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EP07 表と裏の対舞曲(コントルダンス)01

 青白い光を放ちつつ背中に生えるように現れた大きな九つの尻尾のようなものを鋭利な刃物のように操り、コニスが狂ったように笑い始める。
 その様子を見て、ソフィは青ざめたまま硬直していた。
 一方、フィリアはヒナタの方を見つめたままその場に静止している。こちらは動いてくる気配は今のところない。
 
「あーっははっははァ!! やーっと、主導権がアタイになったようねェ……さぁ、暴れさせてもらうわよ!! ヒャッハハハハ!!!」
 
 さっきまでコニスだったはずの人物はまるで別の存在にでもなったかのように、ソフィへと飛び掛かる。
 
「コニスッ!!!」

 ソフィは咄嗟にその攻撃をなんとかいなし、必死に声をかけ続けた。

「どうしたのさ!! コニス!! ボクだ!! ソフィだ!! ボクたちが争う理由なんてないじゃないか!!」
「オ前にハ、無くてモ、アタイにはあるのサ」
「えっ!?」
「今ハ、暴れたいイからネ!! お前にハその犠牲になってもらうヨ!! ヒャッハハハハ!!!」
「貴方は一体誰なんだ!?」

 笑いながら尾での連撃を繰り返してくるその存在。
 ソフィは一切の反撃をせず、それらをすべて避け続けていた。
 コニスの身体であったために手を出すことは躊躇われる。

「ねぇ……フィリア……どうしーー」
「ヒナタ! 離れて!!」

 ヒナタの前に短剣を構えたヤチヨが現れ庇うように立ちはだかる。
 
「ヤチヨ!? どうして?」
「中々戻って来ないから心配になって……ね」
「ほぉ……まだ他にもいたのカ……」

 先ほどまでフィリアだった人狼はそう言って口角を上げる。
 新たな獲物を見つけたことに彼は喜びを感じているのであろう。
 ヤチヨは震える手を必死に誤魔化し目の前のフィリアだったものを睨んだ。

「ヒナタに手を出したら許さないんだからね……」
「許さなイ? 人の娘(こ)よ。そんなエルムですらない役立たずの粗雑な小さな剣でこのワレと戦おうと言うのカ? 中々面白いナ」
「うるさい!! あんたなんか怖くーー」

 突然周りに、強烈な冷気が巻き起こりヤチヨの握っていた短剣が一瞬にして凍り付きそのまま砕けて壊れた。

「!?」
「どうすル? 武器もないままま。ワレに歯向かうのカ? 人の娘(こ)よ」
「っく……」

 そんなやり取りをしている中、ヒナタがヤチヨを優しく押しのけるように前へと踊り出て、人狼へと一歩また一歩と近づいていく。

「ヒナタ!! あぶなーー」
「ねぇ……聞こえる……? フィリア……?」
「えっ!? フィリ……アって……? えっ?」

 ここでようやく今自分が対峙している人狼がフィリアであることにヤチヨも気づいた。
 人狼はヒナタを見て嘲笑する。

「ハッ。お前ハそこの娘よりも愚かだナ。この肉体の持ち主ノ体モ意識モ既にワレにーー」
「あなたの事だからきっと今、すごく頑張っているはずよね……? フィリア」
「なニ?」
「私たちを傷つけないように、今、あなたは必死に何かに抗ってくれているのよね……?」

 人狼は内心焦っていた。ヒナタの言うとおりだったからだ。
 意識は既に完全に自分が支配した。しかし、いつまでもその体を動かすことが出来ない。
 自分の力の源である氷を操ることはできる。しかしそれ以外の事はまるで自由にすることが出来ずにその場から一歩も動けない。

「そうカ……お前カ……この人間がワレを制するほどの力の源はお前なのカ……小娘」
「大丈夫よ。フィリア、あなたは一人じゃないわ。私がいるから」
「で、あれば……死ね!!!」

 冷気により作られた無数の氷針がヒナタに向けて一斉に降り注がれる。

「ヒナタ!!」
「大丈夫……フィリア……もうあなたを一人にしない」
『僕の想いが必ず君を守るから!!!』

 瞬間。ヒナタの首元にある何かが青白い光を放った。
 彼女に向かっていた氷針はその光で全て溶けるように消えていく。

「何!?」

 そのままヒナタが進む道を青白い光が照らし続ける。近づくことを拒絶するように氷による攻撃を続けていた人狼はその異常な光景に初めて怯えを感じていた。

 それは、間違いなく何かの力。強い想いは時に具現化することがあると人狼は知っている。
 しかし、それをただの人が行なっているというその事実を受け入れることが出来なかった。
 やがて、人狼の目の前に立ったヒナタはそのままその瞳を見つめ手を大きく広げると自分よりも遥かに大きなその人狼の体をその小さな手で抱きしめた。

「……レロ……離レロ小娘」
「……れない……離れないわ!!!」
「ヒナタ!!! 危ないよっ!!!」
「もう……二度と離さないし、離れないわ」

 ヒナタがゆっくりと、人狼を抱きしめ。そのまま後頭部へと左手を回し、ゆっくりと撫でる。
 そんなヒナタの肩を人狼の爪が深々と突き刺した。

「コニス!! もう止めて!! こんなこと君は望んでいないはずだ!!」
「いちいちやかましいガキダ!! あの甘ったれハもういなイ!! この体ト心はアタイのモノなんだ!!」 
 「コニス!! 負けないで!! 君は君だ!! 他の誰でもない君自身なんだ!!」
「このガキ……そんな二、あの甘ったれ二会いたいナラ今すぐ殺して合わせテーー」
「コニスだけじゃない!! 君だってそうだろ!!」
「んなッ!?」

 予想外の一言にコニスだった人狐はその動きが止まる。

「君だって、そうなんだ。コニスの中にいるけれど。君だってコニスじゃない。君は、君なんでしょ……?」

 その一言は、人狐の動きを止めるには充分過ぎる言葉であった。
 そのままソフィはゆっくりと人狐へと近づき、笑顔を浮かべてその体を抱きしめた。

「んナっ!? 離セ!! こいツ!!」
 
 人狐は拒絶するように、尾の鋭利な刃物を変えソフィの背中へと突き刺す。
 凄まじい痛みが脳天を貫き、思わずコニスを身体を離しそうになる。
 
 しかし、腕に力を込めて決して離すまいとコニスを更に強く抱きしめ続ける。

 そのヒナタとソフィの愛情は、確実にこの場にいる存在達の心に大きな変化をもたらそうとしていた。



つづく

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