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Eighth memory 15 (Conis)

 ワタシの居た地面が崩れていき、ゆっくりゆっくりと下に落ちていくのをワタシはただ感じていることしかできませんでした。

 世界がぐるぐると回っているような感覚。

 きっとこのまま動けないワタシは何も抵抗できず、ワタシの体は地面に叩きつけられるのだろう。

 そうやって誰にも知られないまま一つの命の終わりがくる。
 

 けれど、そうはなりませんでした。


 地面と衝突する瞬間、二つの手のような何かが優しくワタシを受け止め、ゆっくりと身体が地面に寝かしつけられるようにされ、ふわりとした浮遊感が身体を包み込みました。
 なんだか、懐かしいような安心するような匂いがした気がしましたがワタシにはその匂いがなんなのかは、最後までわかりませんでした。
 頭の中で何かを思い出そうと、パチパチと何かが弾けるような音を鳴らしています。

 ワタシは、忘れてはいけない。忘れたくなかった何かを忘れてしまったのだという事だけはそこで理解出来ました。
 まだ目がチカチカしていましたが、ゆっくりと体を起き上がらせ、辺りを見渡します。白く飛んでいた意識が徐々にいつもの視界へと戻りつつあります。

 ぼんやりした目を軽くこすりながらもう一度目を凝らしました。
 見たことのない場所。周りには何もなく、ただ巨大な扉のようなものがあるだけでした。

 門にある巨大な扉が閉じたり開いたりを繰り返している。
 その様子はまるで生きているようにさえ見えました。
 ゴォーゴォーとする大きな音は怪物の泣き声のようで、ワタシは恐怖を覚えます。

 けれど、ワタシの足は不思議とその門の方へと一歩また一歩と吸い寄せられるように、恐れる心とは裏腹に近づいていきます。
 呼ばれている。ワタシはそう感じたのです。


 やがて目の前まで来た時、その門がワタシを迎え入れるようにその扉を口のように大きく開くと、ものすごい風と共にワタシはその中へと強い力で吸い込まれていきました。
 
 その強い風に再び目を瞑ってしまい、視界は遮られます。
 耳に聞こえていたゴォオオオという風と扉の開閉音のような音が混ざりあった響きが徐々に遠ざかっていきます。



 たどり着いた場所は、さっきまでいた場所にとてもよく似ていましたが、肌に感じる空気がまったく別で、ワタシの知らない場所でした。
 視線を上げると何かを守るように2つの大きな人型の像がその場所には立っていました。

 それはまるで、揺り籠で眠っていたワタシの仲間達のようにも見えて首を傾げます。

 その時、前方を見ると何かが落ちてくるのが見えました。
 まるであの時の自分のように落下していく。
 落ちてくるのはワタシと同じで、人のようでした。
 綺麗な白銀の髪をしたその人がゆっくりゆっくりとワタシのいる位置まで落ちてきます。

 ワタシは、落ちてくる誰かに向かって駆け出しました。真下に辿り着き上に向けて両手を伸ばしました。
 すると、ワタシの背中から何か大きな翼のようなものが現れその人の身体を包み、そのまま地面へとそっと降ろしたのです。背中から現れた翼はスゥっとすぐに消えてしまいました。


 落ちてきた人のそばへとしゃがみ込むと小さくではありますが、息をしています。
 大きな怪我をしている様子もありません。
 とはいえ、どうする事も出来ないワタシはその人をその場に残し、辺りを見渡しました。
 ここはワタシが居たはずの揺り籠ではないことがすぐにわかりました。
 では、ここは一体どこなのでしょう? 
 ワタシは何故ここにいるのでしょう? 

「そうです……確か何か大きな門のようなものにーー」

 辺りを見回しても、門のようなものは既にそこには存在しません。
 いえ正確には、何もないわけではありませんでした。辺りには、緑色に変色した何かが沢山転がっています。
 その時です。遠くから足跡が聞こえました。ワタシは咄嗟に物陰に姿を隠しました。
 何故、こんなことをしたのかはワタシにもわかりません。

 でもどうしてかこの場を見られてはいけないような気がしたからです。

「天蓋の地下ににこんな場所が……」
「おいっ! アイン!! あれは!!」
「居たぞ!! ソフィだっ!! ソフィ!! 大丈夫か!! ソフィ!!」
「んっ……アインさん、ツヴァイさん、ドライさん……? ボクはどうして……」
「大丈夫か?怪我はないか?」
「え、ええ、大丈夫です。そういえばボクと戦ったあの人、は?……いない? 一体どこへ。無事だといいけど」
「少し意識が朦朧としているようね」
「ああ、俺が運ぼう。ドライ。俺の背中にソフィを乗せてくれ」
「分かったわ」

 どうやら、その人の仲間がやってきたようです。ワタシは落ちてきた白髪の人を彼らに任せ、てくてくとことこと歩いてその場を後にしました。
 自分のことを含めて何も思い出せないというのに、ワタシの体は何かを覚えているように、その足と手を当たり前のように動かし歩き、規則的に呼吸をする。
 歩き続ければ疲れを感じ、額に汗をかく。
 でも、ワタシ自身は何故そうなるのかがわからない。
 ワタシの体であるはずなのにワタシではないような感覚。
 それは、とても不思議な感じです。
 しばらく、歩き続けると外への出口を見つけました。

 とても心地よい風の吹く、気持ちの良い場所へと辿り着いたワタシは何をするでもなく、小高い丘のような場所にある木の幹に背中を預けちょこんと両足を抱えて座り込みました。
 とても疲れていたのでしょう、座り込んだと同時に突然の眠気がワタシを襲いました。
 その誘いに抵抗する事も出来ず、身を任せるまま目を閉じました。





 どのくらい眠っていたのでしょうか? 頭にモヤがかかったようにぼーっとしています。
 ふわふわした状態で、ワタシは目を覚ますと立ち上がってゆっくりと歩き出し、木の影から抜け出しました。
 抜け出した先、そこはそよそよとしていて安心する空気があり、心がぽかぽかするような風が吹いていました。

 薄暗い中でゆっくりと視線を上げると、何か綺麗なものがキラキラと光っています。


 ワタシはそれを見て、目を輝かせました。心が躍り、とても幸せな気分になりました。


「綺麗……」



 と、思わず小さく言葉をこぼしました。
 
 それはいつか誰かと見た気がする。

 そう、誰かと。

 それはとても綺麗な空でした。

 空? って? なに?

「これも……夜空、なのでしょうか………あれ、空? 夜空? とはなんでしょうか?」

 この場所がどこかは分からない。でも今はそれでいい。
 見た事のあるような気がする景色が眼下に拡がる中で思わず安堵します。 
 ワタシが、そうしてしばらく空を見上げていると近くから

「こんばんは」
 
 という声が聞こえました。
 声のする方へ振り返るとそこには、白銀の髪をした綺麗な目をした誰かが立っていました。
 どこかで見た気がする? という朧げな記憶も瞬時に霧のように消えていきました。

「……」
 
 でも、ワタシの今のなぜなぜは目の前に現れた誰かよりも、上空に浮かぶキラキラと光るその何かでいっぱいで、まるでそれどころではありませんでした。

「綺麗……」
「……です、ね」
 
 その誰かがワタシの呟いた声に答えてくれました。

 そう、これがワタシと彼が最初に交わした言葉だったのです。



つづく

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