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Sixth memory (Sophie) 18

 ボクがヤチヨさんに万が一の時の為に預けた銃。

 いつの間にかその扱いは自警団のボクから見ても並みはずれていた。いつの間に練習したのだろうか?
 
 更には、その身軽な体から放たれる想像だにしない強烈な足技により、ロボットを次々と戦闘不能にしていた。

 ガガピピと、不穏な機械音と共に一体、また一体とその動きを止めていく。

 彼女の戦闘におけるセンスには今更驚くこともないが、初めてその技術を見た時は流石に驚愕した。
 
 きっかけは些細なことだった。

 ある日、ボクがヤチヨさんとヒナタさんに簡単な護身術を教えた時だった。
 
 何故二人にそんなものを教えたのか……それはボクが居ないときに危険が起きた際の保険の為だ。
 四六時中、ボクが二人の傍にいられるわけじゃない……もし危険なことが起きた時、自警団の居る所まで逃げて助けを求めにいけるくらいには自分の身を守る術はあった方が良いと思ったからだ。

 教えて直ぐに、二人はボクの教えた護身術を理解し、体得していった。
 ヒナタさんはフィリアさんにもボクと同じような理由で昔こういうことを教えられていたらしい。
 なるほど……それならばと、ボクはヒナタさんの上達の早さに納得が出来た……。

 驚かされたのは、ヤチヨさんの方だ……。

 ヒナタさんはヤチヨは体を動かすのが得意だから私よりも動きを覚えるのが早いわね。
 なんて、笑顔で言っていたけど……。

 その違和感にボクはすぐ気づいた。
 
 ……明らかに戦闘慣れしている。

 運動が得意? そんなレベルじゃない……違う……あの体の使い方は、そんな理由では片付けられない。

 あれは……ドライさんの動きに近い……力に頼るのではなくあくまでその動きの速さで戦うスタイル……ドライさんほどの速撃は出来ないにしろ……一般団員と比べてもその差は歴然だった。

 ヒナタさんのお友達でさえなければ、自警団にスカウトしたいほどの人材だ……教え込めばヤチヨさんがヒナタさんを守れる強さを手に入れることができそうな位だ

 今の状況を考えればそれが一番安全を担保できる方法。

 ……初めて、このロボットがボクたちを襲った日。ボクは二人を守りながら戦っていた。
 一瞬の隙をつかれ、ボクは銃を取り落としてしまった。銃は転がり、ヤチヨさんの目の前まで止まる。
 
 ロボットの一体がボクの横をすり抜け、二人に襲い掛かる。
 ボクはとっさに体を捻り、二人の方へ地面を駆け出し向かおうとしたその時。

 ダァァンという、銃声が耳に響いた。

 ヤチヨさんが転がったボクの銃を拾い上げ、ロボットに向かって発砲していた。
 ヒナタさんはその音に怯えていたけど、彼女は……ヤチヨさんは違った。
 しっかりとそのロボットを見据え、僅かな怯えは見えつつも、そのロボットに弾は直撃していた。

 あの顔は、初めて銃を撃った人間の表情ではない……。
 
 後々、ヤチヨさんに何故銃を撃てたのかと聞くと、ヒナタを守らなきゃって思ったら勝手に体が動いたと言ってた。
 危機に瀕した時にその人の本質が現れると言うがあまりにも危険に慣れ過ぎている。

 民間人が緊急時とはいえ発砲……つまりエルムの使い方を知っていたということ……。

 これは本来なら団に報告し、他の団長たちの意見……いや、団長会議の議題にし、指示を仰がなければならないような案件だ……。

 でも、ボクはそれは二人を守るために必要なことだという結論を自分自身で導き出し、彼女が銃のエルムを使ったことを黙秘することを選んだ。

 ……まぁ、銃を紛失したと報告した時にアインさんにこっぴどく叱られ、始末書の山をーー。

「ソフィ! 危ない!!!」
「っつ!?」

 ロボットが振り上げた、腕を剣で受け止め、その横からヤチヨさんの強烈な跳躍キックが決まり、ボク達よりも大きな体が吹っ飛ばされその動きを停止する。
 
 いけないいけない。今は戦闘の真っ最中だ。目の前に集中しなければ。
 
 追加のロボットが3体こちらへと向かってきているのが見えた。

 今日ここまで倒した数を含めて7体……いつもよりも多い……何故なんだ?

