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Fourth memory 09

「うわっ! びっくりしたぁ!!」
 
 勢いよく起き上がったあたしを見て、ちょうど様子を見に来ていたヒナタが驚きの表情を浮かべる。

「ヒナタ?」
「おはようヤチヨ。朝ごはん食べるでしょ?」
「うっ、うん」
「ソフィもいるから、準備出来たら呼ぶわ。そしたら、降りてきてね」
 
 ヒナタは笑顔を浮かべそう言って、部屋を出て行った。
 ベッドから出ようとして、手の中の感触に気付く。

 やっぱりあれは、夢なんかじゃない。
 だとするなら……あたしは

 ゴメンね……ヒナタ。

 あたしは手早く着替えを済ませ、窓から飛び降り、外に出る。

 そして、静かに玄関へと侵入し、靴を履きバイクに跨った。

 大きな発進音が静かな朝の空間に響く。

 考えるよりも先に体が動いていた。

 すぐに、二人は気づくだろう……それでも、時間は稼げるはず……だって……。

「あの道は、バイクでも通るのがギリギリだから、車なら降りなきゃならないもの……」
 
 バイクをしばらく走らせていると、やがて、見えてきた。

 目印の大きな幹、それを見つけ、バイクから降りて歩いて向かう。

 幹から数えて三本三番目にある木の先を抜けて、あたしは星の見える丘にたどり着く。

 ここへ来るのは一体いつぶりだろう。

「……想いが集う場所……」
 
 あたしが何かを始めるのだとしたら、きっと、ここしかない……。

「正直、何をしたら良いのか全然わかんないけど……」

 ポケットからピアスを取り出す。アカネさんが渡してくれたサロスのピアスという名前のピアス。

 あたしは、そのサロスのピアスを握って目を閉じる。
 頭に浮かぶのはサロス、そしてフィリアと三人で出会ったあの頃の記憶、ヒナタと出会った頃の記憶、そして、天蓋でサロスとフィリアとの別れの記憶。

『また、、、必ず会える』

 何が出来るかわからない、何をすべきかもわからない。

 けど

 でも

 あたしは

 あたしはもう一度

「導いてサロスのピアス……あたしに、サロスを救う為の力を!」

 その言葉が口から出ると同時に周りから光が集まり出す。、光があたしの体を徐々に包み始める。
 明滅するサロスのピアス。その温かさを感じながらキュッと胸元へ両手で包み込むように握り込む。

「サロスと……みんなとずっと一緒にいたいの! あの頃のように!! だから……お願い!!」
 
 そう願い、、目を開けると同時にあたしの視界はまっ白に染まる。

 思わず強く目を閉じる。見えてはいないけれど、光に飲み込まれていくのが感覚的にわかる。

 飛んでいく視界の白が薄らいでいく、徐々におぼろげながら光は収まる。
 どうしてか、身体の自由が利かない。とてもすごく疲れているような感覚が身体に残る。
 頭もぼんやりとしてまどろみの中にいるようだった。






 未だ晴れないその思考の中で、耳に入ってきた声に心臓がトクンと跳ねる。

「おい! あんた、起きろよ」
 
 聞き覚えのある声にゆっくりと目を開ける。

 その視線の先に、ずっと会いたかった人がいた。

 あたしの体は小刻みに震えていた。

「サロス?」

嬉しさのあまり涙がこぼれる。堪えることなんてできなかった。

……会いたかった。ずっと、ずっと、会いたかった。

「あんた、なんで泣いてーー? つか、何で俺の名前を知ってるんだ? いや、それよりなんでこの場所にーー」
 
 あぁ……そうか。
 この反応で悟る。悟ってしまう。

 このサロスは、サロスであってあたしの知ってるサロスじゃないんだ。

 だって……この世界のあたしは今、天蓋にいるから……。

 あれっ? なんだか、酷く眠い、な……。

「おい! あんた、大丈夫なのかよ!!」
 
 目を開けていられないほどの疲労感が襲ってきて、瞼が重くなり、サロスの声がどんどん遠くなっていく。
 
 今、あたしの目の前にいるサロスは、あたしが知らないサロス。

 でも、彼もきっとサロスで…………昔の思い出が、次々とあたしの目の前に映し出される。

 過去の出来事のはずなのに、今、この場で起きているようにも思えるそんな不思議な感覚。
 
 ……やがて、映し出されたのはあの場面……天蓋の中に消えて行くサロス。
 
 泣き叫んでいる、あたし……。

 サロスの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない……。
 

 もう、二度と失いたくない……だから、あたしは!!!




「おっ、やっと起きたな……その、大丈夫か?」
 
 ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。目の前にサロスがいる。
 
 ……ここは、どこなんだろう? サロスの部屋、かな? 

 違うな……似てるけどちょっと違う……どこなんだろう? ここ……。

「ありがとね、サロス。もう、大丈夫よ」
「えっ!?」
「あっ!!」

 
 サロスが怪訝な表情を浮かべる。しまった。今、目の前にいるサロスはあたしのこと知らないんだった。

「あっ、あぁあなたがサロス君ね! ヤチヨからいつも話は、聞いているわ」
「!? ヤチヨを知ってるのか!? ……あんた、いったい何者だ!?」
 
 サロスが一瞬、驚きの表情を浮かべ、すぐにあたしに敵意のある目を向ける。

「あたしは……えと、んーと、あー、その、そう! ヤチヨの姉よ!!」
「え、あ、姉?」
 
 ……あー、ちょっと無理があったかな? 姉妹がいるなんて言ったことなかったし……。
 
 考えてみれば、サロスに家族の話をしたことなんて、ママのことしか……。

「そう、だったのか!! で、あんた、名前は?」

 え、信じた? いや、それよりなっ、名前!? たっ、確かに、そうよね。

 名前、名前…………。

「おい、どうした? まさか、名前もわからないなんてこと———」
「ピスティよ!!」
「ピスティ?」

 信頼という意味がある言葉。ピスティ。

 あたしを信頼してほしいという願いを込めた名前。

 昔、ママが良く読んでくれた物語の、大好きなヒロインの名前。

 こうして、あたしの名前は、この日から、ピスティとなった。


続く

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