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57 班戦闘開始前
翌日、オースリー開始前の早朝。今回は特例で開始時間が遅くなっており、同じチームの5名のメンバーでの事前の作戦会議をする時間が設けられることとなった。
「……」(剣の手入れをしている長髪)
「……」(プルプル震えているピンク髪のお団子)
「……」(空を仰いで微動だにしない青髪短髪の少女)
ウェルジア、リリア、そしてネルという名の少女のが先ほどから沈黙している。
「……おい、お前らやる気あんのか? 俺の足を引っ張る気じゃねぇだろうな。だとしたらただじゃおかねぇぞ」
あまりにも静かな沈黙に痺れを切らしたドラゴが思わず悪態をついた。
「ふん、お前こそ、回るのは口だけなんじゃないだろうな」
ウェルジアがドラゴの悪態に過敏に反応する。
「ああ!? 今すぐここでやってやろうかテメェ!!」
どうしてそういう火に油を注ぐ様なこと言うの~みたいな青ざめた表情を浮かべつつ、それを口に出しては言えないリリアがひたすらわたわたして視線を泳がせている。
「はわわわわ」
一触即発になり顔を突き合わせるほどに接近した二人の間に割って入るように首元に短刀が突きつけられる。その動きは刹那的でドラゴは反応しようとしたが出来なかった。
「いい加減にしなさい。無駄な時間はないんでしょう」
ドラゴは舌打ちをしながらも一瞬でその力を認め、その上で反論した。
「チッ、ならさっきからなんで黙りこくって空ばかり見てたんだよ」
「風向きを確認していただけ」
「はぁ?」
ドラゴが半ばイライラしつつ両手を上げてウェルジアから距離を取った。ウェルジアは微動だにせず一言呟いた。
「少しは出来るようだな」
「それはどうも、でもあなたも只者じゃないわね」
そう言ってネルはウェルジアに鋭い視線を向ける。
リリアの視界にはネルの腹部に突き立てられそうな位置に剣先を向けたウェルジアの構えが見えた。
「何が起きたのか全然みえなかったんだけど……」
ゆっくりと両者は視線を外して距離を取った。リリアはどんどん胃がキリキリとしている自分に気が付いた。
(これもしかしなくても、私、足手まといなんじゃ、いや絶対そう……もうやだ)
先ほどのネルと同じようにリリアは空を仰いで硬直した。
「ふぅ、もう一人が来たわね」
「ああん?」
ネルが視線でその方向へと合図を送る。ドラゴがその方向へと視線を向ける。
トタトタと軽快に小走りに近づいてくる生徒の姿を確認した。
見ると晴れやかな笑顔で、その爽やかさにこれから訪れる模擬戦闘の緊張感はまるでない。
「いやぁ、ごめんねぇ。遅くなっちゃって。寝坊しちゃってさぁ。アハハ」
「あ、そっか五人一組だったんだっけ?」
リリアが思いだした様に手を叩く。
「えーと、確か、ヒボン先輩!!」
「そう、よろしくね。僕はヒボン・ヘイボンといいます」
「「「………………」」」
ウェルジア、ドラゴ、ネルの三人は無言になった。
「え、えーとぉ」
リリアが声を掛けようとした時、ポツリと右側から「なんか弱っちそうだなオマエ」ドラゴが悪びれもなくそう言い放った。
ちょっとおおおお先輩に何言っちゃってんの!?と思ったのも束の間、左側からは
「同意だ」
ウェルジアもドラゴに賛同する声が聞こえた。こういう所だけは気が合うのだろうか?とリリアは思う。
ヒボンはケラケラ笑いながら特に気にした様子はないようでリリアは胸を撫で下ろした。
「君たち、自分に正直なんだねぇ。あはは、でもね安心してくれ。僕は確かに強くはないかもしれないけど、それでも二年ここでは過ごして生きているからさ。弱くもないよ」
その言葉に3人がはある程度の納得をするに至る。これまでの半年間の自分たちの生活を考えれば目の前にいる男は自分たちの少なくとも4倍以上の期間をこの環境で過ごしているのだ。弱いわけがない。とそう思えた。
「それに今回の単騎模擬戦闘訓練(オースリー)で指示されている班形式での戦闘という事なら尚更、僕は君たちの役に立てると思うんだよね」
ヒボンはにこやかにそう告げた。ネルは怪訝な表情をして問う。
「今回のというと、この五人一組の編成での戦いの事?」
ヒボンは当りとばかりに顔を綻ばせる。
「そうだよ。見た所、集団戦のノウハウは君たちにはまだないだろうからね。だからまずは、君たちの戦い方やスタイルを僕に教えておいてほしいんだけど」
「……なんでそんなことお前に教えないといけねぇんだ?」
ドラゴが不服そうな表情を浮かべる。
「ううんとね、口で説明するのは難しいんだけど、、、今回は始まるまでの時間もあまりないし信じて話してもらえないかな?」
その言葉にウェルジアが返答を挟まず口を開く。
「……俺は剣で戦う近接戦闘が得意だ。本で学んだのみだがテラフォール流と呼ばれる剣術を元にして戦いをする」
それに次いでネルも口を開いた。
「私は短刀を使い、速さでかく乱したり、隠れての奇襲が得意よ。この短刀を遠くから投擲することも出来るから中距離までの範囲で立ち回れる。場合によっては徒手空拳、素手でも大抵の相手は制圧できる能力はあるわ」
舌打ちをしながらドラゴも答える。
「チ、剣は少しばかり使えるから予備に持ってるが、才能はねぇ、基本は拳だ。だが剣を使う友人に対抗できねぇから親父の真似をして学園に入ってからは斧を使い始めた所だ。筋力なら誰にも……いや、マキシマム先生以外には負けねぇ」
口元に人差し指を当てて視線を上げてリリアは入学当時の事を思い出していた。確かドラゴはマキシマムの事をジジイと呼んでいた。この半年間に心境の変化でもあったのだろうか?
視線を下ろすと他の全員がリリアを見つめていた。
「あ、えっと、私は……何も出来ないです。戦いとか、それこそ喧嘩とか嫌いだし怖いから何もできないです!!」
リリアは大きな声でドヤ顔でそう言い放った。この半年で彼女も学んで成長していた。中途半端な答えでは色々な事に巻き込まれるので絶対にイエスかノー、そして、出来ない事ははっきり伝えておく。こういうことが大事であるとこの学園での彼女なりの処世術を身に着けていた。
勢いのままに親指をぐっと全員に向かって突き立てた。
一部の生徒(主にショコリー)などには無理を押し切られ、流されることも未だに多かった。しかし一般の生徒相手には戦わずに事を収める術は今のリリアにはある。
「あっはは、君、真面目な顔して面白いね」
ヒボンは腹を抱えて笑っていた。が同級生の三人は目がマジで怖かった。リリアはそれを見て青ざめる。が出来る事は戦いに関係はなくとも伝えておかなくてはと息を大きく吸い込んで一つだけ訂正した。
「ご、ごご、ごめんなさい。何もできないというのは訂正します」
4人は不思議な表情をした。
リリアは先ほどよりもさらに大きく息を吸い込んで大きな声で
「歌が、うたえます!!!!!」
と真っ向から叫んだ。
「……………………うた……って……なに????」
この場のリリア以外の4人が瞬間に固まり、そこに狙ったかのように一陣の風が吹き抜けていった。
ヒューーゥウウウウウ
続く
作 新野創
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