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143 抜き打ち実力テスト
「ふんっ!」
目の前の男が背中に手をやり身体を丸めるように前傾姿勢を取りながら飛び出した柄を握りこんで大きく腕を地面へと振り切った。
背中から現れたのはウェルジアの身の丈よりも長さのあるように見える大剣だった。
「はあああっ!!!!」
ウェルジアが腰元から剣を抜き放って上から下へと切り伏せようとする斬撃を下から迎撃すると激しい金属音が響き渡る。
「んぉ? 止めたか? 小娘の様子を見るつもりが、他にも面白いやつがいるようだ……な?」
自分の剣戟を止めたウェルジアを睨みつけた直後、男は眼を見開いた後、細目に睨みつける。その目には微かな困惑の色が見える。
「……お前、何者だ?」
「ウェルジア君!!」
リリアが叫ぶ声で周囲の生徒の目が一斉に男に注がれる。
「ふぅん、ウェルジア、ね。おや、気が付けば他にもチラホラと良さげな奴がいるな」
男は視線の中から周囲を一瞥して瞬時に選別を行い、これまで気付かなかった自分自身を嘲笑うように額をペシペシと手のひらで叩き続ける。
「くく、今の学園ってのはどうなってんだ? 殺気を向けた途端に反応した奴がゴロゴロいるんだが、豊作じゃねぇか、リオルグ事変での恐怖にビビり散らしてる奴らばかりだと思ったがどうして、これまで気付かなかったのやら」
一通り周りを睥睨した後、即座に男の姿は全員の視界から消える。
どこへ消えたと誰もが思うと同時に周囲の生徒の一部の傍で男の声がこだました。
「お前と、お前と、お前、そして、お前もアリかなァ」
そう言うや否や、男の視線に補足された生徒達は男からの攻撃を防ぐような体制で吹き飛んで、広くなっている場所へと集められる。
着地でふらりとバランスを取り直しているその生徒達の目の前に立つ男が笑っている。
「なんだこのイカれ野郎は、いきなり攻撃してきやがったぞ」
「落ち着きなよドラゴ。別に怪我してないんだから」
「それはそうだが、いきなりだぞ。随分と血の気の多い事じゃねぇか」
「だね、学園内に忍び込んだ賊か何かかな?」
「知るかよ、ぶちのめしゃいいだけだろ」
二人のやりとりの中にスッと割ってくる人物が二人の頭を小突いた。
「いた」
「っづっ」
肌寒くなり始めるこんな時期にも関わらず制服の上着も羽織らず、シャツの腕をまくり上げてねじり鉢巻きをしている女が話を遮る。
「待てやそこのボケ二人…ただの賊な訳あるかいな。この人数を瞬時に1か所に集めよったんやぞぉ? 危機感なさすぎやろ」
「ああん? んんだとてめぇ」
「ドラゴ! やめときなよ、先輩だよ」
「知るかよゼフィン。喧嘩売って来たのはコイツだろうが」
「アストリア・ヴィンセント」
ゼフィンが呟くその名を聞いてドラゴは落ち着きを取り戻す。
「はん、リオルグ事変の時に一人で一区画まるごと怪物どもを殲滅した女、だったか。すげぇやつの名前は覚えてるぜ」
「ああ、そんな人が言うんだ、僕らも改めて警戒をするべきだね」
そのやりとりの合間にも男は彼らの近くに音もなく忍び寄っていた。
「戦場ならお前らはさっきの一撃でとっくにもう死んでいる所だから、警戒しても遅いんだけどな」
布を巻いた隙間から覗く視線に射抜かれて身構える。
「この付近にいる生徒で目ぼしいのは、先ほど歌っていた小娘一人と、お前ら4人くらいか」
ウェルジア、ドラゴ、ゼフィンの三人。そしてアストリアと呼ばれた生徒が正面から吹き出す男の圧力を弾き返すように意識を切り替える。
「よし、お前ら、ありがたく思え、テスト開始だ」
そう言うや否や男は真っすぐに突っ込んでくる。
「テストだぁ? ふざけんな、何の捻りもなく突っ込んでくる奴に負けるかよ!!」
対抗するようにドラゴが駆け出していった。
「あんのボケカス、なにさらしとんじゃ!!! 先手取れる訳ないやろが、チッ、これやから力量も測れん勢いだけの一年坊のクソガキはよォ」
アストリアと呼ばれた女生徒は悪態をつき策もなく突っ込んだドラゴの行動を罵倒しつつも死角をフォローするようにドラゴの後方へと追随した。
「早いッ」
その際に同じくサポートをするような判断をしたゼフィンの一歩より尚も早くアストリアは動き出しており、自身の速さには自信があったゼフィンは驚きの余り意識を逸らしてしまう。
「おやぁ、意識が散漫だなぁ。お前が一番4人の中じゃ攻撃に脆そうだが果たしてどう、かなっ?」
「えっ!?」
ドラゴたちが向かっていったはずの相手が何故かゼフィンの横っ面の方から足を突き出してくる。ゼフィンはそれに気付き咄嗟に身体を捻るが間に合わず、掠ったその勢いだけでゼフィンは地面を土煙を上げながら転がっていく。
「ぐっ、いつのまに、ゲホゲホ」
「ゼフィン!!」
視界から消えた相手をうろうろと探してしまう間に後方のゼフィンがやられていた声で振り返るドラゴと追随していたアストリア。
男の今の動きを自分の視界に捉えられない事に焦りを覚える。
「マジもんや、アチシでも捕捉しきれんとかありえへん。ナニモンや」
ゼフィンのやられた後方へと視線を向けた直後にはもう地面に転がったゼフィンしか視界に捉えられておらず、男の姿は未だに視界にない。
「視覚だけに頼るうちはまだまだだな~、噂は聞いていたがこんなものか、ヴィンセントのお嬢も」
「なっ、嘘やろ!? こんなに早く動けるわけ」
「そりゃ動いてねぇからなぁ!!」
そう言ってアストリアの胴体を大剣の柄で軽く小突いた。動きは最小限だがその衝撃は大きく、アストリアは吹き飛ばされる。
「もぉおおおお、クソだらぁ! ボケカス!!! こんくらいなんじゃ、踏ん張らんかい!!」
攻撃を受けて吹き飛ぶも、自分の足へと大声で檄を飛ばして地面に叩きつけ、煙を巻き上げながら制止する。
アストリアが耐える事を見越していたかのように男は追撃のため既に距離を詰め切っていた。先の判断が早すぎて、対応をしきれない。
「良く踏ん張ったじゃないか!! 上出来だ」
「おんどれ!! 明らかに遊ばれとるやないか!?」
ウェルジアは3人の様子をジッと先ほどから見つめていたが、ここでようやく動き出した。
「つまらん小細工はやめろ」
「おっ、まさか、早くも気付いたか。なかなかいい眼をしているようだな」
「そんな子供だましは俺には通用しない」
「クハハ、子供だましか、言うねぇ」
男は楽しそうに高笑いし向かってくるウェルジアへの迎撃に出ようとしたがその場に力強い大きな声が響き渡り、思わず男は大きく溜息と舌打ちをするのだった。
つづく
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