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Third memory 12(Yachiyo)

「……よ」
 
 久しぶりに見たサロスの顔は泣きはらしていて、笑えるくらい酷いものだった。でも……きっとあたしとフィリアもそれに負けないくらい酷いものだったと思う。

 サロスがゆっくりと部屋に招き入れてくれて、それからあたし達はたくさんのことを話した。

 話している間もサロスに、昔みたいな明るさはなかった、けど……今はそれでもよかった。

 あたしにとってサロスはかけがえのない存在で、フィリアにもきっとそれは同じで……。

 今は目の前にサロスがいる。今は、それだけで充分だった。
 
 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、そろそろ夜も遅いし帰ろうかという話に自然となった。
 
 泊まっていったら? とシスターは言ってくれたけど、これ以上の迷惑はかけられない……。

 丁寧に断った後、あたしたちは帰る準備を始めた。

「……じゃあ、帰るね。落ち着いたら、学院にも顔出してよね」
「あぁ」
「おやすみ、サロス」
 
 サロスは、最後のあたしの言葉はほとんど聞こえてないみたいで、部屋の扉を静かに閉めた。

「サロス、まだ、元気、なかったね……」
「……アカネさんが、いなくなってからずっとあんな感じだって……シスターが言ってた」
「そう、なんだ」
「うん……」
 
 でも、会話はしてくれた。

 きっと、これは大きな一歩だ。

 あたしは、自分にそう言い聞かし、前向きに考えるようにした。
 
 いつものサロスに戻るにはきっと、時間はかかるんだと思う。

 でも、いつの日か、昔のサロスが戻ってくる。

 あたしは、そう信じてその日が来るまで頑張ろうと思った。

「じゃあね、フィリア」
「送っていこうか?」
「平気平気~もう、すぐすこだし! じゃあね、フィリア、おやすみ!」
 
 フィリアと別れ、一人になって改めて辺りの変化に気づく。

 森は薄暗く、月明かりくらいしか頼れるものはなかった。

 きっと、小さい時のあたしなら怖くて動けなかったんじゃないかと思う。

 でもあたしも日々成長している。暗闇だって怖くーー。

「キャッ!!」
 
 暗がりだけに気を取られていたからだろう。

 突然、あたしの踏み出した足元は地面に吸い込まれていった。


「いたた……」
 
 どうやら、獣を捕らえるための落とし穴のようなくぼみに落ちたみたいだ。

 天井が遠く、月明かりも僅かにしか入ってこないため、周りの様子はほとんど見えなかった。

「やっ、ちゃったなぁ……でもこれくらいなら! いたっ!」
 
 最悪だ……近くのでっぱりを使って上に登ろうとした時、左足に痛みが走った。

 きっと、落ちたときに痛めてしまったんだと思う。

「あはは、まいったなぁ……」
 
 こんな夜中に誰か通るはずもない。

 だとすると朝まで、このまま、なのかな?

 まぁ、仕方ない、よね……。

「あーあ、ついてないなぁ……今日のベッドはここかぁ……」
 
 最初は、そんな冗談を考えられるほど楽観的だった。

 でも、だんだんと周りから聞こえてくる獣の遠吠えや木々のざわめきが気になり始め、徐々に恐怖があたしを包みこむ。
 

 服の裾を強く握る。もし、このまま朝になっても誰にも見つけてもらえなかったら?……また、夜が来て、その繰り返しで、もし、ずっと、このままここから出られなかったら? 誰にも見つけてもらえなかったら?……

「あはは……あたし、こんなところで死んじゃうのかな?」
 
 昔、一人で森の中を彷徨った時のことが脳裏をよぎっていく。森に迷い込み、恐怖で動けなくてただ泣くことしかできなかった頃のこと。

「サロス……」
 
 あの時、助けてくれた小さいながらも頼りがいのあったあの手が恋しくなる……。

 その手を求め、落とし穴の入り口を見上げる。
 
 ふと、思う。

 サロスはきっと今、こんな感じなのかなって……。

 こんな風に、暗い闇の中にいるのかなって……。

 アカネさんを失って、自分の一番大事な人を失って、ぽっかりと空いてしまった大きな穴の中で誰かの助けを待っている……。
 
 本当なら、今度はあたしがその助け出す手を差し伸べなきゃいけないのに……。

 ダメだなぁ。

 不注意でこんなことになっちゃうなんて………。
 

 あたしって本当バカ……。
 

 自然と涙がこみあげてきた。

 自分の不甲斐なさに、情けなさに、悔しくなる……。

 ぽたぽたと流れ落ちる涙を拭いてくれる人はもういない。

「アカネさん、助けて………」
 
 アカネさんを失って本当にダメになってしまったのはあたしの方かも知れない……。

 サロスのことをとやかく言う資格なんてあたしにはないのかも知れない。

 
 アカネさんとの約束も守れず、あたしは………。


「助けて……サロス……」
 
 目を強くつぶり、届くはずのない祈りを心の中で呟いていた。


続く

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