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Fifth memory (Philia) 11
朝食を終えて二人分のコーヒーを入れて席に着く。
カップに口を付けて一口飲んで小さく息を吐いた父さんが呟くように話しかけてくる。
「フィリア……」
「なんだい父さん?」
カップをテーブルにコトリと置いて僕を見つめる。
「……お前もこれからの人生の先、辛いことをたくさん経験するかも知れない……」
「うん……」
「ただ、忘れないでくれ。お前のそばにはいつも、母さんがいる。姿は見えないかも知れないがな……勿論俺も」
「うん……」
「……周りにいる人間を、信じてやれ。お前ひとりではできないことも、一緒ならできるか事もある」
「一緒、なら……」
そう言われて思い当たる人物が一人いた。
サロスと一緒なら、もしかしたら……。
「俺には……残念ながらできなかった。だから、今、ひとりぼっちになってしまった。だから、お前は、俺のようにはなるな」
「父さん……父さんには、僕が、いるよ」
「フィリア。ありがとう……」
「無駄話をし過ぎたな。そろそろ、学院に行く時間だろ?」
「えっ、あぁ、そうだね」
僕は、時間を確認し足早に家を飛び出した。
「フィリア!!」
声の方へ向く。
「いってらっしゃい!」
「……行ってきます! 父さん!!」
最後に見た父さんの顔は、母さんのように優しく、そして暖かい笑顔だった。
「じゃあ、あたしたちも帰ろ!! フィリア」
その笑顔が今朝の父さんの笑顔に重なる。朝はあんなに心が暖かくなったその顔に今は、心が痛んだ。
僕は、これからこの笑顔を裏切ることをしなければならない。
「…… ヤチヨ」
言葉の節々が少し震える。それは、僕の弱さなのかも知れない。
「んっ? なーに? フィリア」
ヤチヨの笑顔をまともに見れない……やめてくれ……ヤチヨ……。
「ちょっと、、来て欲しいところがあるんだ」
「良いけど、、どこに?」
「…… すまない…… 」
はっきりとヤチヨに僕の口から正直に告げることは出来なかった。
「ふーん……あっ! でも、遅くなったらちゃんと送っていってもらうからね!」
この時の僕はまるで悪魔だ。あんなに無邪気に笑うヤチ ヨを騙していたのだから、、ヤチヨに対して、僕が初めてついた嘘。
僕は自警団にヤチヨを引き渡し、天蓋の中心部にある部屋へと入る最後の瞬間まで見守る。それで僕の役目は終わりだ。
守人としての僕の初めての……仕事はーー。
「っつ!! ヤチヨ!!!」
天蓋中心部の部屋に入ろうとする背中へかけた僕の声にヤチヨが振り返る。周りの自警団の静止も聞かずにヤチヨに駆け寄る。
「…… これを」
首から下げていたペンダントをヤチヨに手渡す。
「んっ? なーにこれ?」
「僕の家に代々伝わるお守りだ」
「えっ!? いいの?」
ヤチヨが戸惑った表情を浮かべるが、そんなヤチヨの両手をとってしっかりと握らせる。
「ヤチヨに持っていてほしいんだ。そして、出てきた時に返してくれればいいから」
「ん、ありがと、大切にするね!」
ヤチヨに一度握らせたペンダント。込められた指の力をゆっくりと紐解くように拡げる。
ペンダントの革紐を持って、後ろに手を回し首元にしっかりつけると心なしか僕が付けている時より、ペンダントは輝いて見えた。
「・・・ヤチヨ!!! 」
「なーに?」
「待ってるから! いつまでも待ってるから!!」
「うんっ! あたしには、四人でいることが全てだもん!!! 」
「っつ! ヤチヨ、、すまない、、すまない・・・」
「…… サロスと喧嘩しちゃダメだよ! バイバイ! フィリア!」
そう言って小さく笑ったヤチヨの顔がいつまでも脳裏から離れなかった。後のことを自警団に任せ、僕は逃げるように家へと帰宅した。
やり切れない気持ちで家に帰るとテーブルの上に一枚の置手紙が置いてあった。
