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Second memory(Sarosu)07

「じゃあ、帰るね」
「あぁ」
「落ち着いたら、学園にも顔出してね」
「あぁ」
 外も、すっかり暗くなってきたので今日は、解散することになった。
 久々に会った二人のお陰で今日は良く眠れそうだ。
 最近、あの悪夢を見る回数が増えている。
 やはり、俺はまだ母ちゃんがいなくなった事実を受け止め切れていない 。だから、いまだに夢に現れる幻に縋っているんだ。

 情けねぇな。

 今の俺を見たら母ちゃんはきっと叱るだろうな。さっき、俺に対して怒ったヤチヨに少しだけ母ちゃんの姿が重なって思い浮かぶ。

 もう寝ちまおう。
 明日、考えることにして今日は、もう……

 目をつぶる。でも不思議と眠れる気がしなかった。母ちゃんの姿ではなく今日のヤチヨの姿がずっと頭の中にある。
 
 俺、どうしちま――

「サロス!!!」
 フィリアの声に、飛び起きる。
「どうしたんだよ? もう、遅いぜ。話なら――」
「ヤチヨがいなくなった!!」

 胸が、ざわつく。血の気が一気に引いていく気がした。
 ざらりとした嫌な予感が頭の中に溢れてくる。

「まだ、家に帰っていないらしいんだ君も――」

 飛び出した瞬間に見えたのは、フィリアの姿だった。
 何か言っているが今の俺には聞こえはしなかった。靴も履かずに一足飛びに家を飛び出した。

 心臓が痛い。最近走ることなんてなかったからか、運動不足ってやつかもしれない。ドクドクと、信じられない速さで鳴る鼓動の音が聞こえる。
 でも、そんなのどうでも良かった。
 ヤチヨを……ヤチヨまで失いたくない……その一心で、走り続けた。

 気が付いたときには、かなり森の奥の方まで来た気がする。こんなに奥に入ったのは久しぶりかも知れない。
 辺りは、夜なのもあるがほとんど真っ暗で少し先すら見えづらかった。

「ヤチヨ―ッ!!!!」


 見当なんてもちろんついてない。ただ、がむしゃらに走り、叫び続けた。
 俺の声だけが響き静寂が直後に辺りを包み込む。
 静かに周囲の音に耳を傾ける。
 そして、聞き覚えのある声がかすかにだが聞こえてきた。

「サロス!! ここだよ!! ここにいるよ!!」

 茂みの向こうの斜面の下から、ヤチヨの声が聞こえた。
 この下に続く道は――――考えるより先に、足は前に出ていた。気づけば、俺はその斜面を勢いよく駆け下りていた。途中何かにぶつかる。凄まじい痛みが一瞬襲うが、気にしないことにした。この下にヤチヨがいる。

 駆け下りた先には、人が一人入れるくらいの穴が開いていた。獣を捕まえるための落とし穴かなにかだろう。まさかと思い、穴を除きこむとそこには座り込むヤチヨがいた。

 俺の後ろから遅れてフィリアが駆け付けた。俺は、フィリアに救出の手立てを託し。ヤチヨを安心させてやるために話し続けた。

「痛っ!」
「ヤチヨ、お前怪我してんのか?」
「ううん。平気、大丈夫。かすり傷だか――」

 ヤチヨの言葉が言い終わるより先に、俺は穴の中に飛び込んでいた。
 自分でも、馬鹿だと思う。さっきぶつけたところが更に痛む。
 あー。こりゃ、不味いな。下手すりゃ折れてる。
 しかも、こんなに激しく動くの久しぶりすぎて着地もちょっとミスったな。
「馬鹿、何やってんの!! サロスまで落ちちゃったら意味な――」
「傷、見せてみろ」
自分の痛みを悟られるわけにはいかない。ヤチヨにこれ以上心配はかけられない。
「だいじょう――」
「いいから!!」
 気づかれないように、少し大げさに声を張り上げる。少し、左のわき腹が痛んだ気がした。これは、もしかすると思った以上に重傷かも知れない。

「お前、こんな状態でかすり傷なわけねぇだろ!! 色、変わってねぇか!?」
「えへへ。そうなの? 暗くてよく見えないし、あんま痛くなかったからわかんなかったなぁ。 えへへ……」

 暗くて見えないか。それは好都合だ。俺の怪我がバレる確率は少ないということだ。
 ヤチヨと違って俺は夜目が利く。多少の暗さなら問題はない。つまり、この状況で嘘をつくなら俺が圧倒的に有利ということだ。その嘘もヤチヨに通じてもフィリアには通じるかはわからないが

「お前、それで誤魔化したつもりか? バレバレだぞ」

 ヤチヨが笑っている。良かった、見た目ほどひどい怪我ではないらしい。

 ただこの意地っ張りのことだから我慢しているだけかも知れないが。
 まぁ、それは今の俺がどうこう言えることでもない、か。

「あはは。 サロスにはわかっちゃうんだね」
「多分、フィリアにもな。痛むのか?」
「うん。けっこう」
「そうか。フィリアが戻ってくるまで、我慢な」
「うん。フィリア、驚くかな?」
 ヤチヨが、楽しそうに笑っていた。



続く

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