Fourth memory 15
まず1つ、サロスは、「さいわいをよぶもの」と呼ばれているらしき物に関連する不思議な力を何らかのタイミングで必ず手に入れている。
その名称には少し引っかかる所があるけど今はそういう物として考えていく。
2つ、フィリアは、天蓋の中心部の前で最初は必ずサロスとぶつかるけど、サロスが、「さいわいをよぶもの」の力を使うその最後の瞬間には必ずサロスを助けるため協力してくれる。
3つ、あたしはあの日、天蓋に乗り込むその日まで、サロスとしかほとんど接触することができない。
不可能ではないのかもしれないけど、何度かフィリアにも会おうとしたが必ず何らかの邪魔が入った。
そして、アカネさんが言っていた未来を確定付けるリスクを避けるためにも、次は控えることにした。時間を浪費することにもなっている気がする。
4つ、昔のあたしには何故か、干渉をすることができる。ただ、この現象に意味があるとは思えない。天蓋の中に居るだけで当時のあたし何を言っても出来る事はない。もちろん直接今の話をすることも出来ないのだから不要な情報だろうと考えられる。
そして、5つ、出口を通る際、必ず何かが砕けた音が、一瞬だけする。何が起こっているのか、わからないけど、嫌な予感だけはしている。
出来るだけ考えないようにしていたけど。まるで、カウントダウンをされているような……ここまで繰り返しているとそんな事も頭をよぎる。
サロスとフィリアは必ず敵対しており、最後のあの瞬間。サロスがあの不思議な力を使う時に和解する。
そこにどんな障害や、問題が発生したとしても……変わるとすればその瞬間他の誰かが関わるかどうかの一点だけ……。
一度だけ、あの瞬間にヒナタを連れて行った事があった。
でも、その時ヒナタは……あの瞬間は今も思い出したくない。
ソフィを庇おうとしたヒナタをナイフで切り裂いてしまったあの瞬間。
思い出して涙が零れたような錯覚が頬を撫でた気がした。この場所では本当に零れたかどうかはよくわからない。
つまりあの瞬間、「さいわいをよぶもの」の力を使うあの瞬間に、必要なのはおそらく、幼いあたし、サロス、フィリア。
そして、その他の人間の生死は問われない……
だからこそ、あの場にソフィがいることは避けたかった。ソフィの存在はイレギュラーな部分が多過ぎて、いかに彼を遠ざけるかも重要な事だった。
繰り返しの中、あたしの直接的な障害となる行動をしてくるのはほとんどソフィだった。
ヒナタを切り裂いた時、その時ばかりはヒナタに駆け寄り、手当てをしていたから結果的にはソフィを遠ざけられたけど……あまりにリスクが大きすぎる。
あの時のフィリアは、サロスを殺してしまいそうな勢いで激高していた。
なのに、「さいわいをよぶもの」の力を使う瞬間、サロスに協力している様というのはすごく不気味だった。
そこにはフィリアとサロスの意思がなく、まるで何かに操られているようにも傍からは見えた。
操られている……自分で考えたその想像に、その違和感に気づく。
必ず、何をしてもああなるようになっているってこと?
じゃあもう、何をしてもこの運命は変えられないって事?
あたしがこれまでしてきた事は全部無駄かもしれないって事?
あたしは、握っていたナイフを胸元辺りまで持っていく。
今もドクドクと規則正しく動いているであろう、心臓の正確な位置を確認することはできないけど、他の誰でもない自分の体だ、なんとなくその位置はわかる。
このまま、勢いに任せて、自分の胸を貫けばこの終わりの見えない救いのない物語を終わらせることはできるのだろうか……?
もう疲れてしまった……。
後、何回あたしは大好きな人たちの最後を見届けなければならないのだろう?
誰にも言えない苦しみを味わえばいいのだろう……。
もういいや……。
あたしは充分頑張って運命に抗った。
もう、ここで終わりにしても誰も文句は———。
『ヤチヨちゃん、これからあなたはこれまで以上に辛くて苦しい想いをすることになるかも知れない。でも、決して諦めないで!!きっとあなたならいつか必ず本当の答えを見つけることができる。あたしは、そう信じてる』
聞こえないはずの声。あの日アカネさんに言われた言葉が脳裏に響く。胸元近くにあったナイフが音もなく消えていた。
消えるはずがないのに……でも、さっきまで握っていたナイフはあたしの手にはもうない。
そして、気づけば、視界に入る景色に違和感が生まれる。
気のせいだって最初は思えた。
でもこれは変えようのない現実。
出口自体があたしの方へと迫ってくる。
それはまるで、早く次を始めろと、あたしを急かすように。
「うっ、うわぁぁぁぁ!!!」
あたしは、その見えない力に抵抗するように、後ろを向き、目の前の壁を殴りつける。
その行為に意味なんてない。
この理不尽に襲い掛かる、自分の今の状況への怒りを何かにぶつけたかった。
でも、壁を強く、自分を傷つけるように殴りつけているはずなのにその手に痛みはない。
それがわかった途端、あたしは狂ったように壊れたように無我夢中でその壁を殴り続けた。
音も痛みもない。そんな中、あたしはただ、その目の前の壁を殴り続けた。
あたしはその時、笑っていた。
気づけば出口はあたしのすぐ背後まで迫ってきていた。
あたしの半身が、光の中に入った時、初めて、痛みを感じることが出来た。
でも、既におかしくなったあたしにはそんな痛みなんて関係なかった。
ただ、何かをぶつけるように、目の前の壁を殴り続ける。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ひと際、力を込めて殴りつけた瞬間、ピシリと壁に小さな亀裂が入った音が聞こえたような気がして、視線を向けるとそこから出口とは違う別の光が漏れ出してきている。
「えっ!?」
あたしは驚きの声を上げると同時に、迫ってきていた出口が元あった場所へと戻っていく。
その僅かに漏れ出た光を求めるように、あたしはまた再び目の前の壁を殴り続ける。
どのくらいの時間が過ぎただろうか……不思議と疲労感は感じていなかった。それどころか、さっき一瞬、感じた痛みをあたしはまた感じなくなっていた。
声も音もない空間……あたしは、本当に今、壁を殴っているのかという疑問さえ浮かんできそうになる
でも、そんな疑いを持ってしまえば、この手が止まってしまう……そんな気がして、あたしはその考えを振り払い、ただひたすら、目の前の壁を殴り続ける。
出口はいつでも戻っておいでと言わんばかりに、その光をあたしの背後に向けて優しく照らし続けていた。
今まではその光は暖かいと思っていたが、今はあたしをそそのかす悪魔のような光に思えてならなかった。
今、もしその光に甘えて、戻ってしまえば、ようやく掴めそうな何かを手放してしまうような気がして……あたしはその甘えを振り払うためにただ、一筋さした小さな希望を信じ、一心不乱に殴り続けた。
そして、何かが割れるような音がこの空間全体に響く。その瞬間。あたしは凄まじく大きな力を感じた。
この大きな力があたしを……サロスたちをこんな目にあわせている原因なんじゃないかと、そう思えた。
サロスも、フィリアも、アカネさんをも苦しめている、その見えない存在に向かってあたしは思いっきり親指を下に向けて振り下ろし、喧嘩を売る。
「冗談じゃないわ! あたしたちの未来を誰かに決められてたまるもんか!! あたしは負けない! 絶対に見つけてみせる! みんなが幸せに笑える未来を!! あたしたち自身の物語の幸せな結末を! あたしが……あたしたちが作ってみせる!!!」
殴り、叩き続けている壁から新たに差し込んだこれまでの出口ではない光の中へとあたしは飛び込んだ。
続く
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