「ソフィ、あんた、武器は?」
「今日は非番なので使えるのはこれだけになります」
 
 握っていた剣をヤチヨさんに見せる。ヤチヨさんはその剣を一瞥するとそのまま前を向いた。

「その剣は何か特別なもの?」
「いいえ、護身用に常備している、自警団から支給されている極一般的なものです」
「……量産品か。なら、無理しないでね。あたしが、チャンスを作るから」
 
 そう言ってヤチヨさんが駆け出し、的確に胴体へ銃弾を浴びせていく。
 怯んだ隙にボクも相手へ行動不能となるような一撃を与えていく。
 剣で切り伏せ、倒すことは出来なくても、硬度のある箇所ではなく、関節部や駆動部を狙って攻撃すれば動きを止めることはできる。
 
 目の前で仲間が倒れようと見た目通り機械の彼らは恐怖を見せることもなく、ただこちらに向かってくる。
 倒れている機体も、今は動かないだけ……完全に破壊できない以上……時間がかかるほどにこちらが苦しくなっていく。

「ソフィ! 気をつけて、そっち、行った!」
 
 ロボットの一体が、ボクに向けてギチギチという、古びた音を立てながらその腕を振り降ろす。
 ボクは、その動きをよく観察し、ひらりとかわし距離を取る。
 腕を元に戻そうとまたガタガタガタと、歯車が回るような大きな音がする。
 
 滑らかな動きは出来ない相手だがその攻撃が当たればタダでは済まない気がした……。

 ただ、動きが遅いのなら焦る理由はない……ボクは襲ってきたロボットの足関節部を狙い
 剣を振り下ろし、その動きを止める。
 同じく、ヤチヨさんも、残りのロボットの処理を終えたのか、ふぅと一息ついてこちらに歩いてくる。

「見た感じ……これで全部みたいですね……ヒナタさんのところに戻りーー」

その瞬間、ヤチヨさんが上空に顔を勢いよく向けて叫んだ。

「ソフィ!! 上っ!!!」
 
 ヤチヨさんの声に、上を向くとそこには人のような姿をした全身緑色の何かが、ボクに向かって降ってくる。
 
 とっさに剣を構えるが、あの高さから降ってきたのでは受け止める事は出来ない。
 
 避けようとしたがその凄まじい速さから繰り出されるそいつの刃物のような鋭い何かに変化した腕が、ボクの右肩を斬りつける。衣服の一部が裂け、右肩に軽く血が滲み、赤い飛沫が飛び散る。

「っつ!」
「ソフィ!!」
 
 痛みで、思わず剣を落としてしまう。

 なんだ……あれは……あの動きはまるでーー人間じゃないか!!!!

「ソフィ!!!」
 
 ヤチヨさんの声で我にかえる。
 異形の緑人間がボクの目の前まで迫っていた。

 なんだこいつは!?

 観測したことがない存在にボクは自警団での報告書の内容などを一瞬で思い出して該当する存在を照合しようとした。

 答えは……存在しない。初観測された存在だ。他に似た存在は報告されていない。
 
 だが、先ほどの太刀筋を見て確信する。この動きは手練れではない。素人のものに近いと……。ボクはそのまま後ろに飛びその一撃を難なく避ける。
 
 ボクという攻撃対象を失い、剣のような形に変化した腕が地面にめり込み持ち上げるのに苦労しているように見える。
 先ほどは空から降ってくることで単純に落下する速度が生まれていただけだろう。

 ボクはすばやく先ほど落ちた剣を回収し、右肩を庇いながら、転がって連中から距離をとって茂みの中へと隠れる。
 
 改めて傷を確認するが、そこまで深く斬られてはいない。
 念のため、ポケットから簡易用の傷薬を塗りこむ。
 少し、沁みたがそれ以外の痛みはない……。

「ソフィ、大丈夫?」
 
 ヤチヨさんが、心配そうな表情でボクの方へと駆け寄ってくる。

「平気です。肩を切られましたが、かすり傷です。まだ、いけます」
「本当に!? 本当にかすり傷!?」
「えっ、えぇ。大丈夫です」
「傷、見せて」

 ヤチヨさんのすごい剣幕に負け、ボクは右肩を彼女の前へとさらけ出す。
 ヤチヨさんは、その傷を念入りに観察すると、一つため息をついた。

「もぅ……気をつけてね……武器と違って体は代えがきかないんだからね」
「はっ、はい。すいません」

 彼女に軽く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。
 しかし、彼女もところどころに擦り傷や軽い切り傷を追っていた。先ほどの剣幕もありそのことについては追求はその場で出来ず、言葉を飲み込んだ。

