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Second memory(Sarosu)20

 まさに地獄……そう言っても差し支えない程に壮絶な日常だった。

 朝から晩まで……食事と睡眠時以外は常に戦場にいる……そんな日々が続く。
  勿論、戦場なんて経験したことないし、こんな感じなのだろうという想像でしかないんだが……修行は常に命がけだった。

 俺の意識を何度もあいつは奪ってくるし、気を失おうもんなら死なない程度に追い打ちをかけてもくる。

 ピスティは戦いの中では、常に本気の目をしていた。普段のような茶目っ気やおふざけが一切ない……まさに……戦士だった。
 
 最初は避けて、逃げてが精一杯だったのだが……その時の俺は、ピスティの凄さをまだまだ知らなかった。

 半年ほど経った頃……掠める程度に攻撃をまた当てたことがあった。

 ピスティは嬉しそうに「合格!」と言った直後……すぐに、まったく違う動きを見せてきた。

「お前……なんだよ。それ?」
「頑張ってねサロス。これとは違う考え方の動き? というか戦い方? 後、6つあるから」
 
 マジかよ……。

 その言葉ははったりなどではなく次の日からは、まったく違う人間と戦っているような錯覚さえあった。

 最初は目で追うことすら難しく、直撃した攻撃で何度も地を舐めた……ただ、慣れてさえしまえば案外、どうにかする手段を思いつくだけなら簡単だった。

 まずは見る、そして受ける、後はそれを真似る。

 そう、口で言うのは簡単だけど、それはとてつもなく大変なことだった。

 ただ同時に、日ごとに自分が強くなっていく実感が湧いてくるのが凄く楽しかった。これがもし本当の戦場なら、楽しい……なんて感情はおかしいのかもしれねぇけど……。


 ただ、心なしかピスティも楽しそうに見えた。

 俺だけじゃない……ピスティと二人で強くなっている……そんな感覚。

 それが、何故か嬉しく……そして、懐かしさを感じていた。

 何か新しい事を一緒に一つ達成して、あの人に褒められる……そんな、あの日々を……
 
「こっ、これで8つ目……だよな?」
「そっ、良くここまで頑張ったわね」
 
 19歳、最後の夜。俺はついに、ピスティの最後の動きを捕らえ、彼女に一撃を加え、一矢報いる事に成功した。まぁ正確にはこれでようやく長い期間を使ってたった8回の攻撃成功、8矢目なのだが、、、。

「ふぅ……免許皆伝ってところかしらね」
「じゃあ! ようやくお前と同じくらいの強さになれたってことだよな?」
「そうね! ……じゃあ、最後に――――」
 
 言い切るより先に、ピスティが今までみたことのない不規則な動きで俺に迫ってきた。

 もちろん今は、修行の時間内だ。ピスティは本気の目をしている。

 今までの俺ならそのままやられていただろうけど……俺は動きを、冷静に、しっかり見て対処する。

 すると、その動きが今までのピスティと比べればだいぶお粗末なもので、隙も簡単に見つける事ができた。

 俺はその隙をついて、ピスティに額に渾身のでこぴんを放った。

「いったぁぁぁい!!!」
 
 ピスティが額を抑え、のたうちまわる。

「なんだ? 今の動き? ……ってか、隙だらけだぞ」
「えっ?」
「お前が色んなやつの動きが出来るのは知ってるが、そもそも今のは雑過ぎて―――」
「ハハハハハ」
 
 ピスティが突然笑い出す。なんだ? おかしくなっちまったのか?

「……流石だよ……サロス。」
「はぁ? 何がーー?」
「今のあんたは、あたしより強い」
「えっ!? どういうことだーー?」
「今までのあんたは、あたしから逆にでこぴんを食らってた」
「はぁ?」
「……そっか、遂に越えられちゃったかぁ……」
「なぁ、ピスティ。お前さっきから何言って―――」
「今のあんたなら誰にも負けない。必ずヤチヨだって救い出せる。あたしは……そう信じてる」
 
 そう言ったピスティが満面の笑みを浮かべる。その笑顔にどこか……。
 
 あれ? 今、ピスティが唇を軽く噛んだような……多分……見間違いじゃない。

 確かに、ピスティはさっき本当にわずかな時間ではあったが唇を噛んだ。

 あの癖は……あのおかしな癖は……。

 ヤチヨと同じだ。

 姉妹っていうのは、癖まで似るものなんだろうか? ……あんな、変わった癖。

「どうしたの? 難しい顔して?」
「いや、何でもない」
「そう? まっ、今日はあんたの免許皆伝と最後の10代の夜をお祝いして、晩御飯を少し豪勢なものにしよっか? サロス、手伝ってね」
 
 そう言って、ピスティが笑いかけて先を歩いていく。

 ……俺の頭の中の違和感がぐるりと渦を巻き、胸の鼓動の速度がこの瞬間、どうしても落ち着かない。

 今夜、ちゃんと聞いてみる必要があるかも知れない。それは最早、直感でしかない事ではある。
 以前のやり取りの時も違和感があった、けど、これまでの稽古と今日一番最後のアイツの動き、そして癖。
 
 ピスティは……あいつは……。


続く

作:小泉太良
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