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Seventh memory 01(Narr&Akane)

 あの頃は本当に子供で……

 

 なんでもできる! そう……信じていた……。

 
 
 彼女に出会ったのは……。

 

 彼に出会ったのは……。

 

 【とても、暑い日だった……】

「おーい! ナール!!」

 何もしていなくても背中が汗ばむ、そんな暑い日。少し先の方から今、今日の暑さを体現しているような人影が少年の方に向けて、暑苦しい笑顔を浮かべながら走ってきていた。

 少年の目の前に到着すると、その友人らしき人物は息一つ切らさない、歯をキッと見せた満面な笑みを向けながら、木の上に寝転がっていた彼の方を見ていた。

「……どうしたの? ツヴァイ? 悪いけど……今日は、僕、ゆっくり本が読みたいんだけど」

 ツヴァイという名前の友人に顔だけ向けた少年。ちょうど面白くなってきたところで邪魔をされたようで、彼は少しだけムッと不機嫌になっていた。

「本なんか訓練が終わった後、家に帰ってからでも読めるだろ? それより俺とーー」
「断る」

 言い終わる前にその言葉を遮る。彼が少年を誘って来るときは大概ーー。

「まだ何も言ってないだろ!!」
「言わなくてもわかる、君の言いたいことなんて……」
「じゃあ! 言ってみろ!!」
「筋トレしよう? だろ?」

 一瞬、なんでわかったんだ!? と驚いた表情をツヴァイは浮かべる。
 彼には新鮮なことなのかも知れないが、彼はこのやり取りをもう数百回はしている。
 所謂、お約束、というやつなのかも知れない。

「なーんだ! わかっているならさっさとやるぞ!!」
「やらない!! 僕は、ぜーったいに、やらないからな!!」

 断固として、拒否する意思は彼にとっては無駄なことだ。
 だが、無駄とはわかっていても否定をし続けなければならなかった。
 何故なら、僕の心は訓練が始まるまでの残り少ない時間で今、ちょうど読み進めておきたい箇所に突入したからだ。

「そんなこと言うなよ!! 親友!!」
「ツヴァイ君はそうやって都合が悪くなるとすぐ親友という言葉を使うのはーー」
「相変わらず仲良いのね。羨ましいわ」

 そう言って、いつから見ていたのか少し離れた所で女の子が笑いながら少年たちを見ていた。
 ツヴァイと同じく少年にとって見知った顔、その名前はアイン。
 木の上にいる少年の知る限り、彼らの年齢で彼女より強い子は見たことがない。

 それに、今日は、動きやすそうな恰好をしているところを見ると、今日は訓練に参加するようだ。

「そう思うんなら、アイン、君もこっちに来たら?」

 これ以上は不毛で仕方ないというように本を閉じて少年は下に降りた。スタっといつものように軽く着地し、葉や枝を払いながら聞いていた。

「遠慮しておくわ、私はここで見ている、だって、そっちの方が楽しそうだもの」

 やはりか、とわかってはいるようで少年は一つため息をついた。

 アインは少年と出会ってから今までずっと、自分が当事者になるようなことは何かしらの理由をつけて、蚊帳の外にいて楽しそうに笑って見ている事が多かった。
 
 その彼女の笑顔は本当に楽しそうでツヴァイという少年が何か文句を言っているようだが、既に耳に入ってはいなかった。

 ……どこか少年たちより大人びていたアインは出会ったばかりの頃、少年は彼女の事が苦手だった……今はーー。

「ナールゥー!!」
「うっ、わあぁぁぁ!!」

 突然、少年の背中にとびかかった人物にちらりと目だけを向けて彼は大きなため息をついた。
 奇襲作戦が成功したと感じたかした当の本人は満足そうな笑みを浮かべ降りることもしなかった。

「びっくりしたぁ……イアード……頼むから、次は、もう少し普通に登場してくれないか?」

 イアードは、少年の訴えを聞いて一瞬考えるそぶりを見せたが、やがて笑みを浮かべ 

「ん~仕方ない。善処してあげよう! いっしっし」

 そう言って、誤魔化した。これもこの少年にとってはいつもの光景だった。
 無駄とはわかっていても言いたくなる人物その2に彼の中ではランクインしていた。

「おっ、おねえちゃーん」

 その声に少年がふと後ろを見ると、ぜいぜいと息を切らせながらイアードの背中を追って走って来ていた妹ドライの姿も目に入る。

 イアードは、その姿を確認すると僕の背中から、ぴょんっと飛び跳ねて離れていき、ゆっくりとドライの方へと歩いていった。

「おー大丈夫か~? 私の可愛い妹よ~」
「可愛いと思っているなら、一人で走ってかないで、ちょっとは待っててよ……」

 ドライの目の高さに合わせるように屈んだイアードが頭を撫でてやろうと手を伸ばす。
 しかし、その手をドライが両手でしっかりと掴んで拒否するようにどかし、少し不機嫌そうな表情をイアードへと向けていた。

「どったの? お姫様、今日はずいぶんとご機嫌ななめじゃない」

 いつもなら頭を撫でて終了となるはずのこのやり取りが、今日はちょっとした変化があったらしい。
 心なしかいつもよりもドライのイアードに対する視線が厳しいもののようにも少年たちは察する。
 

「イアード……君、もしかして……また……」
「いや、まぁ、なに……そのぉ……てへっ」

 どうやら僕の予感は当たったようだ。イアードが誤魔化すように舌をペロッとだして、お茶目な笑みを浮かべる。

「てへっ、じゃない! もう、お姉ちゃん、今日は絶対置いて行かないって約束したのに!!」
「ゴメン、ゴメン」

 ドライに対してそう言ったイアードの言葉からは反省のかけらも感じられないようだった
 とりあえず謝っておくか程度にしか彼女は考えていないのだろう。
 本気で駆け出したイアードに追いつくのは、この場に居る中ではアイン以外は難しい。強靭な脚力と速さを持っているのだ……。

 そんなドライの後を追いかけるというのはまだ小さい妹のドライにとっては、彼ら以上に困難なことだろう。

 寧ろ良くぞ見失わずここまで着けたものだと関心すらしてしまうのと同時に……その場の全員がドライには同情してしまっていた。

 その隙をついてこれまで静観していたアインがそっと手を伸ばしてドライの頭を撫でていた。

「はーいドライちゃん、よく頑張ったわね~なでなで~」
「わーい! アインお姉ちゃんだ~いすきぃ!!」

 その瞬間にぎょっとしてイアードは妹に擦り寄っていた。

「ちょっ、ちょっとドライ!! あたしは!!」
「……イアードお姉ちゃん、嫌い!!」

 その言葉にイアードの姉としての何かの矜持がガラガラと崩れ、アインが今日見た中で最も良い笑顔を浮かべていた。

「……つーわけだ! 筋肉は素晴らしいんだ。だから、ナールお前も俺と共に筋トレをーー」
「断る」

 頼んでもいないのに、いつの間にか筋肉の素晴らしさに関して話し始めていたツヴァイを少年は一蹴する。

「みんな、揃ったようだな」

 彼らがそんな雑談をしていると、少し離れたところから声が聞こえた。
 低く、そして、強さを感じさせる声。

 その一言で、少年たち全員の目線がその声へと向けられる。

 その声の主は彼らの訓練の師であり、同時に少年の父でもあった。


つづく

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