Third memory 02(Yachiyo)
「そう、あたしはアカネっていうの。よろしくね! ヤチヨちゃん!」
そう言って、アカネさんは優しく笑いかけてきた。その姿から、不思議とママと同じように優しい暖かさを感じた。
「うん、綺麗になったわね。二人とも湯舟に肩まで入って30数えたら出ておいで」
「うーい」
サロスは、気だるそうに返事をすると湯舟にざぶんと入った。
「……」
「何してんだ? お前も、入れよ」
「あの……」
「……さっきは、ごめんな。でも……その……俺もよくおねしょしちまうし。だから……あんま、気にすんな、よ」
ぶっきらぼうな言葉だったけど、きっと元気づけようとしてくれたんだと思う。
そんなサロスの優しさがあたしは嬉しかった。
子供二人では広すぎた浴槽に、体を沈め、あたしはサロスにぴったりくっつくように寄り添う。
「おっ、おい。狭いだろ。もう少し離れ――」
サロスの左手をキュッと力強く握った。あたしはそのお風呂の大きさに再び、言いようのない恐怖感を感じていた。
「ったく……しょうがねぇなぁ。30数えるまでだからな」
口では、そう言いつつもサロスはあたしの震えが止まるまで、数を数えながら一緒にいてくれた。
お風呂から上がった私たちは、着替えを済ませ。リビングへと向かう。
「あっちー! 母ちゃん、アイスー!!」
「ご飯食べてからにしなさい」
「あの……!!」
あたしの目線の位置になるように、アカネさんが座り込んでくれた。怖がらせないように配慮してくれたんだと思う。
「えーっと……その、落ち着いた? ヤチヨちゃん」
「うん、ありがとうございます。あっ、お洋服―――」
脱衣所になかった自分の洋服に今更気づき、少しだけ焦りが生まれた。
「あー……ヤチヨちゃんのお洋服、汚れちゃってたからね。今、お洗濯してるの。だから、あたしのお古で悪いんだけど今はそれで我慢してね」
「アカネさんのお洋服、いい匂いする」
「そう? まぁ、気に入ってくれたのならよかった」
アカネさんはそう言ってニッと笑っていた。
「母ちゃん、めしまだ?」
「めしじゃなくて、ごはん! それにサロス、あんたはその前にヤチヨちゃんに何か言うことがあるんじゃないの?」
「風呂ん中で、一応謝った。シスター、今日のめし何?」
そう言ってサロスは、私とアカネさんの横を通り過ぎ。目の前の扉を開けた。
「今日は、サロスの好きなエビフライよー」
扉の奥からシスターの声が響く
「ぃやったーーーーー!!!!!!!!」
答えを聞いた、サロスは一度飛び跳ねると一目散に走っていった。
「こら、サロス!! ごめんなさいね。ヤチヨちゃん、うちの子あんな感じで馬鹿だから」
あたしは、否定するように首を横にふるふると振った。
「サロス、一緒にいてくれました」
「えっ?」
「さっきまで、怖かったけど……ずっと、一緒にいてくれました」
さっきまでの恐怖心はどこへ行ったのか、優しいアカネさんと、そっけないけど本当は優しいサロス。二人の優しさであたしはいつの間にか暖かさで胸がいっぱいでニコニコと笑っていた。
「あら? ヤチヨちゃんは笑った顔が一番かわいいね。その笑顔でいれば、きっとみんなが守ってくれるよ。」
アカネさんは、そう言いながらあたしの頭を撫でてくれた。
「母ちゃん、ヤチヨ!! 何してんだよ、めし、食おうぜ」
「サロス、だからめしじゃなくてごはんだって」
アカネさんが、あたしの手を引き食卓へと連れていってくれた。
扉を開けた先は食堂のようになっていて、席につくといつの間に用意したのかあたし用の箸とお茶碗がテーブルの上に置いてあった。
続く
作:小泉太良
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