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First memory(Hinata)15
「ヒナタ!!」
今、一番会いたくない人が目の前に現れた。真っ赤に泣きはらして腫れている目を抑え、私はフィリアから背を向けた。
「どうしたの? そんなに慌てて?」
無理矢理にでも明るくしようと声をつくる。
「今、アインとばったり会って、君が大怪我をしたと聞いて、それで……」
あぁ……あの人は本当に……。嫌な人だ。
「心配しないで、怪我なんか――っつ!」
フィリアから意識を逸らすために、割れたマグカップの破片を手に取った時、人差し指が切れ、血が僅かに指先に滲む。
「大丈夫か? 素手で片づけるのは危険だ。今、道具を持って――」
「どうして……」
あぁ、嫌な私が指先の血と同じように滲み出てくる。
「ヒナタ?」
「どうして、あなたはそんなに……放っておいてよ!!!」
ポタポタと垂れる、血のように。汚い感情が零れだす。こんな私を見せたくなかったはずなのにーー。
「私は……。私は、ヤチヨちゃんにはなれなかった。それどころか、アインさんにも嫉妬して、暴れて。ぐちゃぐちゃで……」
あなたを支えたいってあなたを守りたいってそう思っていたはずだったのに。いつから私はこんなに……こんな風になってしまったのだろう。
「ヒナタ――」
「もう、私のことは忘れて。あなたは幸せになって!!」
「ヒナタ!!」
フィリアが私の腕をつかんだ。
「離してよ。私は、何もかも中途半端な私じゃあ! ヤチヨちゃんの代わりは——」
「君は、ヒナタだ! 他の誰でもない、ヒナタだろ!!」
その言葉にハッとなり、フィリアの顔を見つめる。
「他の誰かの代わりなんて、誰も出来やしない……君は、ヤチヨの代わりにはなれない。もちろんそれはアインだって。ヒナタ、君は君だ。君自身でしかいられないんだ!!」
「私は、私でしかいられない……。じゃあ、私の今までしてきたことって……」
本当はわかっていた。全部無駄なことだと。あの日、思わず口にしたヤチヨちゃんの代わりになるという言葉。私はその言葉に自ら縛られていたのかも知れない。
「ヒナタ、修了式前日。満点の星空の下で君が言ったことを覚えているかい?」
「えっ?」
「あの時、君は僕たちが再び同じ道で重なった時に答えを聞かせて欲しいと言ったね」
「……。覚えてない。そんな昔のこと」
精一杯の私の強がり、いや、、、強がりにもなっていないかも知れない。でも、あの日の答えを聞いてしまえば私は本当に壊れてしまうそんな気がしていた。
ただでさえ、今の私はひび割れたガラス細工みたいに儚く脆いものになっているのだから、あの日から強くなりたかったのにどんどん弱くなっていく。
フィリアに対する気持ちが強くなればなるほどに私は弱くなっていくそんな気がしていた。でも、フィリアへの気持ちを止めることはできなかった。
いつから、こんなにフィリアのことが好きになったのか私自身にもわからない。
ただ今は、フィリアが大好き。この気持ちで胸がいっぱいだった。
「あの日から、僕はずっと考えていたんだ。君のことを」
「……」
聞きたくない。これ以上私を追い詰めないで。
「あの時は、突然すぎて答えることができなかった。でも、今ならはっきりと言える」
言わないで欲しい。私の幸せな物語をこれ以上壊して欲しくない。ヤチヨちゃんがいなくなって、サロスがいなくなって、それでいてフィリアまで失ったら私は……。
また、本の世界に戻るの? ううん。もう、それすら無理なことだった。だって、どんな本を読んだ時よりも幸せな時間を私は過ごしてしまったから。
もう、あなた(フィリア)がいない人生なんて――。
――続く――
作:小泉太良
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