Eighth memory 09 (Conis)
「まずは……そうだな……お前たちはそもそもエルムとはなんだと教えられている?」
「侵食が進んだものたちが残した生きる力……そう、ナンバーヌルは先ほど言っていましたが」
「そうだ。だが、本当はエルムというのはいつ、どこで誰に生みだされたものかわからない……だが、侵食が進んだ人々の体内でエルムと同等の何かが形成されているのも……事実。だが、それが何故起きるのかも解明されていない」
「なんだ……けっきょくはお前も知らないんじゃねぇか」
「その通りだ。ナンバーOB-13。俺も偉そうなことを言ったがエルムについて完璧には理解していない。そもそも当たり前のように存在している事で、元となる情報はほとんどない」
嫌味のつもりで言っただろうオービーのそんな言葉にもヌルさんは正直な答えを返しました。
その反応に、仕掛けたはずのオービーの方がわたわたしているようでした。
「なんだよ……いつもみたいに反抗したりしねぇのか……」
「それが事実だ。それよりも話しておくべきことだが……。OB-13。先ほど俺が何故君の持つエルムがいつものものとは違うということがわかったかについて話そう。まっ、それについては俺も最近知ったのだがな……」
「最近、知った? ですか……?」
「本来のエルムには、純度というものが存在するらしい」
「純度……ですか?」
「……エルムとはその性質が使用者に近ければ近いほどにその輝きを増す。となれば、自分が作り出したエルムを自分で使うことが一番適した使い方が出来る……ということだ」
ヌルさんの話を聞いて、ワタシには思い当たることがありました。先ほどの戦闘時ワタシの意思はどこか半分。自分の体にいなかったのですが、あの剣を振っていた時今までに感じたことのない一体感を感じていました。
実際に考えて体を動かすよりも早く、ワタシが感じたその瞬間にはワタシの腕もあの剣も彼らを捕らえていました。
「だが、本来自分のエルムを自分が使うということは出来ないはずだ。願いを願ったのはその本人であるはずなのに、な……」
「自分の願いは、自分には使えない、か……なんかもし仮にエルムを作り出した神様がいるならそいつは相当捻くれてやがるな……」
「その意見には同感だ」
なんだか、こうしてヌルさんとオービーが普通に話しているのを見るのは初めてな気がしました。2人に漂う空気がいつものイヤイヤではなくニコニコに近い感じで、ワタシも思わずニコニコした気持ちになりました。
「……話は変わるが、OB-13。君が最近まで使っていたあの槍……あれはCH-649のエルムだな?」
その発言に、オービーがびっくりしたお顔をした後に、しおしおした表情を浮かべました。
ワタシは生まれたなぜなぜに耐えきれず思わず口を開いてしまいました。
「シーエイチさんの?」
「……あぁ。あいつが暴走したその瞬間。俺はすぐそばにいた。最後にあいつが眠りにつくその瞬間まで、な」
そのオービーの発言に、ワタシもナールさんもびっくりしたお顔を浮かべました。
「……『せんとうほんのう』が剥き出しになったCH-649と最後の……眠りにつく瞬間まで共にいた……? OB-13、CH-649は本当に暴走していたのか? 君の話が確かであるならそれは……せんとうほんのうが剥き出しの相手と共にいることなど……」
「そうだな……それにCH-649の暴走状態はずいぶんと長い時間をかけて起きていた」
「……どういうことだ……?」
ナールさんの中でも、オービーの話にはなぜなぜが止まらなかったようです。
オービーはひとつ大きく息を吸って、何かを覚悟したように話し始めました。
「あいつの……CH-649の暴走状態が始まったのは今から三か月前。SC-06、あいつが体調不良になっていた頃があったのを覚えているか?」
急に話をオービーがワタシにしてきて、少し驚きましたが、そう言われると思い当たる事が一つワタシの中にはありました。
「はい。大丈夫だからと言われて、その後になって時々CH-649とお話が出来なくなったことがありました」
シーエイチとお話ができない。それはワタシにとってもしおしおな事でしたが、シーエイチに無理させて無理矢理お話することの方がワタシはイヤイヤだったので、ぎゅぎゅっと我慢しました。
「……ナンバーヌル。侵食がある程度進んだ場合はマザーの慈愛も効果がないのだろう……?」
「なっ!?」
「隠さなくていい。俺だけじゃなく一部のやつは気づいていたぜ。マザーには直接の侵食を止めることは本当はできないんだってことがな」
オービーの発言にヌルさんはお口を閉ざして黙り込んでしまいました。
「CH-649に拒絶されながらも俺はあいつに定期的に会いにいった」
「OB-13が時々いなかったのは、CH-649に会いにいってたからなんですね」
「そうだ。日に日にあいつの侵食は進み。自分では動けなくなっていった」
「でもでも、CH-649は暴走する前、ワタシとお話していた時は別に変わったところはーー」
「……OB-13。CH-649の侵食は止まっていたということか……」
ヌルさんのその発言に、オービーは一瞬驚いた表情を浮かべましたがゆっくりと大きくその首を縦に振りました。
「……侵食が止まる……? でもでも、一度始まった侵食は止まらないはずですし、それにもし止まっていたのだとしたらCH-649はどうしてーー」
「俺が! 俺が……壊しちまったんだ……」
「……えっ……?」
「俺が、あいつをシーエイチを壊しちまったんだ!!」
その叫びはとてもとげとげしてしくしくしていました。ワタシは何もいう事が出来ず、ヌルさんも黙っていました。
「……悪い。だが、俺もシーエイチもどうして侵食が止まったのか……? どうして暴走が再び起きたのかがまるでわからねぇ……俺の持っていたあのエルムはシーエイチの暴走が以前一度収まった時あいつの体から剥がれ落ちたエルムと俺のが一つになったものだ。まっ、ずいぶんと小さくなっちまったがな」
そう言ってオービーは小さくなったエルムをしくどんしたお顔で見ていました。
ワタシはうーんとした顔をしましたが、ヌルさんだけは俯いて何かを考えていました。
そして、お顔を上げるとワタシたちの方を向いて再び口を開きました。
「……これは、俺のあくまでも憶測、でしかないのだが……」
「なんだよ? ナンバーヌーー」
それは一瞬のことでした。オービーが話し終わるよりも先にヌルさんが、オービーの首を強く掴みました。
「あっ……くはっーー」
「何をしているんですか!! ヌルさん!!!」
「……」
ヌルさんの力の入れ具合から、脅しなどではなく本気であることがわかりました。ぎゅーっと絞められ、オービーは息が出来ずだんだんと苦しくなってきます。
「ヌルさん止めてください!! オービーがオービーが!!!」
「くっ……くそっ、油断、し……た……」
「……」
オービーの声がだんだんと弱くなっていきます。ワタシはその状況を見ていられず2人に駆け寄ろうとしましたが、ワタシは体を動かす事ができませんでした。
「なっ、なんですか!! これ!?」
ワタシの見た光景は先ほどヌルさんが脱ぎ捨てたはずの鎧が動き出し、ワタシの動きを止めていました。
「……SC-06今は大人しくしていていろ。すぐに終わる」
「オービー!! オービー!!!!」
涙で視界が曇っていく。
初めてワタシは誰か大切な人が終わる。のかも知れないと思いました。
『……解き放て……お前はーー』
謎の声が聞こえたと同時、ワタシの腕からはあの剣が再び顕出していました。
つづく
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