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149 完成した試作品
西部学園都市内にある商業区画の路地裏で細々と営まれている武具店「ラグナレグニ」その店内では三人の少女がテーブルに並べられた試作品を眺めていた。
この学園では上級生になるほど一般的な授業への出席が必須ではなくなり、各自の行動に対して徐々に自由と責任が伴うようになる。
勿論、授業だけに出席し続ける生徒もいるが商才あるものや何か他にやりたいことがある者であればこの商業区画内で店を出すことなども認められている。
先ほどからジッと緊張の面持ちで自分が作った商品を見つめる二人の様子を注視するのは長身の少女セシリー。
見つめられている先にピンク色のお団子頭リリアと大きな青いリボンが特徴の金髪チビッ子、ショコリーが映る。
リリアはテーブルに置かれている小さなナイフを睨みつけるように凝視した後、恐る恐る持ち手を人差し指でツンツンとつつく。
「何してるの?」
ショコリーがジト目でリリアを見ると、額から冷や汗が流れる。
「い、いや、その、大丈夫かなーって」
「なにが?」
「手とか、切れちゃわないかなーって」
「切れるわよ。鞘の中にある刃先を撫でれば簡単に」
「ひぃ」
「だから持ち手があるんでしょ?」
「いや、まぁ、そうなんですけど」
リリアが躊躇しながら触れて離して、触れて離してを繰り返している。
「ショコリーさん、普段武器を持たない人が武器を持つという行動は思っている以上に緊張を伴うものなんですよ!」
セシリーがリリアのフォローを入れるがショコリーは不思議な表情で首を傾げる。
「そういえばリリア。あなたどうやってこの学園の入学試験を突破したの? いえ、それだけじゃなく、この地域に来る直前の関所でも学園へ向かわせても大丈夫かどうか最後のテストのようなものがあったはずなのだけど」
そう言われてリリアは首を傾げる。腕を組んで唸り出す。
「う、う~~ん……試験、ですか??」
ショコリーは更にジト目のレベルを上げて話す。
「この学園に入りたい希望者は意外と多いわ。とはいえ全員を受け入れる事も難しい。だから、将来性や適性、才能の有無を判断する実技などの機会を学園が設けているはずなのだけど」
記憶の底からリリアは何かを引き出そうと唸り続けてパッと目を開けた。
「……あっ!」
「思い出したの?」
「歌を歌いました!!」
「は?」
ぽかんとするショコリーを傍目に身を乗り出すようにセシリーの顔がリリアの眼前に迫る。
「そ、それで通ったんですかリリアさん?」
「ち、ちかいです。セシリー先輩」
ショコリーは目を丸くして固まったままだった。
「特技を披露してくださいって事だったので」
ここでようやく青いリボンが大きく揺れて、これ以上この話を続けるのは不毛と判断した。
「そう、良くここに入れたわね。おめでとう」
最早、そのコメントすらも適当になり始めていたが、リリアはそんな空気も読めず話し続ける。
「他には何かできる事は? って聞かれたんですが、他は何もできる気がしませんって正直に言いました! そしたらもういいよって」
「そういうことあるんですね」
セシリーは珍しい出来事に興味津々だが、ショコリーは飽きてきたので本題に戻していこうとした。
「……まぁいいわ、さ、セシリーが打ったそのナイフ、早く持ってみて」
「そ、そうでした」
リリアはそっと持ち手に指を回し入れて握る。一度そのまま大きく息を吐いてから「むっ!」という掛け声とともに持ち上げてみる。
「も、持てますーーーー! このナイフなら持ち上がります―――――!!」
おおーという小さな歓声と共に見守る二人からパチパチと拍手が起きた。
鞘に入ったままエイエイッと決め顔でリリアはナイフを振ってまるで子供が初めてのおもちゃに喜ぶように無邪気に得意げだ。
「でも、よく考えてみるとリリアはナイフを持てても戦えないんじゃないの。私が作るように頼んだわけだし、今更だけど」
ショコリーがジト目でそう言い放つと途端にテンションが下がる。
「う、それはそうなんですけど、万が一ということもあるのでないよりはいいかなぁって」
先日、双校祭での出来事もあり、より強くそう思うようになっていたリリアは不安げな表情を浮かべる。
いつもタイミングよく自分が危険な時にはウェルジアが側にいることで事なきを得たという場面は多い。
だが、それが今後も運よく続く保証はない。出来る保険はかけておきたいとリリアは思っていた。
迷惑をかけたくないとも思っている。
何より、この学園へ来た目的も自分が怪我をしてしまっては元も子もない。
覚悟だけはここに来るときに済ませている。いつまでも戦えないままではいけないとは常日頃思ってはいた事だった。
とはいえどうすればいいかもリリアには分からない。
「いざとなった時の護身は必要ではあるけど、それは多少なりとも使える前提だと思うわよ」
ショコリーの指摘は最もである。この場所自体に来る者達が必ずしも秀でている者ばかりではないとはいえ、その誰もが何かしらの武器は扱える。
リリアのように武器を持ち上げる事すら困難な生徒がほぼいない為、確かに学園都市内でいざこざにもし巻き込まれることがあれば武器を持っているだけでは役に立たない可能性の方が高い。
「う」
どよーんとした空気を醸しだしたリリアに対して横からキョトン顔でセシリーが口を挟んだ。
「あ、そういうことならぼくが少し教えてあげようか?」
セシリーは自分の腰元からナイフを取り出した。
「ほんとですか? セシリー先輩ってそういえばお強いんでしたっけ?」
ぱぁっとリリアの瞳が輝き、セシリーを憧憬の眼差しで見つめる。
「強くはないかもだけど、弱くもないかなぁ。自分の打った武器がちゃんと使えるか確認するために腕は必要だからね。ぼくが作ったミスリルのナイフの実用試験も兼ねれば一石二鳥だし、いいんじゃないかな」
「……まぁ、確かにそうね。やってもらったら?」
「はい!! お願いします!!」
リリアの大きな響く声が室内に反響する。
「あと、それからこれはその、ショコリーさんに言われた通りにやってみた試作品です!」
セシリーがドンっとテーブルに置かれた長細い箱を見てショコリーがニヤリと笑み浮かべると製作者セシリーもそれに釣られてニヤリとする。
まるで二人とも悪い事をしているような顔で何とも楽しそうに見える。
「これ、なんですか?」
リリアだけがキョトンとした表情で置かれた物を見つめる。
「よくぞ聞いてくれました!!」
「へっ!?」
あまりにも勢いよくセシリーに両手を握られたリリアは困惑する。興奮するとセシリーはどうも他者との距離感を見誤る傾向があるようだ。
「これはショコリーさんから頼まれて作ったのですが、彼女のアイデアが素晴らしすぎて!!」
満更でもない顔でショコリーは鼻高々にリリアを指差した。
「そう、これはショコリーのこれまでの英知の結晶ともいうべき武器なのよ」
「はぁ」
そう言ってショコリーは置かれたその箱の錠前をパチンと外し、ゆっくりと開けた。
つづく
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