内容は、ただ一言『ケジメをつけてくる』とだけ書いてあった。
今朝のやり取りが父さんと交わす最後の会話になるなんて思わなかった。
父さんは僕を見送るあの優しい笑顔の裏で何か大きな決意をしていたのかもしれない。
どこに行って、何をしているのかはわからないが、父さんはその日を最後に、僕の前から姿を消した。
その翌日、ヤチヨのことを話すと、サロスには殴られ、ヒナタにも心配をかけてしまった。
勝負に勝ったはずなのに……子供の頃のような喜びはなく……走り去るサロスの背中をただ見ていることしかできなかった。
追いかけることができなかったのはきっと、僕自身もどこか納得しきれてなかったところがあったからかも知れない。
サロスの言うことの方が、心には響いていた。でも、それじゃまた知らない誰かが僕と同じ想いをする。
天蓋に連れていったヤチヨの最後の瞬間の顔が忘れられない。
ヤチヨは信じているんだ……また、みんなで会えることを……。
そう……ヤチヨは……ヤチヨは……。
このままの僕ではダメだ、今のままではまた、何もかもを失ってしまう。
だから僕はーー。
気づけば僕は自警団の門を叩き、偶然出てきたアインさんに遭遇した。
「あーら、弟君じゃない、どうしたの?」
「今日は、アインさんにお願いがあってきました」
「お願い?」
「……アインさん、僕を自警団に入団させてくれませんか?」
「……んー、お父さんもお兄さんもいなくなってしまって、正直、弟君が自警団に来てくれるのはありがたいんだけどぉ……」
「ちょっと待ってください!! 兄さんは、アインさんのところにいるんじゃーー」
「あー……しまった。そうよねぇ、まぁ弟君にならいいか。そうよ、現、自警団は今総団長不在な状況よ」
「総団長不ーー!?」
アインさんがとっさに僕の口を塞ぐ。
「あんまり、大きな声を出さないで。一応、今は私が総団長代理。補佐としてツヴァイとドライが手伝ってくれてるわ」
「そんな状況になっているとは……すいません。そんな状態で無理なことを言ってしまっーー」
「だーから、そんな状況だからこそ、あなたが来てくれて助かったのよ」
「どっ、どういうことですか?」
「……よろしく頼むわね。未来の総団長」
アインさんが、そう言って僕に向けてウインクをする。
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってください!! 僕が総団長ってーー」
「まぁ、それは冗談として……入団理由を聞かせてもらえる?」
「……今の僕は、弱いから……このままじゃ弱いままだから……」
「……あのね、弟君、仮にも自警団に入団しようと考えている人が自分から弱いって言うのはなんというかーー」
「僕は!! 天蓋を守りたい!! だから、だから!! 僕ができることを精一杯やりたいんだ!! そのために力が、強さが欲しいんだ!! ……お願い、します」
僕は、勢いのまま地面に両膝をついて頭を下げる。天蓋を……ヤチヨが安心して出てこられるようには僕も内部の人間になるしかない。
父さんや、兄さんもいたが、僕には正直まだ無縁の場所だと思っていた。
いずれ、その組織の人間になることは小さいころからわかってはいたが……こんなにも早く僕自身が望むことになるなんて考えもしなかった。
「……0点」
「えっ!?」
「自警団の入団希望としては、弟君の入団理由は0点」
「……」
頭を上げることができず、アインさんの言葉をただ聞く。その声色は先ほどまでの彼女と比べればとても冷え切った言葉のように感じた。
表情は見えないが、僕はこの声色をしているときの人間の顔を知っている。
僕に、サニーゲームをするなと言って去っていった父さん、ヤチヨを天蓋に連れてくる期日を言って去っていた兄さんのように今のアインさんの表情はとても厳しい目だったーー。
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