Eighth memory 05 (Conis)

「何故、追いかけてきた？　エスシー？」

　突き放すような言葉を発しているはずなのに、オービーは石段に座り、まるでワタシが来るのを待っていたかのように、どこかにこにこした表情をしているそんな印象をワタシは感じたのでした。

「何故？　ですか？　うーん……ごめんなさい。その質問には正確にお答えできません」
「……そうか……」

　ワタシの返答にニコニコしたお顔を見せて、オービーはどこか満足そうでした。

「オービー、ナンバーヌルの言っていたとおりあなたが先ほどまで抱いていたイライラはシーエイチへのあいしているが理由ですか？」

　ワタシはなぜなぜの疑問をオービーへと、投げかけると、オービーは頭をかきながらにがにがした表情を浮かべました。

「俺にもわからん。だが……おそらく、そうなんだろう」

　オービーは少しだけお顔を赤らめながらそう答えました。

「仲良しというのは、愛がある、と、いうことなんでしょうか？」
「それもわからない、わからないことだらけだ……」

　どうやらオービー自身も、ワタシと同じようにこの【あいしてる】という言葉を理解はしていないようでした。
　シーエイチとオービーは仲良しさんでした。シーエイチはきっとオービーを【あいしていた】ような気がします。

　本人がいない今となっては確認することはできませんが、ワタシは何故かそう思いました。

「では……オービー、今一度聞きます。オービーは、シーエイチをあいしていましたか」
「……あぁ」

　そう言ったオービーのお顔はどこかキラキラしていました。そしてそれを隠すように、にがにがしたお顔をしました。
　ワタシはきっとシーエイチはオービーのこんなお顔が大好きだったのだと思います。

「……ワタシにもあるのでしょうか？」
「んっ？　何がだ？」
「その、【あいする】という感情は？」
「……あるさ。エスシー、お前だけじゃない。きっと誰もが持っているものなんだろう……人間、で、あれば皆。きっとな」
「人間、ですか？　ワタシは、人間？　なんでしょうか？」
「なに言ってるんだ？　確かに少し変わってはいるがお前は人間だろ？　違うのか……？」
「そうですか。ワタシは、人間なんですね」
「あぁ」

　そのオービーの言葉にどこか安心感と共に、言いようのない違和感を感じてしまいました。でも、それがどうしてかはワタシには分かりませんでした。

　人間。

　……人間とはなんなのでしょうか？　ワタシやオービーやシーエイチ、本好きな彼女もみんなみんな人間なのでしょうか？

　ヌルさんは、ワタシたちよりも大きい大きいマザーも、人間……なのでしょうか？

　なぜ？　なぜ？　がワタシの中に次々と生まれ頭の中がぐるぐるモヤモヤどんどんバンバンします。
　それはきっと今、このなぜなぜを解消することはできないと、そう考えました。
　であるならば、ワタシは次のなぜなぜを解消しようとオービーへと声をかけました。

「今日は、何をしますか？　オービー」

　マザーの愛を受けた後のワタシはいつも何をすれば良いかわからなくなります。だからこうしてオービーへ訪ねるのです。
　オービーは、はぁっとひとつため息を吐くと、頭を少し抑えながら口を開きました。

「何度同じこと言えば良いんだよ。お前は。いいか。これからやることなんて限られてる。揺り籠を離れている以上、明日以降の食料と水の確保。後、寝床だが……まぁ、昨日と同じで問題はないだろ。後は、お前自身の浸食具合だが……まぁ、問題なさそうだな」
 
「問題ありません」
「よしっ行くぞ、エスシー」
「はいっ！！」
 
　こうして、ワタシの一日が進んでいきました。その日は中々に、はぴはぴだったのでしょう。
　石となり動かなくなっていた、誰かさんを見つけ、その誰かさんが動いていた時にため込んでいたのだろう、食料や水その他にもたくさんのもの。
　きっとしばらくは生活には困らないほどの貯蓄を見つけることが出来ました。
　ワタシとオービーはにこにこをぶつけ合い、その場所にしばらくいることにしました。

　唯一、うーんなことは揺り籠からずいぶんと離れてしまったこと、でしょうか……。

　でも、オービーは揺り籠から離れられたことを喜んでいるようでした。
　ワタシは揺り籠から離れたことに関しては、少しうーんな気持ちになりました。

つづく

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