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First memory(Hinata)17

「フィリアは、あたしの子供欲しくないのかーざんね――」
「ヒナタとの子供なら僕は、どっちだって構わないかな」
「へっ?」
 素っ頓狂な声が思わず出た。
「男の子でも、女の子でも、何人いてもいい。きっとどんな状態でもそれはきっと幸せな家族が出来ると思うから」
「そっ、そうね……」

 いざ答えられるとそれ以上は何も言えず、私はただマグカップの紅茶を飲んで徐々に赤くなっていく顔を悟られないように隠した。
「あっ、名前……」
「えっ?」
「名前は、どうしようか?」
 フィリアが、目をキラキラさせて私に聞いてきた。
「名前?」
「そう、ヒナタと僕の子供が生まれたらどんな名前つけようか?」
 これが私をからかっているのなら返すのは簡単だ。けど、こういう時のフィリアは本心から純粋な気持ちで聞いている。私よりもある意味厄介だ。
 でも、名前か……。
「そうね。私たちの名前から一文字ずつ取るってのはどうかしら?」
「一文字ずつ?」
「例えば、男の子ならフィータ。女の子なら、リアナとか?」
「あぁ、すごくいいね。それ」
 そう言ってフィリアは心底嬉しそうな顔を浮かべていた。そんなフィリアを見て私の中のさらなる悪戯心が芽生えた。
「もう、仮の話よ。私はそれより」
 フィリアの首の後ろに手を回す。
「ひっ、ヒナタ!?」
「今はもう少しだけ、二人の時間を過ごしたいかな?」
「いや、その。これから、勤務時間内で……うわっ!!!」
「大丈夫。まだ、朝早いもの。すぐに終わるわ」
 少しの間とはいえ、フィリアにしてやられたのはやっぱり納得がいかないのでそのお返しをすることにした。
 ソフィ、ゴメンね。もう少し合流までに時間がかかりそう。
 そう、心の中でソフィに謝罪してすぐさまフィリアに抱きついた。
 
 唯一、失敗だったのは、少しのつもりが、私が我を忘れてしまったことだった。


そして、その日の夜――

「ヒナタ? ヒナタ!!」
 フィリアの声で我にかえる。

 満点の夜空を見て、私はしばらくの間ぼーっとしていたのかも知れない。
「フィリア、ごめんなさい。私……」
「いいんだ。」
 そう言ってフィリアは優しく笑った。
「今朝は、やりすぎちゃったわね。ごめんなさい」
「それに関しては、僕よりもソフィに明日ちゃんと謝って欲しいかな」

 あの後、結局合流できたのは三時間後。定例会があることをすっかり忘れていた私たちは最低限の身支度を済ませ。定例会の会場に向かうと。そこには、アイン、ツヴァイ、ドライを含めた各隊長たちに土下座して謝っているソフィの姿があり。私たちもそれに倣う様に三人揃って綺麗な土下座をした。
 私たちの関係を知っているアイン、ツヴァイ、ドライは文句を言いつつも口だけはにやけていたような気がする。特にあの性悪女アインは……。
「でも、ソフィも成長したわね。隊長たちの前で怖気ず逃げ出しもせずにただそこで土下座しているだけなんて、昔のソフィからは考えられないわ」
「昔は、隊長たちと話をするのでさえビクビクしていたからな」
「そんな子が今や、『もうしばらくすれば来るのでお待ちください』ってあんなに大きな声で総隊長を抜いた全隊長たちの前で言えるようになるなんてね。しかも、6回もよ」
「まぁ、僕たちのせいでもあるんだけどね。ソフィに度胸がついたのは」
「確かにね」
 思わず苦笑いを浮かべる。思い返してみれば今回が初めてというわけではないのだ、こんな状況は。

ただ、流石に三時間はなかったかも知れない。

「怒られちゃったわね」
「仲が良いのはけっこうですが、ルールはきちんと守ってくださいって、流石に何も言い返せないな」
 定例会が終わった後、私たち二人はたっぷり一時間ソフィからお叱りを受けた。結局、今日一日ソフィは私たちに対してむっとした表情を崩すことはなかった。
「だとしても、アインのあの顔は腹が立ったけどね」
「君とアインは本当に仲が悪いね。そんなに彼女のこと嫌いなのかい?」
「嫌いよ。頭も、腕もいい。医療の仕事的な面で言うなら私は彼女を尊敬しているわ。ただあの人を小馬鹿にするような態度は癇に障るの」
 正直、今の私があるのは彼女のアインのお蔭だ。
 医療的な面はもちろん彼女がいなければフィリアとこうしてこの場所で語り合うことはなかったかもしれないのだから。


 ただ、そんなことは口が裂けても本人には言えないけど。
 そして、フィリアが新しい団を発足する際、自分の団から三人も抜けることに関して
『元気でねー。たまには遊びにいくわねー』
 の一言ですべて終わらせた彼女の懐の深さには改めて驚いたものだった。


続く


作:小泉太良

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