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Fourth memory 10
「そうか! よろしくな! ピスティ!!」
サロスが満面の笑みを浮かべる。
それと同時に、差し出された右手をあたしは両手でしっかりと握った。
大きく、暖かい手だった。子供のころは、この手の温もりはあたしのそばにいつもあった。
そして……この笑顔だ。
あたしがずっと見たかったサロスの顔だ。
アカネさんのように太陽みたいにキラキラとした眩しい笑顔。
こんなサロスの笑顔を見たのは、何年振りだろう……。
天蓋の中に消えて行くあの最後の瞬間も、こんな笑顔は見せてくれなかった。
あたしが最後に見たサロスがあたしを心配させないように見せてくれたのは、これに良く似た偽物の太陽の笑顔。
「どうした?」
「ううん、なんでもないわ」
気恥ずかしさから、サロスの手を離し、少しだけ距離をとる。
「よろしくね、サロス」
「おう、よろしくな! ピスティ」
でも、再会を喜んでばかりもいられない……。
あたしがこの場所に来た理由……サロスを救うという目的を果たさないと。
……あれ? でも待って……あたしの目の前にいるこのサロスはいつのサロスなの?
それにそもそも、あたしはここで何をすればいいの?
……落ち着つくのよあたし。まずは今がどの時期なのかを知らないといけない。
サロスはいずれ、私を助けるために天蓋にくる。
……ここでのあたしはもう天蓋にいるの? それともいないの?
……カマをかけるような聞き方にはなるけど、今はこれしか思いつかない。
「ねぇ、サロス……あなた、ヤチヨを助けたいんでしょ?」
「なっ、なんだよ! いきなり!! ってかなんでーー」
サロスの反応が、瞳が、僅かに驚愕を帯びる。
確信はない。けど、この反応……おそらく今のあたしは……。
「助け、たいんでしょ!! あなたの、力になりたいの!!」
あたしの真剣な訴えの眼差しと言葉に、初めは驚き、戸惑っていたサロスの目が真っすぐあたしの目を見つめる。
「……なぁ、ピスティ、お前はなんで、そんなに俺を助けようとしてくれてるんだ?」
この答えでほとんど察することが出来た。
今のあたしは、ヤチヨは、もう、天蓋にいる。
「約束したから……あなたの力になってあげるって……ヤチヨと」
嘘は言っていない。
あたしは、サロスの力になりたい。
きっと、この世界のあたしもきっと、それを望んでくれるはず。
「ヤチヨに……」
「もう一度聞くわ、サロス。あなたは、ヤチヨを助けたいの?」
「……助けたい! 助けてぇよ!!! ……でも、どうしたらよいのか、わっ、かんねぇんだ……ずっと、考えてたんだけど……わからーー」
サロスの両手を今度は、あたしがしっかりと握る。
あたしを助けにきた時のサロスより幼い風貌。
そして、この取り乱し方はまだ起きた状況が整理できていない。
そこから導き出される、あたしの答え、、、ここはあたしが、ヤチヨが、きっと天蓋に入ったすぐ後くらいなんだろう。
そう思った。
悔しいような、切ないような、そして、アカネさんがいなくなった時と同じような。そんな表情で俯いているサロス。
そんなサロスにあたしはーー。
「大丈夫! あたしが手伝ってあげる! だから一緒に考えよ!! そして、必ず二人でヤチヨを助けよ!」
「!!!! ピスティ……ありがとな! すっげぇ心強いよ」
サロスが顔を上げ、心底、嬉しそうに笑う。
あたしはこの結末を知っている……。
このまま、あたしが何も動かずともあたしは……正しくは、この世界のヤチヨは救われる……。
サロスとフィリアの手によって……。
それは、きっと間違いない。
確信はないけど、あたしは心からそうだと思えた。
……けれどあたしの目的は、サロスとフィリア……二人も一緒に救うこと。
誰も犠牲にならない事。
その方法を探し出す……。
その方法を見つけて、必ずサロスとフィリア、二人と一緒にヒナタの待つあの家に帰る……ヒナタにとっての幸せも、一緒に取り戻して見せる。
あたしがそんな決意をすると、同時にお腹がくぅーっと小さく鳴った。
「ん? なんだ、ピスティ? お前……腹、減ってんのか?」
「あっ、その……違くて……いや、違くはないんだけど……そのーー」
恥ずかしい、サロスにお腹の音を聞かれた。あたしは、そう思ってしまった。
どうしてだろう? おかしいな……。
なんで、あたし……お腹の音を聞かれたくらいでこんなに……恥ずかいなって思ってしまったんだろう?
