Sixth memory (Sophie) 01
良い子でいなくちゃ……昔から、そう思って生きてきた。
父さんや母さんに迷惑をかけないよう……みんなが言うことには正しくても間違っていても従った。
ボク自身、納得のいかないこともたくさんあったし、喉の奥から発しかけた言葉を飲み込み、周りに同調して過ごしてきた。
そんなことを繰り返し繰り返し、延々と続けていたからなのだろうか? いつしか、心の中にはあったボク自身の意思はどこかへ消え去ってしまっていた。
でも、それは仕方のないことだ……だって、それは、ボクだけじゃなくて、みんな、いつしかそうなってゆくのだから。
「ソフィ! もうへばったのか?」
「すっ、すいません」
倒れこんだ時に、口に土が入る。ジャリジャリした触感と苦みが拡がる。
「なぁ? いい加減、諦めたらどうだ? お前みたいに貧弱じゃ、正規入団なんか到底無理なんだよ!」
「っぐ……そんな事は!!」
そんなことは、ボク自信が一番わかっている。でも、諦めるわけには———
「しつけぇやつだなぁお前も!! いい加減に―――」
「おい、そのぐらいにしておけ」
「あん?」
いつものように先輩に蹴られる、そう思って僕は強く目を瞑っていた。
ボクの眼前まで迫っていた先輩の靴底は、僕を踏みつけることなくその場で止まっていた。
ふと、顔を上げると、青い髪と、綺麗な灰色の瞳の青年が目の前に立っていた。
「ちっ、フィリアかよ! てめぇ、アイン団長に気に入られてるからってあんま調子のんなよ?」
「君、大丈夫かい?」
「えっ、はっ、はい」
「てっ、てめぇ!! 俺を無視すんじゃねぇ!!」
「あっ、危ない!!」
言い終わるより先、その彼は先輩の手を取り、捻り上げていた。
「てってててて」
「……二度と、こんなみっともないことはするな」
「はっ、はい! わかりました」
「……いけ」
彼から、遠ざかるように先輩は遠くの方へと逃げていった。
「立てるかい?」
そう言って、彼は、ボクに優しく手を差し伸べてくれる。
「だっ、大丈夫です!! 一人で立てます」
「……余計なお世話だったかな?」
「いえ、そんなことは……」
「君の所属は?」
「第八団(タウロス)のソフィです。まだ預かりの身ですけど」
「そっか、僕は第七団(アイゴケロス)のフィリア。よろしくソフィ」
「よろしくお願いします。フィリアさん」
これが、ボクとフィリアさんの初めての出会いだった。
その後、フィリアさんは急いでいたようで、それから直ぐにどこかへ行ってしまった。
彼と話したことで、少しだけ気分は晴れたが、やはり、あの先輩の言葉が頭に残っていた。
『お前みたいな貧弱じゃ、正規入団は無理なんだよ!』
他人にはっきりと言われたことで、僕自身もそうかも知れないという気持ちが膨れ上がっていた。
こんな気持ちのままじゃ、午後の訓練には集中できないと思ったボクは、団に休みの連絡を入れてこの場を後にする。
落ち込んだ気持ちを切り替え、明日からまた頑張れるようにとある場所へと向かう。
ボクだけの秘密の場所。
森を抜けた先にある、大きな丘。ボクは、ここを勝手に安らぎの丘と呼んでいる。
「ふぅー」
草の上に寝転がると気持ちの良い風が吹いてきて、目を閉じるとそのまま寝てしまいそうになる。
……本当はこんなことをしている時間など、ないはずなのに……。
太陽の暖かさと、心地よい風に誘われ、ボクはそのまま眠りについた。
「んっ? あれ……ボク……」
「おはよう、ソフィ」
「えっ!? えー!!!」
聞こえてきた声に驚き、思わず飛びのいた。
ボクの横にはいつの間にかフィリアさんが座っていた。
続く
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