Second memory(Sarosu)16
「……もし、あたしがヤチヨだよって言ったらどうする?」
ピスティがぽつりと小さく呟いた。
「……はぁ!?」
一瞬で眠気が覚める。いつもの冗談にしてはタチが悪すぎる……。
「驚いた~ぁ?」
「……それが、ウソじゃないならな」
「まっさか~。あっ、信じたの?」
「……寝る」
「機嫌直してよ~。その代わり、今度は本当のこと一つだけ教えてあげるから」
「…………」
「……あたしさ……本当は……ピスティって名前じゃなくて、『ナナセ』って言う名前なの」
「……興味ねぇ」
「ねっ、一回でいいから呼んでくれない?」
「……嫌だ」
「お願い~。一回だけでいいから~」
「……やだ」
「……さっきのことは謝るから、だから……お願い」
そう言った、ピスティの声がさっきとなんだか違う気がして……。俺は、気づいたらピスティの方を向いていた。
はぁ、と小さくため息をついてから俺は
「ナナセ」
と一言呟いた。
「……ありがと。サロス」
ピスティはとても満足げな表情を浮かべていて……その顔がなぜかとても懐かしく感じられた……。
「ピスティ」
「おやすみ、サロス……また、会いましょ」
そう言って抱きしめてきたピスティの腕に包まれたまま、俺の意識は、徐々に深い所に落ちていった――
――闇に溶けるようなまどろみの中で頭の中がぼやけてくる――
――やがてその中に小さい一筋の光のようなものが見えた――
――かと思えば、その瞬間に目の前が真っ白に染まっていき――
――――思わず俺は目を強く閉じた――――
――――――「はっ!!」
「どうしたの? サロス、なんか怖い夢でも見た?」
「うわぁ!! 夢の中にいた女ッッ!? ってか、なんでここにいんだよ!!」
「……なんでって、あなたが、あたしをここに運んだんでしょ?」
ん……俺が、運んだ?
そうだ、確かフィリアと喧嘩しちまって、俺は一人で走ってて……そしたらこいつを見つけて……あれ? 俺……夢でも見てたのか?
「まぁ、助けてもらったし。自己紹介するわね。あたしは、ピスティよ。あなたは?」
「……俺は……サロスだ」
「よろしくね。サロス」
そう言って、ピスティが俺に笑顔を向ける。
なんでだろう……。今日、初めてあったはずなのに……。ずっと前から知っている気がする。
何年も何十年も一緒にいるような不思議な感覚。
「ところで、なんであんなところで倒れて―――」
「ねぇ、サロス。あんた、ヤチヨを助けたい?」
胸が、ドクンと脈打って冷や汗が流れる……こいつは。俺の心が読めるのか?
「どうして俺の心が読めるんだって顔してるわね。それはね、あたしもサロスと同じ目的を持っているからよ」
「……同じ目的?」
「そう、あたしもヤチヨを救い出したいの。あの天蓋から、ね」
正直、驚いた。天蓋について知っている人間がいる。それはわかっていたが、それに立ち向かおうとするやつが俺以外にいるなんて……。
「あんた、何者だ?」
「あたしは、ヤチヨの姉よ」
姉がいる。そんなことは、ヤチヨの口から聞いたことがない。
「その様子じゃ、やっぱりあの子、あたしのこと言ってなかったみたいね。そりゃそうか、あたし、嫌われてるものね~」
そう言って、ピスティが苦笑いを浮かべる……嫌われている。その一言が何故か引っかかていた。
「……あたしね、ヤチヨとは腹違いなの。ヤチヨの母親がいなくなって、ヤチヨの父親が……あの家に連れてきてくれたのよ」
「お前の母ちゃんは……。いや、その様子じゃ言いたくないだろ?」
「……ありがとう。でも、ヤチヨはひどくあたしを嫌ってて。同時に、父親に対しても嫌悪感を抱くようになってしまった……。だから、何年間もあの子は行方をくらましていたのよ」
「それって!!」
「そう、あなたの家にヤチヨが住み込んでいた時期の事よ」
あの頃、、ヤチヨは頑なに家族に関して母親のことしか口にしなかった。ヤチヨが、話さなかった理由……それは、こいつのことを話したくなかったからだったのか……?
「当時のあたしは、あの家に住まわしてもらってる身だったから反抗的なことは何も言えなかった……あの人は……。ヤチヨの父親はヤチヨの母親を思って毎晩、声を殺して泣いていた……。あたしのことなんて、目に入っていなかったんじゃないかな?」
なんだか、かわいそうなやつだと思った。新しい居場所に自分はいない。そんな孤独をこいつは味わっていた。
「……ヤチヨの父親は、毎日毎日ただ静かに酒を飲むような生活をしていた。そうしていれば、自分もどこか遠い世界に旅立てる……そう思っていたんだと思う。 でも、決まった時間にはあたしの分のご飯を作って……。その後は寝てるか飲んでいるだけ。それ以外は本当に何もしない人だった……」
そう、淡々と話すピスティの表情は暗く。あまり言いたくない話のように思えた。
続く
作:小泉太良
■――――――――――――――――――――――――――――――■
天蓋は毎週水曜日の夜更新
声プラのもう一つの作品
「双校の剣、戦禍の盾、神託の命。」もどうぞご覧ください。
双校は毎週日曜日に更新中
双校シリーズは音声ドラマシリーズも展開中!
「キャラクターエピソードシリーズ」もどうぞお聞きください。
なお、EP01 キュミン編 に関しては全編無料試聴可能です!!
そして声プラのグッズ盛りだくさんのBOOTHはこちら!!
→BOOTHショップへGO
■――――――――――――――――――――――――――――――■