Second memory(Sarosu)03
最近、母ちゃんはベッドの上にいることが増えた。医者にも何度も見てはもらっていたけど、診査の結果はいつも身体に問題は特にないの一点張りだった。
心配をしてくれているのか、自警団の男性が母ちゃんに会いにくる回数は日に日に増えていった。
話している内容は、難しすぎてわかんねぇけど。時折、喧嘩しているように見えた。なんか、あんま良いことを言っていないというのだけは小さな俺にもわかった。
随分と前の事だけど、母ちゃんに今みたいな状態が続くことがあった。そん時は母ちゃんも笑ってたから、俺も特に心配とかはしてなかった。
でも、今回は明らかに前とは違う。母ちゃんは笑って『大丈夫』と言っているが、その笑顔が無理しているように見えた。
何より心配だったのは、最近たまに母ちゃんの姿が透けて見えることが、、、あったから。そりゃはじめは目の錯覚かとも思った、日増しにそう見えることが多くなっていた。
そして、ふとヤチヨの母ちゃんが居なくなった時の話を思い出した。体が透けて見えることがあったと聞いたのを覚えている。当時の俺はその話の全部を信じていなかった。
だって人間が透けるなんてありえねぇと思ってたから。けど、今確かに目の前の母ちゃんが、透けて、見えている。
もしかしたら……
なんて言葉が頭をよぎる。まさか、そんな。そういう言葉と共に頭を強く左右に振り否定はしてみるが、考えはどんどん良くない方向に流れていく。
俺はそれを振り払うかのように、ヤチヨや最近仲間になったフィリアと全力で遊んでいた。こいつらと遊ぶのは本当に楽しかったし、最高だった。
でも、心のどこかで自分の嫌な考えを忘れたいって気持ちがあって、遊ぶことでそれを誤魔化していたのかも知れない……。
最近、母ちゃんとあんまり話していない気がする。
ベッドに寝ていて、家事のほとんどをシスターがやっているからかも知れないが、、、。
俺自身、今の母ちゃんの姿をあまり見たくはなかった。会えば、俺に心配かけまいと作り笑顔を浮かべる母ちゃん。
俺は、母ちゃんの太陽みたいに眩しい笑顔が大好きだった。でも、今はそんな笑顔をみることはできない……それが嫌で現実から目を反らしていた。
そんなことを続けていたから、きっとそんな俺にバチが当たったんだと思う。俺の目には母ちゃんは、ここ数日の間、ほとんど姿が見えなくなっていた。存在感がないとか、そういう例えとかじゃなくて本当に見えなくなっていたんだ。
声は、微かにするのに姿が見えない。俺の不安はいよいよピークに達してきていた。ヤチヨは、そんな俺を心配して色々と声をかけてくれるが、その全てが耳障りに感じてしまい、イライラしすぎて、ヤチヨに強く当たることもあった。
前は、そんな俺を見て一目散に飛んできて俺を叱っていた母ちゃんの姿が、今は、ない。
俺の八つ当たりで泣きそうになるヤチヨを慰めていた母ちゃんの姿もない。
決まってそんな日の夜に、俺をギュッと抱きしめてくれた母ちゃんは……
その夜、ヤチヨが母ちゃんの部屋に入っていくのを見た。何を話しているかまでは聞こえなかったが二人とも泣いているみたいだった。
その耳に入る声で、嫌な予感は、更に更に大きくなっていく。
ああ、、、母ちゃんはきっと、、、今夜……俺の前から……
続く
作:小泉太良
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