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Second memory(Sarosu)19

 それから、俺の修行の日々が始まった。

 どれほどの間それが続いたのか、もう覚えていないくらい日々が過ぎた頃……。それは、突然訪れた。

「はぁっ!!!」
「うぉぉぉぉ!!」
 
 俺の拳が、ピスティの顔面を掠める。その瞬間、ピスティが小さく笑ったように見えた。

「……んー。よし、ひとまず合格、かな?」
「…………」
「嬉しくないの? ようやく、あたしに一撃入れられたのに」
「わっかんねぇ……」
「サロス?」
 
 あれからひたすらに俺は前を見続けていた……。
 日に日に自分自身が変わっていく……そんな気がしていた。

 ピスティもそれが嬉しいのか俺にどんどん新しいことを教えてくれた。ピスティが使っている武術も昔、誰かに教えてもらったものらしい……。
 
 それが誰なのか……ということは、最後まで教えてはくれなかった。

 それは、これからも教える気はないらしい。けど、そのおかげで俺がここまで強くなれたのも確かだ。

 そして今日……初めて本気のピスティとの組手で一撃を入れることが出来た。

 あの日、ピスティに軽く投げ飛ばされたことから考えれば信じられないことだ……。

 だが、俺は納得してなかった。

「なぁ……ピスティ」
「なーに?」
「お前……何か隠してんだろ?」
 
 俺の言葉を聞いて、ピスティの口元がわずかに上げる。

「……なんのこと?」
「……本気、じゃないよな? ……正直、加減してんだろ?」
「……二年と三か月か……んー新記録、かなぁ?」
「何言って――――」
 
 ピスティのナイフが俺の首筋に突き立てられる。早い。切っ先が、太刀筋が、まるで見えなかった。

「……遊びの時間はおしまい。これからは戦場を想定した修行に移るわ」
「!? 戦場…………!!」
「そう……命の取り合いよ。子供の頃みたいに負けたからもう一回なんて生温い事は許されない……真剣勝負よ」
 
 最近、ピスティに感じ始めていた違和感の正体がわかった気がした。
 
 こいつは、今までまったく本気なんかじゃなかった。俺が気づくまで、ずっと加減をしていたんだ。

 こいつは、本当にどこまで強いんだ……。

「さぁ~サロス。最終段階(フェイズ)よ。あんたには、本気のあたしに勝てるぐらいまで強くなってもらわないとね。でなきゃ、ヤチヨを救うことなんて夢物語よ」
 
 ピスティの口から改めて、ヤチヨを救うという言葉が出る。

 それは今までのただ前を向く、というような段階を越えたという事、ヤチヨを救う道筋が見えてきたという事に他ならない。
 
 ふと、フィリアのことを思い出す。今のあいつはどうなんだろうか?

 ピスティは最初、フィリアは格段に強くなると言っていた。

 なら……今のフィリアはピスティよりも強いとでもいうのか? この本気のピスティよりも?

「休憩時間は終わりよ。油断しなければ死にはしないと思うけど。確実に死ぬ思いはすると思うから、一切気は抜かないでね」
 
 そう言って、笑ったピスティが俺の懐に飛び込んできた。不味い……。この距離はこいつが一番得意なーー。

「ふぉおぉぉぉ!!!」
 
 まともな一撃を食らう。拳が重い。まるで大男の一撃を食らったみたいな衝撃だった。

 脳が揺れて、意識を失いそうになる。辛うじて唇を噛んで意識を繋ぎとめる。唇から血が垂れ、口の中に血の味が広がる。

「合格~。最初にしては上出来ね」
「へっ! 伊達に修行してきたわけじゃ―――」
 
 言い終わるより先に、高速で何かが飛んできて近くの木を抉る。ふと、ピスティを見れば小さな拳銃を握っていた。

「安心して、殺傷力は抑えたものに変えているから。ただ、当たるとものすご~く痛いから。十分気をつけてね」
「おっ、おい! ピスティ! お前!?」
「さ、第二ラウンド開始っ♪」

 マジかよ……。


続く

作:小泉太良
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