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129 エナリア班対シルバ班

「シルバ!? ということはようやく先頭まで追いつけましたのね!?」

 エナリアの言葉にシルバが猛り答える。

「残念だったな! エナリア、俺達はもうとっくに先頭じゃねぇ!!」

「なんですって!?」

 エナリアの予想ではシルバ達の俊敏性から先頭を走っているものとばかり考えていた。視線を切って周囲に意識を向けるも目視できるような距離には既に人影は見えない。

「まさか、そんな」

「というわけで、状況が変わった所にお前達が現れた。俺としちゃあ、この機を逃す手はねえ!!」

 シルバの短慮な判断に気付いたシスティアが制止しようとするも間に合わず、シルバはエナリアに向かって突進した。

「ここでお前を打ち負かして、俺の力を今一度学園中に知らしめてみせる!!!!」

 咄嗟の行動に面食らってエナリアは構えずにただ立ち尽くしている。シルバが構わず全力で攻撃を仕掛けようと駆け出した勢いを生かして足を振り上げる。

「オラぁあああああああああああああああ!!」

 シルバの右の足甲刃による攻撃が土煙を上げる中で繰り出されると共にガキィッと大きな音が鳴り、その足が受け止められていた。

「ッハハァ、こういう展開、首を長くして待ってたぜぇ!!!! これでようやく暴れられるなぁ!!!! きっかけはお前からだかんな、逃がさねぇぞシルバ」

 繰り出した蹴りが一見するとか細い左腕に受け止められている。正確には左手で刃のない箇所をガッチリと掴まれていた。
 脚力に自信があるシルバは掴まれた手を引き離そうとするがピクリとも動かない。

「ッッ、アイギス!? てめぇ!!」

「へへへ、シルバ、お前とは一回やって見たかったんだよなァ!! さァ、アタシを本気にさせてみろ!!!」

 アイギスは掴んでいた足をぶん投げて自らもシルバの方へ向かっていった。

「チッ」

 クラウスもその様子を見て行動を開始する。密集した集団から距離をとろうとした時、視界の端に大きな影が映りこんでくる。
 寒気のした方向を避けるように飛び転がるクラウスの上空を大双刃斧が掠めていく。

「てやぁああああ!!! クラウス。君の相手は私だ!」

「ち、スカーレット・ルビーネ」

 スカーレットの様子を横目で眺めバイソンも大きく伸びをした。
 
「こうなると、おでも何もしねぇわけにはいかねぇがな?」

 真正面から一歩ずつ自分に向かってくるものがいる。

「そう言う事なら、俺とやるのはどうだ? バイソン」

 相手の視界から堂々と姿を現したガレオンとバイソンは笑みを浮かべながら対峙する。

「ほ、ガレオンでねぇがぁ、こうなったからにはやるしかねぇべな」

 ガレオンは嬉しそうに口角を上げる。同じようなタイプであるバイソンとの力比べは久しぶりで高揚してるようだった。

「お前とはまだキッチリ勝敗を付けられたことはないからな、ここいらで一回決着つけとこうや」

「ああ、おらも丁度そう思ってたとこよぉ」

 二人は四つ組に密着して、お互いに掴みあった。

 それぞれ生徒会班のメンバーがシルバ班の三人を抑え込む形となった事を横目にシスティアが思考を巡らせる。

 どこか仲間の加勢に立つべきか、エナリアを抑えるか。その中で彼女は即座に判断を下す。

 今行っているこれはどんな形であれ競争。

「さぁ、システィア、貴女はどういたしますの?」
「ふ……私では貴女相手には分が悪いのは承知の上」
「ご謙遜を、貴女が本気で戦うところなど見たことがないですわ」
「生徒会長さんはお忘れなの? 生徒会の発案なんでしょ、この競技は」
「ええ、どうなさるおつもりなのかしら?」
「ふふ、安い挑発に乗るのはシルバくらいよ……ッッ」

 そういうとシスティアは駆け出した。

「これは競争種目なのでしょう? ならば無理に戦う必要もない。私がゴールに向かえばいい。まだ順位は保てている。走るということに限れば貴女相手でも私には分がある」

「賢明な判断ね、私も戦いで時間を使う訳にはいかないから助かりますわ。ここが先頭でないというなら私も前に向かわなくては」

 システィアを追い、エナリアも駆け出す。

 その姿を遠巻きに見ていた九剣騎士班のディアナが呟く。

「青春ねぇ、ライバルたちが切磋琢磨する。懐かしい光景だわ」

 自分が学園で過ごしていた時代の事を思い出しているのだろう。ディアナはエナリア班とシルバ班の激突を眺めて目を細める。

 感傷に浸るディアナをリーリエの一言が砕く。

「で、リーリちゃん達はここで寝ない? 割と日差し心地いいしありかもよ」
「なしです」
「ですよねー」

 ディアナの視線に肩をびくりとさせてリーリエは溜息を吐いて走り出そうとした。

「だとするなら早く進も」

「「「いたああああああああ、ディアナ様だ」」」

 背後からの声に振り向くと三人の人影が感動した様子でにじり寄ってきていた。

「いひいいいい本物だァ」
「こ、こここ、こんな近くにィイイ!?」
「し、失神、するゥウウウ」

 一定の距離以上には近づけないのか、キラキラと輝く目でディアナを見つめたまま三人の少年らしき者達は後ろにゆっくりと倒れていった。
 三人とも興奮しすぎたのか鼻から出血して先ほど超えた川の流れのような佇まいで綺麗に並んで天を仰いだ。

 そのまま虚空を見上げ硬直したまま動かない。

「だ、大丈夫なのかしらこの子達」
「ディアナ君のファンなのかもしれないにゃ、いやぁ、大人気」
「ここに置いて行っていいのかしら?」

 ディアナが心配そうに見つめるがリーリエはケラケラ笑いながら状況判断を下す。

「コース上で先生達もみてるって事だし、参加チームのリーリちゃん達も余計な事はしないの。ほら、流石に予選とはいえ一位通過すんならとそろそろいかないとまずいっしょ」

 ディアナは監督の先生らしき人影が接近する気配を感じ取り三人から視線を切った。

「ええ、行きましょうか」

「ほれ、シュレぴっぴもいくよ~、早くゴールして休みたいのよねぇ、リーリちゃんは。はぁ、早く王都の自室で寝たいみがつよいから、たのむよシュレぴっぴ。リーリちゃんに楽させてちょ~」

「はい、師匠。がんばります」

 倒れて硬直する謎の三人を置き去りにして九剣騎士班の三人も先頭を目指して再び走り出した。



 つづく

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