Third memory(Yachiyo) 01
「どうしよう……」
忘れはしない……。
あの日のこと……。
いつの間にかこんなに遠くまで来てしまった、、
周りを見ても、あたしの知らない景色が広がっているだけだった……。
一人りぼっちだったあたしは、怖くて、不安で、泣きそうになっていた。
ううん……きっと泣いてた。
そんな、あたしの不安を煽るように近くの茂みが揺れた。
野生動物? それともお化け……? 辺りの風景の不気味さも相まって、あたしの不安はピークを迎えた。
ガタガタと全身が震える。
ガサリと大きな音がしたと同時にその音の主は姿を現した。あたしはとっさに身を屈め、目を閉じた。
「んっ? 誰だ? お前?」
そして、運命的に出会った赤い髪に赤い瞳の少年。それが……。
サロスだった。
当時のあたしは、涙でぐちゃぐちゃになったみっともない顔のままで、サロスに抱き着いた。
「おっ、おい! お前、なんで泣いて——」
「うっ、うっ、ひぐっ……」
「……とっ、とにかくうち来いよ。もう暗ぇしさ」
サロスがあたしの左手をしっかりと握ってくれていたから、泣きながらだけどまた歩くことが出来た。
前に見えた小さな背中が、あの頃のあたしにはすごく頼りがいのある大きな背中だったことを今も覚えている。
「ただいま。母ちゃん」
「お帰り。……じゃ、なーくてサロス、あんたいつもよりちょーっと遅いわよ。もう晩御飯でき―――ちょっと! その子どうしたの!!」
お母さん……というよりはお姉さんみたいな人。アカネさんにあたしが初めて会った時の印象はそんな感じだった。
「拾った」
「拾ったって、犬や猫じゃないんだから……ちょっと、あなた大丈ーー? あちゃー、色々と派手にやらかしちゃってるわね。風邪引いちゃうから先にお風呂入ってきなさい。サロス、ついでにあんたも」
「えー」
「文句言わない! 着替えは用意しておくから、ほらっ、早く行った!!」
「わかったよ。行こうぜ」
「うっ、うっ」
「……そんな泣くなよ。漏らしたぐらいで」
「うっ……」
「サロス!! このおバカ、あんたって子は言い方があるでしょ!」
「うっ、うわぁーん」
急な大声に驚いて、あたしはまた泣いてしまった。
「ひっ、ひぐっ、うわーん」
そんなあたしの大泣きにつられて、さっきまで平気な顔をしていたサロスもなぜか泣きだしてしまった。
「えっ!? ちょっ、あー、もう……シスター! ごめん、あと頼んだ! サロスの着替えと、後、あたしのお古っ! あれ出しておいて!!」
そう言って、アカネさんはあたしとサロスをひょいと抱えてお風呂場へと向かった。
連れていかれたお風呂場は、少し古くあったけれど手作り感のある木でできた浴槽で、あたしのおうちのものより大きく4~5人なら同時に入れそうなくらいの広さがあった。
あたしが泣いてるのに驚いたサロスと自分では何もできなくなっていたあたしの服を手早く脱がし、アカネさんはあたしたちの頭上にシャワーを浴びせた。
「ほーら、すーぐ綺麗になるからね~大丈夫大丈夫。サロス、あんたはいつまで泣いてるの! 男の子でしょ!!」
「うっ、うん」
「えーっと、あなたお名前は?」
「やっ、ヤチヨ」
「ヤチヨちゃん?」
肯定するように、首をこくりと一度縦に振る。大好きだったママがつけてくれた名前。
あたしの宝物、大切な自分の名前。
続く
作:小泉太良
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