……いや、なんでもねぇ!」
発言を誤魔化すように、サロスがスープを夢中で口に運ぶ。
でも、猫舌気味なサロスはあつつと言いながら、スプーンをカランッと床に落とした。
「もう……何やってるのよ」
なんだか少し笑って、あたしは立ち上がって、引き出しから代わりのスプーンをサロスに渡し、落ちたスプーンは拾い上げ流しで洗った。
こういう、なんだか、子供みたいなところは、可愛いなと感じた。
フーフーッっとスープを冷まして口に運んだあとサロスは
「実はな、もう一人、俺たちには仲間がいる。フィリアって言って俺の親友なんだ。ヤチヨから聞いてないか?」
唐突にそんなことを聞いてきた。
……意外だった。
サロスの口からフィリアの名前が出てくるのは。
だって、天蓋にいたあたしが知っているサロスとフィリアの最後の記憶は……そんな親友なんて言葉が出てくるような感じではなかったから。
どう答えるべきかは僅かに迷ったけれど、ここで知らない事にするとあとで会話のつじつまを合わせるのが難しくなりそうな気がして素直に答える。
「えぇ、聞いてるわ。いつも、三人で遊んでたって……」
「そうか……」
「で、そのフィリア君は今、どこに?」
「わっかんね! 俺たち喧嘩しちまったからさ」
えっ。とその言葉で一瞬ハッとする。
この頃の二人はとても仲が良かったはず。ということは天蓋に助けに来てくれたサロスがフィリアを戦った時の様子が親友のそれとは違ってしまっていたのは、この時の喧嘩がもしかしたら発端なのではないかと推察した。
そうか、この頃から始まっていたんだ。
「けん、か? あなたたちが?」
「……ヤチヨことで……な……」
あたしの、こと、で? 再び驚いてしまう。
そうか、二人は天蓋に行ったあたしの事で喧嘩しちゃってたんだ。
「そう……だったのね……」
「でも、あいつもきっとヤチヨを救いたいって思ってる。だから、きっとそん時は俺たちに協力してくれるはずだ!!」
サロスは、そう言ってニッと笑った。
あたしは、どう返せばいいか分からず、ただ今は笑って同意するしかなかった。
その日、あたしは夢を見た。あんなことを聞いてしまったからなのか、あの日、あの瞬間の出来事だった……。
『サロス! 君は、今更、のこのこ何しに戻って来たんだ!!』
『フィリア! 俺は、ヤチヨを救うためにここに来たんだ! そこをどけ!!』
フィリアが凄まじい形相でサロスを睨み、銃口を向ける。
サロスは、それに一切怯まず、一歩また一歩と前進して行く。
あたしは、そんな二人を天蓋の中からただ見ていた。
これは、夢だ、あたしの過去の記憶だ……。
その証拠に、あたしはあの頃の天蓋にいたあたしの姿になっていた。
『来るな! サロス!! 君は、まだそんな子供みたいなことを言っているのか! もう、僕たちは子供じゃないんだ! ヤチヨはこうして生きている! なら、ヤチヨが役目を終えて出てくるまでおとなしく待っているべきなんだ!! サロス!!』
短く、銃声が天蓋内に響く。フィリアの表情は、今しがた発砲したサロスを見て、驚き、固まっていた。
『その、堅物の頭は変わってねぇみたいだなフィリア!!』
サロスが持っていた銃を振り投げ、フィリアの手に当てた。思わず銃を落とすフィリア。
二丁の銃は、仲良くその場に音を立てて落ちた。
『……君こそ、その、身勝手さは変わってはいないみたいだね』
『引く気はねぇんだな? なら、仕方ねぇ———』
『僕と戦うつもりか? サロス?』
サロスが両腕を上げ、握った左右の拳を目の前にして構えを取り、フィリアもそれに応じるように軽く脱力して、サロスのどんな攻撃にも反応できるようにだらりとした隙のない構えを取る。
お互いが鋭い目つきのまま戦闘態勢に入る。
『あぁ、それしか、ねぇみたいだからな』
『言っておくけど、僕をあの頃の僕だと思ったら、怪我だけでは済まないぞ』
『俺だって、加減する気はねぇ、手なんか抜いたら、許さねぇ! 俺は……強いぞ、フィリア』
『なら、死ぬ気でかかってこい! 僕か、君、勝った方が決める。いつも通りだ』
いつもなら、笑ってみていられた二人の光景に涙が零れていく。
違うよ……こんなの、こんなの、全然、いつも通りなんかじゃない……。
お互いに傷つけあってる、笑顔をもなく、二人ともすごく怖い顔で……。
でも、どこか悲しそうで……辛そうで……。
見ていられなくて……。
『うおォォォォォォ!!!!』
『はあァァァァァァ!!!!』
実力は、ほぼ互角のように見えた。でも、戦いを続けていくうちにフィリアは相変わらず辛そうなのにサロスはなんだか楽しんでいるようにも見えて……。
『次で、終わりにしてやるよォ!! フィリアぁ!!!』
『サロス……君は、本当にさろーー』
サロスの振り下ろした拳が、フィリアに当たる直前、それは、ほんの一瞬過った、嫌な予感……。
サロスが、フィリアを殺してしまう……そんな嫌な予感!!!
『やめて!! やめてよ!! 二人ともこんなの、こんなのおかしいよ!! サロス!!』
そう叫んだあたしは、天蓋の外に、立っていた。
続く
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