小さいころからサロスとは一緒で、お腹の音なんて子供の頃はいつも聞かれてたし、逆に聞かせ合いっこしたり、どっちが大きい音か競いあったりしたなのに……
あたし……どうしちゃったの!?
「なんだ? ピスティ、お前、顔、真っ赤だぞ? 熱でもある———」
「触んないで!!」
伸びてきたサロスの手を思わず、払ってしまう。
驚いた表情のサロス、すぐにしまったという後悔の感情があたしを襲った。
「あっ! ごめんサロス……あたしーー」
「あっ、いや、俺、こそ、悪い………」
それ以後、言葉が二人とも出てこず、沈黙の時間が流れた。
気まずい……音のない、すごく静かな時間が流れる。
そんな気まずい空気などお構いなしに、あたしのお腹がまた小さくきゅーっ、となる。
もう、すごく恥ずかしいのに……恥ずかしいのに……体はとても素直だ……。
もう、いやだ……穴があったら入りたい……。
そんな、あたしの小さなお腹の音をかき消すような、大きなお腹の音が聞こえる。
一瞬、自分のものかと最大限に顔を赤らめるが、サロスがハハハと大きく笑う。
「俺も、腹減った!! 飯にしようぜ! 飯! 俺、なんか作るから」
「あっ、あたしも手伝う!!」
「いらねぇ、よ、ピステ。その、えと、とりあえず、座って待っててくれ」
「えっ!? う、うん……」
ああ、そうか。あたしにとっては、今目の前にいるのはサロスなのに、サロスの目の前にいるあたしはヤチヨじゃないんだよね……。
サロスにとって、今のあたし……ピスティはさっき知り合ったばかりの人間、なんだもんね……。
頭ではそんなことわかってる、
でも、サロスとのその距離感が何故か、妙に、悲しくて……。
自然に、頬に涙が一筋伝った。
あたしの感情はめちゃくちゃだった。頭も、心も、ぐるぐると回り続けていて……もう、わけがわからないのに、涙だけが止まらなかった。
そんな、あたしに気づいて、サロスが慌てた様子で近寄ってくる。
「えっ!? ご、ごめん!! 泣くなよぉ……どうしたんだよ?」
「……あたしも手伝いたい、の……」
「えっ!?」
「あたしも、サロスと、一緒に、何か作りたいの……」
「んー……じゃあ、一緒に、作るか?」
サロスは、戸惑っていたけど、あたしはその一言で、涙が引っ込み。
ぐるぐるしていたはずのよくわからない何かも、一瞬で消えて……変わりに胸がドキドキした。
サロスに変な気を使わせてしまったことへの罪悪感よりも、久しぶりにサロスと一緒に料理できる、そんな些細なことのはずなのに、嬉しさで胸がいっぱいだった。
「うんっ! あたし、何すればいい?」
「えーっとそうだな、うーん———」
あたしの変化にサロスがしどろもどろしている。
あたし自身もそんな気持ちに戸惑っているけど……それよりも、今目の前にいるサロスが可愛くて、愛おしくて……。
さっきまで感じていたあの不思議な気持ちがなんなのかはまだわからないけど……。
きっと、ヒナタがフィリアのことを話しているときと同じなんじゃないかなって思った。
……ヒナタやソフィがフィリアのことを嬉しそうに幸せそうに話しているのが、時折、あたしには理解出来ないことがあったけど……。
サロスの言葉、一つ一つであたしの気持ちが、次々に笑ったり、怒ったり、悲しくなったり、くるくる回るように変わっていく。
こんな子供みたいに弱いあたしは大嫌いだけど……サロスの言葉でそんな大嫌いな自分になるのは、なぜだか嫌いじゃない。
……弱いあたしであるのは同じかも知れないけど、その違いは、あたしの中では大きな違いで……。
今、目の前にあるサロスの背中に思いっきり抱き着きたくなって、でもきゅっと口を結んで我慢する。
頭も心もサロスでいっぱいになり……サロスのことしか考えられなくなる。
……あぁ、そうか……もしかして……あたし……天蓋にサロスが消えるときにきっと気づい……。
ううん違う。それよりずっと、もっとずっと前から……本当は、わかってた……あたし、あたしは、、サロスのことが……。
続く
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