「あの……ボクは、本当に大丈夫ですので、その、もっとボクを頼ってください」
「えっ!?」
「ヤチヨさんは一人で戦ってるわけじゃありません。ボクもいます!!」

 ボクのその言葉を聞いて、ヤチヨさんの表情がようやく和らぐ。

「そう……だよね。わかった。頼らせてもらうね」
「はい、いきましょう」
 
 しかし、ボクたちが茂みから出るとやつの姿はなかった。

 だが、少し遠く視線の先に見えた景色には先ほどの緑色した存在と同じ人型が十数体ほどが列をなして、人のいる住居エリアへと進軍していた。
 
 なんだ……あれは、今までのロボットとはまるで違う……まさか……新型……だとでも言うのか……。

 見た目は、人間のような姿をしているのに。

 先ほどは動転して見たことがないと言ったがどうにも既視感がある。

 どこかで見たことがある。気がする。

 なんだ? 何がどうなっているんだ……。

「最近良く見かけるようになったっていうあの鉱石の色みたい」

 ヤチヨさんの一言にハッとなる。
 確かに、よく似ている気がする。
 何か関連性が?

「……」
「あいつら! あたしらは眼中にないってこと?」

 人に近しい姿をしているのに、さっきまでのロボットと同じく、威嚇射撃にも怯まず、ただ前を歩いていく。その姿はとても不気味に思えた。

「ヤチヨさん!! 落ち着いてください!」

 焦るヤチヨさんをなだめて、冷静になるように促す。

「……ソフィ、あいつらを止めなきゃ! 何か方法は?」
「ここから直ぐ近くに自警団の非常用倉庫があるのでそこなら―――」
「ダメっ! それじゃ、遅い、かも……仕方ない……あんま使いたくなかったけど……」
 
 ヤチヨさんが苦虫を噛んだような表情を浮かべて、懐から、小さなボールのようなものを取り出した。

「……それは? なんですか?」
「手榴弾っていう旧時代の武器を模したエルム。こんな小さいのに銃の何十倍もの破壊力があるんだって」
「えっ!? なんでそんなもの持ってるんです!! 貸してください! 危険です!!」

自警団の許可なしにそんな危険なものを所持するなんて、確かに銃は持たせていたけどこんなものまで所持しているなんて。

「今は、危険かどうかなんてどうだっていいでしょ!」
「どうだっていいはずがーー
「耳、塞いで 伏せて! ソフィ!! あっ、目も一応瞑っておいて!!」」
「ですから、どうだっていいはずがーーうわっ!!」
 
 ヤチヨさんがボクの忠告を無視し、手榴弾から何かを引き抜いて、そのまま彼らの方へと思いっきり投げ飛ばす。
 空中でクルクルと回転しながら、彼らの進行方向の少し先に手榴弾が落ちたその数秒後、ドカーンというすさまじい爆発音と、爆風がボクらを襲った。
 
 ボクは、言われた通り地面に伏せ、耳を塞ぎ、目を閉じていた。にも関わらず耳鳴りのようにキーンと音が響いている。

「やった……?」
 
 ヤチヨさんが、上体を起こし、手榴弾を投げた方を見る。煙ではっきりとその姿は見えないが、これだけの威力だ……ただではーー。

「……えっ!? ……」
「そん、な………」
 
 あれほどの大きな衝撃があったにも関わらず、動じる様子もなく、破損するでもなく、緑色の者達はその歩みを進めていた。
 
 だが、効果がなかったわけではない……周辺には、先ほどの爆発によって破損、壊れた連中の体の一部が転がっており、あの爆発により、何体かは完全に動きを止めたものもいた
……。

 今、抱えている問題の根本的な解決にはいたらなかった。
 
 その光景を見て、ボクは正直どうしたらいいのかもうわからなかった。

 こんな時、フィリアさんがいてくれたら……。

 彼がこの場所にいたらこんな時でも、なんとかしてくれるはずだ……

 でも、フィリアさんはここにはいない……

「ボクはなんて弱気な事を……くそ」
 
 結局、ボクはフィリアさんに頼る事しか出来ないのだろうか……。



つづく

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